2012 Fiscal Year Research-status Report
チタン合金を用いたハイブリッド化による複合材ボルト接合構造の比強度と信頼性の改善
Project/Area Number |
23760650
|
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
中谷 隼人 東京理科大学, 理工学部, 助教 (90584417)
|
Keywords | 複合材料 / ファイバメタル積層材 / チタン / CFRP / ボルト接合 / 面圧強度 / 繊維微小座屈 |
Research Abstract |
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は,円孔などの応力集中源により損傷が発生しやすいため,CFRPの適用が進む航空宇宙構造におけるボルト接合部においては,より優れた構造安定性が求められている.本研究では,ボルト接合周辺のCFRP積層板を,厚さ約0.05mmの純チタン薄膜を用いてハイブリッド化することで,複合材ボルト接合の比強度や損傷挙動の改善をねらう. 昨年度は,CFRP積層板に数枚挿入したチタン薄膜によって,面圧負荷において発生する炭素繊維の微小座屈に起因する隣接層への損傷進展を抑制することで,より大きな面圧荷重を受け持つことができることを示した. このような損傷発生・進展挙動を踏まえ,今年度はハイブリッド部の積層構成の最適化を目指し,挿入するチタン薄膜の枚数や,挿入位置について実験的に検討した.CFRP積層板の0°層(面圧荷重方向を0°とする)をチタン薄膜に隣接させると損傷進展の抑制効果が高いため,挿入するチタン薄膜の枚数を増やし全ての0°層をチタン薄膜で挟みこんだ積層構成では最も優れた特性が期待された.しかしながら,この場合はチタン薄膜自体の座屈が発生し,これが積層板全体の損傷挙動に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった.このため,チタン薄膜の枚数と損傷進展の抑制効果の関係については,ある最適解が存在することが示唆された. また,積層構成の最適化に応用するために,有限要素法を用いた損傷発生・進展シミュレーションモデルの構築に取り組んだ.炭素繊維の微小座屈や樹脂き裂,チタンの塑性変形等,各材料の構成式や破壊則を組み込むことで,実験的には段階的にしか理解できなかった内部損傷の連続的な進展について評価できつつある. 来年度は,引き続き解析モデルの構築と積層構成の最適化を進め,さらには光ファイバセンサを用いた損傷発生の検知を扱い,スマート材料としての可能性を模索していく.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チタン薄膜とCFRPを用いたハイブリッド積層板のボルト接合強度の改善に向けた積層構成の最適化と,有限要素法による損傷発生・進展シミュレーションモデルの構築のふたつを本年度の主な目標としていた. 積層構成の最適化については,損傷発生・進展挙動の評価結果に基づく新しい積層構成を数種類提案した.そして,それぞれについて炭素繊維の微小座屈に起因する隣接層への損傷進展に対するチタン薄膜による抑制効果を検証した.挿入するチタン薄膜の枚数や挿入位置によって損傷モードが異なるなど,予想外の挙動も観察されたが,これより興味深い結果を得ることができた.これらの結果よりボルト接合強度の改善のための最適な積層構成についての基礎的な指針を得るに至った. 有限要素法によるシミュレーションモデルの構築については,対象とする材料や現象が複雑であるため,構成式や破壊則をサブルーチンで組み込む必要があり,そこに時間を費やすことになった.特に炭素繊維の微小座屈発生の表現が困難ではあるが,実験と理論の双方からの理解を深めつつじっくり取り組めていると考えている.なお,この解析モデル構築については,当初より来年度も引き続き重点的に取り組む予定である. 以上のことから,おおむね順調に進展しているといえる.
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度である次年度は,(1)有限要素法による損傷発生・進展シミュレーションモデルの構築を続け,さらに(2)光ファイバセンサを用いたボルト接合部の面圧負荷領域の損傷発生の検知に取り組む.光ファイバセンサの一種であるFBGセンサを用いることで,面圧負荷による損傷進展の要因である炭素繊維の微小座屈発生による微小ひずみを検出する.また,次年度に所属する研究室での開発が進んできた,光ファイバひずみ・振動測定センサ(Fiber Optic Strain and Vibration Sensor, FOSVS)の適用により,損傷発生によるAE(Acoustic Emission)を測定する.また,これまでのような準静的な面圧負荷や引張負荷だけでなく,疲労負荷による損傷発生・進展についても,光ファイバセンサを用いた検知方法を確立することで,ハイブリッド積層材のボルト接合部における構造ヘルスモニタリングについての基礎的な評価を実施する. また,これまではボルト接合部を一箇所有する試験片を対象としていたが,このボルト接合部を複数箇導入し,さらに,前年度において実験的に評価した遷移領域(ボルト穴からの距離とともに,ハイブリッド構造からCFRP単体構造へとチタン薄膜の含有率が減少していく領域)も有する比較的大型の試験片を用い,実構造への適用を目指したスケールアップに向けた検討も進めていく.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用の研究費が生じた状況としては,主に以下の2つが挙げられる.(1)研究室に備蓄があったCFRPプリプレグの使用期限内の消費を優先させるために新たに購入する必要がなかった.(2)予定よりも解析モデルの構築に多くの時間が必要となり,実験的評価のための新たな消耗品を購入する機会が少なかった. 次年度使用の研究費と新たに請求する研究費を合わせて用いることができるため,次年度以降は充実した評価を実施できる.研究代表者の所属が変更となることもあり,いくつかの設備備品(CFRPプリプレグ保管用冷凍庫,試験機用備品)の購入に100万円程度の支出を予定している.また,次年度からはCFRPプリプレグやチタン薄膜のほか,光ファイバセンサといった比較的高価な消耗品の購入も必要となり,さらに大型の試験片の作製も合わせて100万円程度を見込んでいる.また,国内の講演会や国際会議(カナダ)への参加も予定しているため,この旅費と学会参加費に残りの研究費を充てたいと考えている. 基金化されたことによって前年度より繰り越した研究費を,最終年度に有効に使用でき,さらに新たな所属先での研究環境の構築にも用いることができるため,より有意義な研究計画を立てることができている.
|