2012 Fiscal Year Research-status Report
3元素系複合含水酸化物を用いた温泉排水の超高度フッ素除去・回収システムの構築
Project/Area Number |
23760720
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
桑原 智之 島根大学, 生物資源科学部, 准教授 (10397854)
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Keywords | 含水酸化物 / フッ化物イオン / 吸着 / 無機合成 / 温泉 |
Research Abstract |
本研究は,Si-Al-Mg系複合含水酸化物(以下,Si-Al-Mg系試料)をフッ素吸着剤として実用化することを目指している。現在暫定排水基準が適用されている個人経営レベルの小規模な温泉旅館を想定した廉価でコンパクトかつ一律排水基準の達成可能な高度フッ素除去技術を開発し,同時に吸着剤の再生方法・工程の構築と回収されるフッ化物イオンの再資源化システムを確立することが最終目標である。 平成24年度は,Si-Al-Mg系複合含水酸化物に吸着されたフッ化物イオンの「効率的な脱離」と吸着材の「効果的な再生」を可能にする再生液の検討を行った。炭酸ナトリウム,硫酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,塩化マグネシウム,水酸化ナトリウムの濃度をそれぞれ変えた再生液によりフッ化物イオン脱離量を検討した結果,単独溶液では水酸化ナトリウムが脱離液として最も優れていた。さらに水酸化ナトリウムと塩化ナトリウム混合溶液の混合比率と濃度を変えてフッ化物イオンの再生率の観点からターンオーバー試験を行った結果,1.5 mol/kg:1.5 mol/kgの混合溶液において脱離率60%以上,再生率80%以上を6回まで維持することを確認し,効果的な再生を可能にする再生液であることが分かった。なお,脱離率と再生率は一致せず,十分にフッ化物イオンを脱離していない状態でも再生率は高い状態を維持したことから,Si-Al-Mg系複合含水酸化物へのフッ化物イオンの吸着は単純な層間へのイオン交換だけではなく,表面吸着や水中での共沈作用なども生じていることが示唆された。 【要約】 塩化ナトリウム-水酸化ナトリウム(1.5 mol/kg:1.5 mol/kg)混合溶液において再生率80%以上で6回まで繰り返し再生利用できることを明らかにした。今後は固定床吸着装置を想定した試験を行い,貫流容量と繰り返し再生能力について検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は,Si-Al-Mg系試料のフッ化物イオン吸着能力再生条件を確立することを重視した。一般に,吸着材の再生は吸着質の脱離と相関するが,本吸着材は吸着機構が単純なイオン交換のみではない可能性が示唆されており,単純に脱離量のみでは吸着能力が再生されたか否かを判断することが難しい。したがって,再生操作後に再吸着試験を行い,再生率として評価する必要があったことから,想定よりも実験量が増加した。計画では脱離したフッ化物イオンをフッ化カルシウムとしての回収も検討予定であったが,まずは吸着材としての性能評価を優先させる必要があるため,今年度は再生試験を優先させた。その結果,最適な吸着能力再生液を確定することができ,次年度の固定床吸着装置を想定した吸着試験の実施にスムーズに移行することが可能となった。また,計画では再生プロセスには「脱離液」と「再生液」を使い分ける予定であったが,再生液のみでプロセスを完了できることが明らかとなり,大幅なプロセスにおける省力を可能にすることができた。 したがって,Si-Al-Mg系試料を省力的に再生可能な再生液の確定に成功した平成24年度は,計画通りに研究が進行していると判断し,自己点検による評価を(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度において,Si-Al-Mg系試料の吸着能力再生について「最適再生液組成」を明らかにした。平成24年度の積み残しである「フッ素の資源化」に関する検討の優先順位は吸着・再生性能の確認と装置設計よりも低いため,今後は実際の温泉排水処理を想定した装置運転に関する事項「固定ろ床法(固定床吸着装置)の設計」を中心に行うこととする。 固定床吸着装置に吸着材を適用するためには,吸着材を造粒する必要がある。そこで樹脂成形体として粒径1~2 mmのSi-Al-Mg系試料粒状体を作成し,これを固定床吸着装置に充填して実際の温泉排水を原水としたフッ化物イオン吸着・再生のターンオーバー試験を実施する。実機レベルの吸着装置を使用するためには,現状では造粒技術が大量生産に対応していないことから,装置に充填するだけの粒状体の量を十分に確保することが難しい。よって,実機では貫流容量向上を確認するための通水試験を繰り返し行うことが困難と判断し,実温泉排水を対象にしつつもスケールダウンしたカラム試験により貫流容量を測定する。最終的なシステム評価を行うため,既設の実規模装置へスケールアップした際に生じると予想される問題点を抽出する(例えば,スケール生成や懸濁物による目詰まりやそれを回避するための逆洗の必要性など)。フッ化物イオン吸着・再生のターンオーバー回数増加に伴うSi-Al-Mg系試料粒状体の劣化状態の確認と,再生液の繰り返し使用によるリンの濃縮とそれを用いたMAP回収量を把握し,最終的に超高度フッ素除去・回収・回収システムとしての評価を実施する。 得られた結果をもとに特許の出願を目指し,知的財産の確保出来た成果から順に学術論文として成果発表を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は141,999円の未使用額が生じたが,これは研究補助に対する謝金支出が想定より少なかったことによるものである。 次年度は,未使用であった研究費と合わせて,合成したSi-Al-Mg系試料の構成成分相の同定に用いるXRD装置のX線管球の交換(約35万円),合成したSi-Al-Mg系試料の粉砕を効率化するてめボールミル一式(約40万円)を購入する。また,試料合成と造粒に関する試薬等の費用,作成した試料の組成検討のための分析費とする。その他,吸着能力再生に関する試薬,固定床吸着装置を想定したカラム等の部品,送液ポンプ等の小型装置,定常的に必要となるガラス器具,ピペットチップ,シリンジ,チューブ,洗剤,キムワイプ等の消耗品,試薬類,ガス類を購入する。実験補助として謝金(1,000円×80時間程度×3名),旅費(無機マテリアル学会 学術講演会 松江市-米沢市 1回,粘土科学討論会 松江市-高知市 1回),投稿論文費用,書籍,SEMや細孔径測定等の外部依託費を予定している。
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Research Products
(3 results)