2011 Fiscal Year Research-status Report
生体微量金属元素としてのマグネシウムを用いた革新的な骨力学機能制御の実現
Project/Area Number |
23760669
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
石本 卓也 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50508835)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | マグネシウム / 骨力学機能 / 生体アパタイト / 配向性 / 微小領域X線回折法 / 結晶成長 |
Research Abstract |
本研究の目的は、生体微量金属元素としてのマグネシウムが骨力学機能を制御するメカニズムを、骨アパタイトの結晶配向性、結晶成長過程といった結晶材料学的立場から解明することである。特に骨力学機能は、アパタイトの結晶学的配向性によって強く支配されることから、マグネシウム濃度の変動に対するアパタイト配向性変化挙動の理解が本目的達成には不可欠である。 H23年度は、in vivo(生体内:動物骨でのアパタイト形成挙動)、in vitro(試験管内:人工的アパタイト合成)実験系を確立し、形成されたアパタイトの結晶学的解析を行った。in vivoモデルとして、著しくマグネシウム濃度を低下させたマグネシウム欠乏食を一定期間投与したラットの大腿骨を用いた。in vitroモデルでは、体液模擬環境下にて溶液中のカルシウムイオン/マグネシウムイオン比を制御しつつ、コラーゲンを基板として湿式法にてアパタイト形成を図った。 in vivoモデルでは、マグネシウム欠乏食投与・正常食投与再開に敏感に対応して骨長手に沿ったアパタイトc軸配向性が有意に低下・上昇した。低配向性を示した骨部位においてはヤング率が低下した。一方、in vitroモデルでは、溶液中マグネシウム濃度依存的に配向性が変化し、特定のマグネシウム濃度の場合に配向性のピーク値を示した。このピーク値は正常な大腿骨での配向性値に匹敵した。 以上より、マグネシウムはin vivo、in vitroのいずれにおいてもその濃度依存的にアパタイト配向性を制御することが示され、結果としての骨力学機能を変化させることが示唆された。これはマグネシウムを用いた人工的な骨機能制御につながる有意義な知見といえる。こうした成果は国内学会にて発表したほか、次年度の国際学会(9th World Biomaterials Congress, 中国)にて発表が決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2年間の研究期間を通しての最終目標である、マグネシウムを用いた生体骨のアパタイト配向性・力学機能の制御化に対して、前半のH23年度ですでに、in vitroでの湿式合成時のマグネシウム濃度(マグネシウムイオン/カルシウムイオン比)と最終的な到達配向度との関連性が確立できており、正常骨同等の配向性を実現可能なマグネシウム濃度値まで同定している。さらには、この配向性変化機序について、マグネシウムが、コラーゲン基板上でのアパタイト結晶核形成・成長時のエピタキシャル度合(degree of epitaxy)に影響を及ぼす可能性を見出している。すなわち、マグネシウム濃度によって配向性を人工的かつ任意に制御可能であり、さらに、そのメカニズムの一端に迫ることに成功した。 加えて、本研究を遂行していく過程で、本申請のきっかけの一つとなった、マグネシウム欠乏症の骨が高骨密度であるにもかかわらず低強度である、という事象について、低強度の主要因の一つが、アパタイトの低配向性であることを世界に先駆けて明らかにした。この知見は、骨密度が骨力学機能の絶対的指標であるという従来の概念を覆し、結晶材料学的指標としてのアパタイト配向性の重要性を証明するものである。 以上のように、マクロな観点からの、マグネシウム濃度と配向性の相関性という臨床的に有益な知見を得たのみならず、配向性・力学機能に対するマグネシウムの作用メカニズムに迫ろうというところまで到達していることから、当初の予定以上に研究が進行していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
H23年度には、骨力学機能の支配因子であるアパタイト配向性を、マグネシウム濃度の最適化によって制御することに成功した。今後は、そのメカニズムに迫ることを目標として研究を推進する。 これまでの研究から、マグネシウム濃度によるアパタイト配向性の制御には、アパタイトの結晶成長や、その基板となるコラーゲンとのエピタキシャル関係の関与が示唆されていることから、走査型・透過型電子顕微鏡(SEM, TEM)を駆使してのアパタイト結晶形成過程の直接観察により配向化機構を理解することを目指す。そのためには、SEM, TEMによるミクロ・ナノスケールでの情報と、アパタイト配向性・力学機能というマクロスケールのデータの間の有機的連結を図る必要があることから、SEM, TEM解析と並行して、微小領域X線回折法による配向性の定量化やナノインデンテーション法、DMA法による力学機能(例えばヤング率)の解析を行う必要がある。さらに、コラーゲン―アパタイト間のエピタキシャル関係の重要性が示唆されたものの、その理解のためにはコラーゲンの配列度を定量化し、アパタイト配向性との相関性を定量解析することが不可欠である。コラーゲン配列度の定量化のためには、新たに偏向顕微鏡(現有設備)を適用することで対応する予定である。 最終的に、ミクロ・マクロでの解析で得た定量化データを統計学的に分析し、マグネシウム濃度の変化が骨の力学機能を変化させるまでの作用機序を明らかにすることを目指す。これが達成されれば、骨力学機能の制御法の確立につながる有益な研究成果となると期待される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度研究費に若干の未使用額(24,534円)がある。H23年度は研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行額は若干異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含めて当初予定通りの計画を進めていく。具体的な研究費使用計画を以下に示す。 申請書に記述のとおり、現有設備を用いて研究を効率的に推進する計画のため、新規備品の購入は予定していない。H24年度は、上述のとおり、走査型・透過型電子顕微鏡を用いたミクロスケールでの解析と、微小領域X線回折法、種々の力学試験法、偏向顕微鏡法によるマクロスケールでの解析を行う予定であることから、それらの消耗品(X線発生装置用フィラメント、力学試験用冶具)を購入する。さらに、動物モデル作製のための動物(主にラット)、その飼養に関わる飼料や床敷、生体試料保存、処理用の薬品等が、in vitroモデルのためには、合成に使用する化学薬品が必要となる。以上のような消耗品を「物品費」として支出予定である。金額はH24年度研究費全体の6割弱程度を予定している。 H24年度は、本研究課題の最終年度であることから、研究成果の公表のための研究費の使用を充実させる(合計で研究費全体の4割強)。国内・国際学会参加のための「旅費」として、研究費全体の2割弱を充てる予定である。このうち、国際学会での発表はすでに決定している(6月、中国)。さらに、「その他」に該当するものとして、学会参加費、英文校閲料、論文投稿・掲載料のために研究費全体の2割強を支出予定である。 以上のような計画的な研究費の使用により、研究目的の達成と国内外への研究成果の公表を完遂する。
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