2012 Fiscal Year Research-status Report
華南海域における港湾都市の形成と変容過程に関する研究
Project/Area Number |
23760608
|
Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
恩田 重直 法政大学, 政策創造研究科, 准教授 (80511295)
|
Keywords | 都市空間史 / 華南海域 / 港湾都市 / 租界 / 都市改造 |
Research Abstract |
本研究は、15世紀頃からはじまる大航海時代から現在に至る華南海域の港湾都市を対象として、海域を通じた交流を視野に入れながら、各港湾都市の成立、変容、再編の過程を建築史・都市史の観点から明らかにするとともに、空間形成に見られる通時代的な特質および都市相互の影響を総体的に解明することにある。具体的には、①華南海域の港湾都市の空間的特質、②租界の形成と既存の都市空間との関係、③民国期の都市改造の実施過程と都市ごとの相違、④新中国設立以降の都市政策と近年の都市再生、を明らかにすることを目的としている。 平成24年度は、上記①・②を明らかにするために、イギリスのThe National Archives(国立公文書館)とオランダのデン・ハーグにあるNationaal Archief(国立公文書館)にて、19世紀以降の中国における租借地と関係する公文書や地図の閲覧ならびに写真撮影を実施した。とりわけ、土地建物の取引の際に作成された土地契約文書の蒐集に務めた。これらの公文書館に所蔵される土地契約文書は、18世紀から19世紀にかけて当該国や国民が租借した土地に限られるが、これらの文書にはそれまでの一連の土地取引に関する証書が付されるのが慣例であるため、土地建物の来歴を探ることが可能であり、前近代から近代にかけての都市空間の変容を考察することができる。 また、上記③を明らかにするために、澳門歴史[木/當]案館にて、1880年代から1900年代に作成された計画図や建築図面を含む公文書を蒐集し、考察を進めている。その結果、街路を拡幅するとともに街路両側の建物を整備した都市改造が、澳門では1900年前後に実施されたことが明らかになりつつある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の本年度の計画は、初年度の成果にもとづき、研究目的で掲げたテーマ「①華南海域の港湾都市の空間的特質」と「②租界の形成と既存の都市空間との関係」について考察を進めることであった。 本年度は、まず、初年度に実施した広東省西部の歴史的な港湾都市である雷州で実施した実測及び聞き取り調査で得られた成果をもとに考察を深め、日本民俗建築学会の大会において、「広東省・雷州城内における住宅の空間構成について」と題する口頭発表を行った。これは、上記①と深く関係するものである。 また、上記②に関しては、かつて中国に租借地を有していた西洋諸国の公文書館における文献史料に依拠する側面が大きく、昨年度に引き続き、イギリスの公文書館で蒐集に努めるとともに、オランダの公文書館での蒐集も行い、着実に成果を挙げつつある。蒐集した史料は内容にもとづき整理・分類するとともに、都市空間の変容に関する分析を進めている。さらに、澳門の歴史[木/當]案館で1900年前後の都市改造に関する史料を蒐集できたことにより、研究目的の「③民国期の都市改造の実施過程と都市ごとの相違」にかかわる分析に着手することができた。 一方、当初予定していた雷州と広州湾の現地調査が、日中関係悪化の時期と重なり、実施することができなかった。とはいえ、上記の状況を鑑みれば、現在までの達成度は、おおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後も、西洋諸国における文献史料調査と現地調査の双方を実施し、考察を深めていく。文献史料調査では、これまでにイギリス・フランス・オランダの公文書館で得られた土地契約文書を整理・分析することに加え、アメリカにおける土地契約文書の所蔵状況を把握する。これらの分析を通して、華南海域の都市における空間の特質を考察するとともに、その変容を明らかにしていく。また、現地調査では、これらの土地契約文書に記載された場所を特定する作業が中心となる。その上で、これまでに中国国内で蒐集した新中国設立以降の都市政策に関する文献史料をもとに、20世紀後半の都市空間の変容にも言及する。このように文献史料調査と現地調査の双方から考察を進めることによって、実態に即した都市空間の変容過程を解明することができるとともに、中国の港湾都市の通時代的な特質を描き出すことができる。なお、本年度は最終年度となるため、これまでに得られた成果を踏まえて、華南海域の港湾都市の全体像を明らかにしていく。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
最終的に次年度使用額が生じているが、これは、当初予定していた雷州・広州湾の現地調査が実施できなかったことによるところが大きい。 次年度使用額を含めた次年度の研究費で、最も大きな割合を占めているのは旅費である。これは、文献史料調査、現地調査ともに、海外にて実施することによる。アメリカにおける文献史料調査は、平成25年7月に3週間程度の日程で実施する予定である。また、現地調査は平成25年11月前後に実施する予定で準備を進めている。現地調査は、土地契約文書に記載された場所を特定する作業が中心となるため、華南海域の都市を網羅的に回る予定である。これらの一連の調査に際し、データ整理や図面作成などを行う必要があるため、これらの作業に従事する大学院生に対して人件費を支給することが見込まれる。この他に、物品費として、中国都市史関連の図書や現地調査で使用する備品などに、その他として、複写費や運搬費などに使用することを想定している。
|
Research Products
(3 results)