2011 Fiscal Year Research-status Report
聖興寺伽藍再建に見る近代寺院建築技術の継承と地方伝播に関する研究
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23760613
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Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
山崎 幹泰 金沢工業大学, 環境・建築学部, 准教授 (10329089)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 日本建築史 / 浄土真宗寺院 / 近代和風建築 |
Research Abstract |
本年度の研究目的である、建築の実測調査を行った。平成23年6月から7月にかけて、聖興寺本堂、客殿、庫裏の実測調査を行い、正面・側面立面図、梁間断面図、および、客殿・庫裏の正面立面図を作成した。あわせて建物の写真撮影と、三次元レーザー計測による本堂の立面画像を作成した。同じく、6月から7月にかけて、喜多卓郎家に残されていた図面資料一式を借り受け、スキャナーとデジタルカメラにより、電子画像化した。対象となる資料は523点あり、うち聖興寺に関する図面・資料と確認できたものは17点あった。8月から翌24年2月にかけて、すべての画像について基本情報を整理したカルテを作成した。建築実測調査の結果と聖興寺関係図面とを照らし合わせて分析を行ったところ、図面と実際の建物の差異を確認でき、設計変更があったことが明らかになった。本堂軒廻りについて垂木の本数に変更があり、木子棟斎による当初設計図面では広縁の柱間が正面側面とも12枝で計画されていたのに対し、現状の建物では13枝となっている。また、図面にはその変更の旨を記した付箋が付けられ、かつその箇所には「あらき」と記された印鑑も捺されていることから、荒木保太郎による設計変更であることが明らかになった。一方、その点を除いては、木子の当初設計の寸法計画に忠実に従って、本堂が建てられたことも確認できた。東本願寺阿弥陀堂の細部意匠との比較分析からも、虹梁、蟇股、木鼻装飾などにおいて共通する特徴が確認でき、設計における木子の強い関与が確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は二つあり、一つは聖興寺の建築遺構の詳細な記録を作成し、その結果に基づき復原考察と技術分析を行うことであり、もう一つは聖興寺の建築に関する資料を収集、分析し、技術的背景を明らかにすることである。このうち、前者については聖興寺本堂、客殿、庫裏の実測調査を実施し、詳細実測図面の作成と写真撮影を行った。また、三次元レーザー計測により、本堂の三次元測量データと本堂の立面画像を得ることができ、これらをもって詳細な記録の作成について成果を得ることができた。また、実測調査の結果を踏まえ、東本願寺阿弥陀堂の細部意匠との比較分析を行い、棟梁・木子棟斎の設計の関係性を伺わせる、共通する特徴を明らかにするなど、技術分析についても一定の成果を得た。今後、その他の設計変更や竣工後の改変について、さらに調査をして復原考察を進める予定である。後者については、喜多卓郎家に残されていた図面資料一式を借り受け、スキャナーとデジタルカメラにより、電子画像化したうえで、基本情報を整理したカルテを作成した。現在の所、聖興寺に関する図面・資料と確認できたものは17点あり、実測調査の結果との比較により、荒木による設計変更があったことを明らかにした。残る500点余りの資料についても、聖興寺に関するものがまだ含まれている可能性もあり、改めて内容の分析を進める。これらの資料に見られる聖興寺以外の建築との比較による、技術・意匠上の特徴分析、さらに木子の跡を継いだ荒木保太郎に関する情報収集については、今後の課題である。以上の成果を踏まえ、現在までの達成度はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、実測調査の成果と収集資料を対象として、以下の二点を中心に分析を進める。一点目は木子棟斎の仕事に関する分析として、東本願寺阿弥陀堂の細部意匠との比較分析をさらに進めるとともに、木子に関する情報、資料の収集に努める。木子が設計したとされる建築で現存するものは、現在のところ、東本願寺阿弥陀堂と聖興寺本堂しか確認されていない。新たな遺構の発見は困難と考えられることから、木子の周辺からの資料調査(東京都立中央図書館木子文庫、日本建築学会伊東忠太資料など)から、情報収集を図る。二点目は荒木保太郎の仕事に関する分析である。木子の死後、その仕事を継いだ荒木保太郎については、その活躍がこれまで全く知られていない。これまでの周辺調査により、東本願寺阿弥陀堂の再建を木子の元で手伝い、棟札にその名が記されていること、聖興寺近隣の願成寺本堂再建の棟梁を務めたこと、などが分かってきている。また、石川県立歴史博物館に所蔵されている、加賀堂宮大工・荒木家文書との関係についても、引き続き調査を行う予定である。喜多卓郎家の文書についても、聖興寺関係図面の他に、荒木の名前が記された木割書を含む荒木関係の資料と、地元の大工であった喜多家自身の資料とが混在しており、これらを整理することで荒木の仕事に関する分析をさらに進められるものと考えている。実測調査については、図面を整理してさらに精度を上げるとともに、客殿・庫裏などについても追加調査を実施する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究においては、これまで収集した資料データの整理と分析が中心的な作業となる。初年度において、図面作成の進捗状況とソフトの最新バージョンへの更新スケジュールとの関係から、パソコンソフトの購入予定を次年度に先送りしたこと、および比較調査を東本願寺で行うための京都への国内旅費を使用せず、資料のみを用いて比較分析を行ったことから、約55万円の次年度使用額が生じた。そこで今年度は、購入を先送りした実測調査の図面作成を行うために必要なパソコンソフト、および建築写真の画像処理を行うソフトの購入をまず行う。また、収集資料のデジタル化作業を効率的に進めるために、新たなスキャナーを必要とする。こうしたパソコンソフト・周辺用品の購入費用として、約60万円を見込んでいる。また、これらの作業を行う学生への謝金として、時給880円、2名が5時間×20日の100時間おこなうとして、約18万円を見込んでいる。また、資料調査のための国内旅費として、東京往復を3回、京都往復を2回で約21万円、聖興寺での追加調査のための交通費を約1万円の、合計約22万円を見込んでいる。その他に、論文投稿費や雑費として約5万円を見込んでいる。
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