2011 Fiscal Year Research-status Report
ナノチューブ探針による高精度TEM内局所電気計測手法の開発と微細配線評価への応用
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23760626
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
川本 直幸 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (70570753)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 透過電子顕微鏡法 / 電気抵抗 / 局所温度計測 / 熱電対 / ナノチューブ |
Research Abstract |
本研究では、まずTEM内局所電気計測手法における空間分解能の向上を行うため、透過電子顕微鏡(TEM)内に導入可能なカーボンナノチューブ(CNT)微小探針の開発を試みた。走査トンネル顕微鏡(STM)機能を搭載したSTM-TEMホルダー利用することで、予め電解研磨法で先端径を約50 nmに先鋭化したW探針とAu電極上に設置した多層CNTのうちの一本をTEM内で接触させ、電子線照射によるCのスポット蒸着を行うことで、W単身-多層CNT間の接合を図った。さらに電流印加に伴うジュール熱を利用したCNTの切断を行った結果、Wに付着したCNT探針の先端部を10 nm以下に先鋭化することができた。また、本探針の電気的な計測を行った結果、いずれも探針自身が示す電気抵抗値はkΩオーダーで、尚且つ線形のI-V特性を示した。従って、本探針を四端子法における電圧計測用探針として用いれば、探針自身が示す電気抵抗値が無視できる。また、電気計測時にノイズとして発生する熱起電力が減算可能な新たな微小定電流源・電圧測定装置(低抵抗測定システム)を新たに購入した。実際に本装置を利用した四端子法によるTEM内電気計測を試みたところ、電子線照射に伴う計測用探針の帯電や計測回路の変更時の電圧揺らぎ等により生じる意図しない放電現象により、探針と測定試料が破損する新たな課題が明らかになった。 一方で、LSI配線への通電時にジュール熱が微小配線に与える影響を調査するため、局所的な温度計測が可能な微小熱電対の作製も併せて進めた。本研究では、電解研磨溶液の吟味を行うことでCuおよびCu-Niワイヤーをそれぞれ先鋭化先鋭化することができ、新たに開発した2探針STM-TEMホルダーを用いることで、TEM内で微小熱電対を作製することに成功した。本熱電対を用いることで、電子線照射や通電時の試料温度の上昇を直接捉えることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、前例がない高い測定精度と空間分解能を併せ持つTEM内局所電気計測の開発に向け、新たなCNT微小探針の開発や四端子法による高精度な計測が可能な計測機器の導入を進めてきた。当初の計画通り、本計測技術において空間分解能の向上に必要不可欠であるCNT微小探針を作製することができ、従来にない実用的な電気計測用ナノ探針が作製できた。また、TEM内局所電気計測の高精度化に向け、新たに開発した2探針STM-TEMホルダー上への四端子回路の敷設も試みている。本ホルダー内で四端子回路を敷設するためには、被測定試料である1本のCNTやナノワイヤに定電流をTEM内で印加する必要あり、集束イオンビーム(FIB)等の微細加工技法による絶縁基板上に支持させた電極ギャップの作製も引き続き試みてきた。その結果、電極幅が10-20 μmの電極ギャップの作製が可能になり、電極ギャップ間に流れる漏えい電流値も測定限界以下であり極めて小さかった。現在、2探針STM-TEMホルダーのピエゾ駆動機能を利用することで、電極ギャップ間に単独のナノチューブなどの被測定試料をTEM内で支持させる基盤技術の確立も試みており、研究はおおむね順調に進展している。 さらに、研究計画では平成25年度に進める予定であった、局所温度計測用の微小熱電対の開発も先行して開発を進めてきた。本研究では電解研磨法に用いる溶液の吟味により、Cu-NiおよびCuワイヤを先鋭化することができた。ピエゾ機能を用いることで先鋭化したCu-NiおよびCu探針先端部を接合することができ、ナノスケールの接合部をもつ熱電対の開発に成功した。本研究結果は、2011年11月に欧文誌Nanotechnologyで投稿発表し、2012年5月に開催される日本顕微鏡学会で口頭発表を行っている。 以上を総合して、おおむね研究は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の実験結果から、TEM内での微小探針を利用した電気計測を行う際に、電子線照射に伴う微小探針の帯電や計測回路の変更に伴い生じる電圧変化が、意図しない放電現象を引き起こし、試料および計測用探針が損傷することが明らかとなった。そこで、TEM内微小電気計測を行う上で妨げとなる上記放電現象を防止するため、電気計測に用いる電極が、必要な時に接地できる新たな回路を敷設する。次に、これまでに作製してきた金属電極ギャップ上に、実際に単結晶ナノワイヤー等の単独のモデル試料を支持した試料を新たに作製し、定電流印加下のナノワイヤー試料における微小区間の電圧降下を、直接計測する予定である。このとき使用する四端子法の電圧計測用の電極として、これまでに開発を進めてきたCNT探針を用いる。さらに、試料形状や大きさを考慮した電気抵抗の計算値と実際に計測したモデル試料の実験値を比較し、本手法における測定精度の評価を試みる。 また、LSI用多結晶Cu配線や多結晶Cuナノワイヤーにおいて、結晶粒界による伝導電子の散乱がどのように電気抵抗率に寄与するかを調査するため、これまでに開発を進めてきたTEM内微小電気計測手法を応用する。このとき、電気計測と併せて、高分解能TEM観察による結晶粒界等の欠陥評価やエネルギー分散X線分光法(EDS)および電子エネルギー損失分光(EELS)による元素分布評価も併せて行い、電子が拡散されやすい箇所を調査する。 上記研究結果をとりまとめ、学会等で研究成果の発表を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、本研究ではTEM内微小電気計測を行う上で妨げとなる上記放電現象を防止するため、STM-TEMホルダー上のすべての電極が、必要な場合に素早く接地できるスイッチ(電子パーツ)を新たに設計・開発する。本機器を導入することで、帯電により生じる試料および探針の損傷の問題解決を試みる。CNT探針の作製に用いるW探針は、0.25 mmφのWワイヤー(金属ワイヤー)を電解研磨(研磨用品)により先鋭化して作製する。 現在開発を進めている精密な局所電気計測手法を、多結晶ナノワイヤーやLSI用多結晶Cu配線の導電性評価に応用するため、集束イオンビーム(FIB)(現有備品)による配線幅もしくは直径の制御を行った試料の作製を試みる。さらに、低加速のArイオンビーム(現有備品)を利用した測定用試料表面の不純物やGa除去を行った試料の作製を試みる。また、この時、高分解能TEM観察による結晶粒界の構造評価に加え、Cu配線中に含まれる不純物の影響を調査するためのEDSおよびEELSによる元素分析を行う。さらに、現在開発に取り組んでいる高精度TEM 内電気計測手法を、多結晶ナノワイヤーおよびLSI用多結晶Cu配線の電気抵抗評価にも応用し、結晶粒界近傍と結晶粒内の電気抵抗率を比較する。 上記研究結果をとりまとめ、学会等で研究成果の発表を行う。
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Research Products
(5 results)