2011 Fiscal Year Research-status Report
チタン合金を用いたハイブリッド化による複合材ボルト接合構造の比強度と信頼性の改善
Project/Area Number |
23760650
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
中谷 隼人 東京理科大学, 理工学部, 助教 (90584417)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 複合材料 / ファイバメタル積層材 / チタン / CFRP / ボルト接合 / 面圧強度 / 繊維微小座屈 |
Research Abstract |
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は,ボルト穴等の応力集中源により損傷が発生しやすいため,CFRPの適用が進む航空宇宙構造におけるボルト接合部においては,より優れた構造安定性が求められている.本研究では,ボルト接合周辺のCFRP積層板を,厚さ約0.05mmの純チタン薄膜を用いてハイブリッド化することで,複合材ボルト接合の比強度や損傷挙動の改善をねらう.まず,チタンは過酸化水素水による表面処理によってCFRPとの界面における破壊靱性が増加し,CFRP単体の層間破壊靱性と同等の値を示すことを示した.そして表面処理を施したチタン薄膜をCFRPプリプレグとともに積層し,これをオートクレーブ法により成形することで,欠陥のないハイブリッド積層板を作製できることを確認した.次に,擬似等方性CFRP積層板に5枚のチタン薄膜を挿入したハイブリッド積層板の積層構成とボルト接合強度および損傷挙動について評価した.ボルト接合による面圧負荷状態において,CFRP積層板の初期損傷は0°方向(面圧荷重方向)の炭素繊維の微小座屈であり,これが隣接層の損傷を誘発することを予備実験より確認した.この結果に基づき,チタン薄膜をCFRP積層板の0°層を挟むように挿入したハイブリッド積層板では,チタン薄膜が炭素繊維の微小座屈に起因する隣接層の損傷を抑制することで,より大きな面圧荷重を受け持つことを示した.ボルト接合部付近のハイブリッド部から離れるにつれてCFRP積層板単体へとチタン薄膜の含有割合が変化する遷移領域における力学的特性を評価した.遷移領域を有する試験片を用いた引張試験や4点曲げ試験より,チタン箔の先端が互い違いになるような遷移領域を有する場合が最も高い強度を示すことが明らかにした.これらの結果をもとに,次年度ではハイブリッド部の積層構成の最適化と,損傷発生・進展シミュレーションモデルの構築を実施する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チタンを用いたボルト接合部周辺のCFRP積層板のハイブリッド化とその成形方法の確立,および,ハイブリッド部の積層構成の最適化によるボルト接合比強度の改善のふたつを本年度の主な目的としていた.成形方法については,主にチタンの表面処理方法が問題であったが,医科歯科分野においてチタンと高分子が多用されることをヒントに当該分野の文献を調査し,そこで報告されていた過酸化水素水による処理を適用した.これにより,複合材料分野での報告で紹介されているゾル-ゲル法といったものより安価かつ容易な処理によって,良好な状態のハイブリッド積層板を成形することができるようになった.ハイブリッド部の積層構成の最適化については,予定よりも多くの種類の積層構成についての試験を実施することができた.そして,CFRP積層板の炭素繊維の微小座屈に起因する損傷をチタン薄膜によって抑制するという新しいコンセプトを導入し,これによって実験的評価を深めることができた.このため,ハイブリッド化によるボルト接合強度や損傷挙動の変化については,今後のさらなる最適化に有益なデータベースを構築することに成功した.ハイブリッド化に本研究のような非常に薄いチタン薄膜を用いた例はこれまでに国内および海外においても報告がなく,オリジナリティの高い内容となっている.以上のことから,おおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はこれまで実施してきた,遷移領域を含むハイブリッド部の積層構成の最適化を進める.また,ハイブリッド部のボルト接合による面圧負荷試験と,遷移領域を有する場合の力学的特性評価を,それぞれ別の試験片を用いて実施してきたが,今後はこれらをひとつの試験片で同時に評価する.また,準静的な面圧負荷や引張負荷だけでなく,疲労負荷による損傷進展やボルト接合強度の変化にも焦点を当てる.さらに,ボルト接合部を複数箇所導入した比較的大型の試験片を用いた評価も実施し,今後のスケールアップに向けた検討を実施する.上記の実験的評価と同時に,数値解析によるハイブリッド部の面圧負荷による損傷発生・進展シミュレーションモデルの構築を進めていく.主要な損傷モードであるCFRPの炭素繊維の微小座屈はもちろんのこと,マトリックスクラック,チタンおよびマトリックス樹脂の塑性変形を組み込み,実験で得られるような面圧荷重-変位量の関係が再現できるかどうかを確認すると同時に,損傷メカニズムの理解に役立てる.また,この解析モデルを利用することにより,新たなハイブリッド部の積層構成の提案につなげていく.本研究で用いているハイブリッド複合材料は,目視による観察ではもちろんのこと,軟X線等による非破壊探傷によっても,損傷の検知や観察が非常に困難であることが知られている.上記の研究の進み具合によっては,光ファイバおよびLamb波等の弾性波を利用した損傷検知に向けた基礎的な実験を始める.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用の研究費が生じた状況としては以下の2つが挙げられる.(1)当該研究テーマを申請してから研究費交付決定までの間に研究代表者の所属が変更となった.変更先の研究室においてCFRPプリプレグ等の消耗品の備蓄があり,使用期限があるこれらの消耗品の使用を優先したため,新たに購入する機会が少なかった.(2)購入予定であったチタンシートが,(株)住友金属直江津より提供していただけることとなった.次年度使用研究費と新たに請求する研究費を合わせて用いることができるため,次年度以降は充実した評価を実施できる.数種類のCFRPプリプレグ,ひずみゲージ類,機械加工用備品等や,損傷検知に向けた光ファイバセンサおよびAEセンサ類といった消耗品の購入やその他に100万円程度,解析用PCの購入など数値解析環境の構築に30万円程度を予定している.また国内の講演会や国際会議(米国および欧州)への参加も予定しているため,この旅費と学会参加費に残りの研究費を充てたいと考えている.基金化されたことによって,前年度より繰り越した研究費を,研究が活性化してきた2年目に有効に使用できるため,より有意義な研究計画を立てることができている.
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