2012 Fiscal Year Research-status Report
ナノスケール強誘電ドメイン構造に関するその場観察および原子配列直接観察
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23760632
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 幸生 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80581991)
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Keywords | 圧電体 / 強誘電体 / ナノドメイン / TEM / その場観察 / PMN-PT / MPB / 原子配列 |
Research Abstract |
前年度に引き続き、巨大圧電特性を示すPMN-PT単結晶における特性発現の起源を理解するため、強誘電ナノドメインの電界に対する応答を調べた。未分極試料についての挙動を調べた結果、ドメインの応答が分極処理後の試料と同じくナノドメインの向きを変えることによって起こること、ならびにこの挙動が電圧の印加・解放に対して不可逆であることを見出した。これらの結果から、当該材料を使用する前に行う分極処理時におけるナノドメインの応答が明らかとなった(Sato et al, Appl. Phys. Lett., 2012.)だけでなく、分極試料および未分極試料でナノドメインの挙動が共通であることを明らかにした。これらは本研究で確立したその場観察実験により、初めて明らかになった知見であり非常に意義深い。 また、ナノドメインおよびドメインウォールにおける原子配列を明らかにするため、高分解能STEMによる直接観察を試みた。A,Bサイト両陽イオン位置だけでなくOイオン位置の直接観察にも成功した。また、得られた画像からイオン位置を精密に求めるための画像処理手法の高度化を行い、ガウス関数によるフィッティングで数10~20pm程度の精度でイオン位置の同定が行えるようになった。現在、ナノドメイン構造の詳細な原子配列の解析を進めている。 加えて、単一ナノドメインの結晶構造の理解をより進めるためにドメインウォールの方位解析や電子回折図形の測定を行った。得られたデータを正方晶、菱面体晶、単斜晶相から理論的に予測されるものと比較し検討を進めた。電子回折点の分裂やドメインウォール面などとの整合性を考慮し、成果をまとめている。(投稿準備中、2013)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたその場TEM観察によるナノドメインの動的挙動の観察は円滑に進行した。前年度までに試料ホルダーの使用方法、観察用試料の作製手順、観察時の電子光学条件・電圧印加条件の設定等、その場観察によるドメインの動的観察を可能とするノウハウの構築をすでに終えた。加えて、単にナノドメインの動的挙動を観察するにとどまらず、分極処理済・未分極の各種試料において観察を成功させただけでなく、電圧印加方向の依存性・印加電圧の依存性などもすでにとらえることができており、PMN-PT試料についてのその場観察実験は計画以上の実験成果を得ることができた。 さらにこれらの実験から派生して、TEM像からのナノドメインウォールの方位の検討ならびに電子回折図形を詳細な解析を進めている。これは計画段階では実験に含まれていなかったが、計画が予定以上に早く進行しているため着手することができるようになったものである。未分極処理試料ならびにその場観察で分極処理を行った試料それぞれについて解析を行い、ナノドメイン中の結晶構造についての理解や電界の印加による相転移の可能性などが検討できると想定している。 また、原子分解能STEM観察によるナノドメインおよびナノドメインウォールでの原子配列観察も並行して進めている。すでにA,Bサイト陽イオン、Oイオンの各イオン位置の直接観察を可能とする良好な試料作製のノウハウを構築した他、STEM観察時の撮像条件の最適化もすでに終えている。撮影したSTEM像についてイオン位置を精密に解析するための画像解析技術の構築も進行した。各イオン位置を2次元のガウス関数でフィッティングする技術を構築し終えた。現在、ドメイン構造の解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに実験を行ってきたPMN-PT単結晶に加えて、他の強誘電体試料ならびのそのドメイン構造にも研究の対象を拡げる。新たに実験を行う材料としてはPMNなどのリラクサ型強誘電体試料やPZT,PZN-PTなどのMPB強誘電体試料を想定している。 また、これまでに得られたナノドメインのTEM画像ならびに動画、電子回折図形からナノドメインの結晶構造ならびにナノドメインウォールの方位を再度検討する。正方晶、菱面体晶、単斜晶の各相で可能なドメインウォール方位、電子回折図形などのシミュレーションも併せて行い比較検討を行う。 その場観察によるナノドメインの動的挙動、ドメインウォールの方位・電子回折の解析によるナノドメインの結晶構造の理解、原子分解能観察による原子位置の理解などが総合的に進んでおり、これらのデータを統合した総合的な理解を進め、巨大圧電特性発現の機構について検討する。 本プロジェクトは次年度が最終年度となるため、これまでに得られた研究成果のとりまとめを積極的に行う。学会発表等による成果の公表、論文・解説記事等の学術論文誌等への投稿、ホームページなどを用いた成果の公表などを広く併せて行っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度にはこれまでに実験を行ってきたPMN-PT単結晶だけでなく、他の強誘電体試料についても電圧印加その場TEM観察実験を始める予定である。想定する材料はPMNなどのリラクサ型強誘電体試料やPZT,PZN-PTなどのMPB強誘電体試料であるが、これらの単結晶試料もしくはセラミックス試料の材料購入もしくは原料粉末等の購入に研究費の一部を充てる。 本年(平成24年)度は予定より早く研究成果を得ることができたため、研究計画を一部変更して成果のとりまとめを優先させた。そのため、予定していた実験の一部を次年(平成25年)度に繰り越すことになった。この変更に伴い本年度の予算に残額が発生したが、この費用は上記の材料購入費ならびにTEM観察用試料を加工するときに用いる消耗品費に充てる予定である. これら単結晶材料もしくはセラミック材料からその場TEM観察用試料ならびに原子分解能STEM観察用の試料を作製するためにはTEM観察用の薄膜試料に加工する必要がある。そのために必要となる各種消耗品等の購入に研究費の一部を充てる。 また、①ナノドメインにおけるドメインウォールの方位、②ナノドメイン結晶から想定される電子回折図形、③原子分解能STEM像におけるA、Bイオン位置、Oイオン位置の高精度同定などの各種シミュレーションを行うにあたって、計算時間を大幅に短縮するための高速計算機を導入する予定である。 最後に、これまでに得られた研究成果の公表を積極的に行っていく予定である。成果発表のための学会等への積極的な参加を行う。これは情報収集も同時に兼ねており研究計画にフィードバックすることでさらなる研究計画の加速を狙う。また、各種論文誌等への論文・解説記事等の投稿も積極的に行う。これらの成果発表にも研究費の一部を充てる予定である。
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[Journal Article] Direct Observations of Hydrogen in Crystalline Materials2012
Author(s)
T. Saito, K. Fukunaga, T. Hirayama, S. D. Findlay, N. Shibata, Y. Sato, J. Matsuda, K. Asano, E. Akiba, and Y. Ikuhara,
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Journal Title
AMTC Letters
Volume: 3
Pages: 176-177
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