2011 Fiscal Year Research-status Report
原子クラスターの形態を制御した硫化物熱電材料の開発
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23760628
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
太田 道広 独立行政法人産業技術総合研究所, エネルギー技術研究部門, 研究員 (50443172)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 熱電変換 / 熱電発電 / 硫化物熱電材料 / モリブデン硫化物 / シェブレル相硫化物 / 原子クラスター / 低熱伝導率 / 材料科学 |
Research Abstract |
熱電発電デバイスは、産業・民生・運輸部門から棄てられている膨大な廃熱を再生可能な電気エネルギーとして回収できるため、省エネルギーとCO2排出量削減の観点から大きな注目を浴びている。本研究では、モリブデン(Mo)と硫黄(S)から成る原子クラスターを骨格構造として持つモリブデン硫化物において、原子クラスターとその間に存在する空隙の形態を制御することで、熱と電気の輸送特性の同時制御を実現し、優れたp型の熱電特性を発現させることを目的としている。本年度は、Mo6S6一次元ワイヤーを基本構造としているK3Mo6S6、Mo9S11クラスターを基本構造としているK2.4Mo9S11、Mo6S8とMo9S11クラスターを基本構造としているK2.2Mo15S19を合成して、原子クラスターの形態と熱の輸送特性(熱伝導率)の関係を明らかにした。出発原料であるMo、MoS2、K2MoS4を所定の割合で混合してMoるつぼに入れ、真空中で1413 K、8時間の条件で反応させることで、上記三種類のモリブデン硫化物の合成に成功した。ここで、K2MoS4は、対応する酸化物(K2MoO4)を石英ボートに入れて、673 K、8時間の条件でCS2ガスを用いて硫化させることで作製した。次に合成したK3Mo6S6、K2.4Mo9S11、K2.2Mo15S19粉末をグラファイト型に入れて、真空中で40 MPa、1373 K、2時間の条件で焼結して緻密な焼結体を作製し、その熱伝導率を評価した。熱伝導率は各試料で異なる値を示し、この結果は原子クラスターの制御を通じて熱伝導率を調整できることを示唆している。ユニット・セルがもっとも大きく、かつ二つの原子クラスター(Mo6S8とMo9S11)から成る複雑な結晶構造を有しているK2.2Mo15S19において、熱電材料として有利な低い熱伝導率を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、MoとSから成る原子クラスターを骨格構造として持つモリブデン硫化物において、原子クラスターとその間に存在する空隙の形態を制御して、優れたp型の熱電特性を発現させることである。本年度では、計画していた研究の中で最も困難とされていた原子クラスターの形態を制御したモリブデン硫化物の合成方法の確立に成功した。さらに、Mo6S8とMo9S11クラスターを基本構造としているK2.2Mo15S19において、熱電材料として有利な低い熱伝導率を見出した。合成方法が確立した結果、来年度は当初の予定通り、すなわち、原子クラスターとその間に存在する空隙の形態と、熱と電気の輸送特性の関係を明らかにして、優れたp型の熱電特性を発現させるための研究に注力できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的を達成するためには、MoとSから成る原子クラスターを骨格構造として持つモリブデン硫化物において、原子クラスターとその間に存在する空隙の形態と、熱と電気の輸送特性の関係を明らかにする必要がある。今年度の研究で、原子クラスターの形態と熱の輸送特性の関係が明らかとなり、熱電材料として有利な低い熱伝導率を達成した。来年度は、原子クラスターの形態と電気の輸送特性の関係と、空隙の形態と熱と電気の輸送特性の関係を明らかにして、原子クラスターとその間に存在する空隙の形態を最適とし、優れたp型の熱電特性を発現させる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
予定していた学会への参加が他の出張と重なり、キャンセルしなくてはいけなくなったため、次年度に使用する予定の研究費が発生した。来年度は、主に、試料作製のための出発原料費、試料粉末と焼結体作製に必要な石英・グラファイト型の購入費に研究費を使用する。また、国内・国際学会発表や論文投稿といった成果発表を積極的に行うことを予定しており、それらにも研究費を使用する。
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