2011 Fiscal Year Research-status Report
III族-遷移金属元素からなる新規熱電変換材料の創製と評価
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23760623
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高際 良樹 東京大学, 新領域創成科学研究科, 助教 (90549594)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 熱電変換材料 / 金属間化合物 / 狭バンドギャップ / 熱電物性 / MEM/Rietveld解析 |
Research Abstract |
本研究課題は、実用化を視野に入れた新規熱電変換材料として有望な、半導体的電気特性を有するIII族(13)元素(Al,Ga,In)と遷移金属(Ru,Fe等)からなる金属間化合物を創製し、(1)p型及びn型材料の作製と(2)性能指数の向上、(3)物性の起源を原子間結合性の見地から、即ち、電子密度分布解析から明らかにすることである。 研究対象となる物質は、遷移金属とIII族元素の比が1:2のRuGa2と、遷移金属とIII族元素の比が1:3のRuGa3,FeGa3,RuIn3である。初年度は、相対密度95%以上の物性評価に資する材料合成方法の確立を行い、基礎的なデータ(電気抵抗率、Seebeck係数、熱伝導率、キャリア濃度、移動度)を取得した。 これらをベース合金として、到達しうる無次元熱電性能指数ZTmaxを緩和時間一定のもと、ボルツマン輸送方程式を用いて計算を行った。なお、計算には、状態密度だけではなく群速度の効果も取り入れた。状態密度の形状から、p型として(即ち、ホールドープにより)高い特性を示すと考えてきたRuGa2は、群速度の効果を取り入れた計算の結果、n型として高い性能を示す可能性が明らかになった。一方、RuGa3及びRuIn3は、ホールドープ及び電子ドープともにZT=1.0を超える可能性が示唆された。 p型材料として高い特性(ZTmax=0.50)を有するRuGa2に対して、種々の遷移金属元素置換を行い、電子ドープを試みた結果、フェルミ準位が伝導帯側にシフトし、n型としての特性を示すことが明らかになった。特に、Ir-Ru置換した試料では、合金散乱の効果により熱伝導率が大きく減少し、高いZT(0.31)が得られた。実際にデバイスを作製するに際し、高いZTを有するn型材料を創製できた意義は大きい。但し、計算から予測されたZTよりは低く、更なる性能向上には有効電子ドープ量を増加させる必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度は、III族元素と遷移金属元素からなる金属間化合物をベース合金として、ホールドープもしくは電子ドープによるp型及びn型材料の創製を試みた。まず、ベース合金に対してバンド計算を行い、状態密度及び群速度を求めた。緩和時間一定の仮定のもと、ボルツマン輸送方程式により熱電特性を計算した。 バンド計算の結果に基づいて、n型材料を創製するという目的のもと、p型としてZTmax=0.50を示すRuGa2に対して、電子ドープを試みた。その結果、Ir-Ru置換した試料では、373Kから1000K程度までの広い温度範囲でn型としての特性を示し、0.31という高いZTmaxが得られた。一方、RuIn3に対して、Co-Ru置換した試料でも同様にn型としての特性が得られたが、ZTmaxは0.10にとどまっている。両試料ともに、電子ドープにより、電気抵抗率は半導体的な温度依存性から金属的な温度依存性へと変化した。また、373KにおけるSeebeck係数は正から負に変化し、ドープ量が増えるに従って、n型からp型に転移する温度が高温側にシフトした。リジッドバンドを仮定すると、Seebeck係数の絶対値及び温度依存性ともに計算結果と良い対応が得られた。 更に、一連のベース合金RuGa2、FeGa3、RuGa3、RuIn3に対して、電子密度分布解析を行うために、SPring-8のBL02B2にて室温における粉末X線回折データを取得した。予備的なデータ解析では、第一原理計算から得られた電子密度分布と対応する結果が得られ、III族元素と遷移金属元素との間に共有結合が観測され、これがフェルミ準位近傍に数百meV程度の狭バンドギャップを形成している起源であると考えられる。 以上に示すような様々な結果から、初年度における「研究の目的」の達成度は高いと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は、III族元素-遷移金属間化合物を対象として、p型材料としてRuGa2(ZTmax=0.50)、n型材料としてIrRuGa2(ZTmax=0.31)の試料作製に成功した。特に、IrRuGa2に関しては、Ir-Ru元素置換による合金散乱の効果により、熱伝導率(格子成分)が有意に減少し、n型材料としてのZT値向上に貢献している。今後は更なる性能向上のために、FeGa3、RuGa3、RuIn3をベース合金として、キャリアドープによる最適化を行い、p型及びn型材料としての性能向上指針を探る。これらの化合物は、計算上はZT=1.0に近い値を示す可能性が示唆されているため、電子ドープ及びホールドープの両方を行う。予備実験においては、キャリア制御が可能で、ベース合金よりも大きなZTが得られることが期待できる。 一方、キャリア濃度を最適化させた系(RuGa2,IrRuGa2)においては、微細な結晶粒界を導入し、フォノン散乱を増加させることにより、熱伝導率の格子成分の更なる低減を図ることが考えられる。具体的には、アーク溶解により得た母合金を、ボールミルを用いてナノ粒子を作製し、放電プラズマ焼結法により焼結体試料を作製する。熱電特性の平均粒径サイズ依存性を調べ、最適な粒径サイズを決定する。 電子密度分布解析に関しては、より高精度の解析結果を得るために、SPring-8にて、低温X線回折測定を行う。試料温度を低温にすることで、温度因子の効果を低減し、信頼性の高い結果を得ることを目的とする。実験的に得られた電子密度分布と第一原理計算から得られている結果と比較し、III族元素-遷移金属間化合物における電子構造と物性との対応を明らかにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究を遂行する上で必要な装置・備品は研究室及び共同利用施設にて利用可能である。母合金の作製に必要な高純度の原料材料、タンタルるつぼ、焼結体の作製に必要なカーボンダイ、パンチ及びBNスペーサーの購入に用いる予定である。
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Research Products
(7 results)