2011 Fiscal Year Research-status Report
ゆらぎ解析法による造船所の歩行路環境の安全性評価に関する研究
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23760785
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 太氏 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70432854)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 労働安全 / リスク評価 / 歩行路環境 |
Research Abstract |
現状では、造船所の労働安全の管理者およびスタッフは災害の事後対処に翻弄されており、リスクアセスメントによる災害の事前対処への転換が課題となっている。作業および作業環境の合理的な安全改善を目標とするリスクアセスメントにおいて、安全の改善対策実施の合意形成において所長等の意志決定者と対策実行者の間で合意し易くするために、改善対策の安全性を定量的に評価することを目的とする。本研究では、造船所の重大危惧災害である墜落・転落災害の要因となる身体バランスの崩壊を誘発する歩行路環境について、ゆらぎ解析法による安全性の定量的な評価の検討を行う。 また、労働災害の発生リスクの軽減を図るためには、事故発生のメカニズムを明らかにして、予防策を講じる必要がある。スラットコンベアを用いた造船工場のNC切断工程では、多くの切断部材の寸法からスラット間隔が150mm程度と幅広く取られることが多い。このスラット定盤上を作業者が端材処理、部材消し込み作業のための移動、クレーン作業することがあるが、バランスを取りにくい所を歩行するため、身体バランスを崩す恐れがある。 本研究では、NC定盤のスラットコンベア上の歩行移動について、スラット間隔を変えられるモックアップおよび実際の造船工場で使われている間隔が異なるコンベアにおいて歩行実験を行った。実験の比較から歩行路環境が歩行時の身体バランスに与える影響を調査した。足裏にスラット面から働く足底圧分布のデータの特徴を抽出し、これを基にして、歩行路環境の安全性評価の検討を行った。 スラットの間隔が大きいときは身体バランスが安定した歩行が出来ずに、バランスのゆらぎが大きく、スラット間隔がある値より小さくなると、ゆらぎの全体的な減少が見られることがわかり、身体バランスが安定した歩行を保つにはスラットの間隔や歩行角度は歩行路検討の重要な要素であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、安全性評価の対象とする造船所の歩行路環境をスラットコンベアに集中し、モックアップだけでなく、実際の造船工場で使われているスラット間隔が異なる複数のコンベアにおいて、実際の作業者による歩行実験を行い、検討した。ここでは、スラットの間隔と歩行の角度により足底にかかる支持点が異なることから、歩行時の身体バランスに影響を及ぼすと考えられる歩行路の環境の要因として、スラットの間隔とスラットに対する歩行角度を実験条件として設定して行った。 スラットの間隔が大きいときは身体バランスが安定した歩行が出来ずに、ゆらぎが大きく、スラット間隔がある値より小さくなると、ゆらぎの全体的な減少が見られることがわかった。また、歩行角度が斜め45度と60度では、ゆらぎが概ね極小になることが分かった。これらは、被験者の歩行時の歩行しやすさの印象と一致することを確認した。以上のことから、身体バランスが安定した歩行を保つにはスラットの間隔と歩行角度は歩行路検討の重要な要素であることが分かった。 また、身体バランスのゆらぎの抽出方法の検討では、足底に働く力の作用点に相当する、足底圧分布の荷重中心点の軌跡のゆらぎによる評価を検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、安全性評価の対象とする造船所の歩行路環境はスラットコンベアに絞り、モックアップだけでなく、実際の造船工場で使われている複数のスラットコンベアでも行い、バランスを取りにくいスラットコンベア上を歩行中の身体バランスのデータを収集した。 次年度は、収集したデータを元に、ゆらぎの抽出方法の改善の検討を行う。足底圧分布の荷重中心点の軌跡のゆらぎについては、今年度は足の長さ方向における先端の位置の標準偏差について検討したが、次年度は、実際の歩行中の身体バランスの変化と足底圧分布の相関を調べ、他の特徴量を検討する。また、カオス理論を応用したリカレンスプロットを用いたゆらぎ解析法についても検討を続ける。歩行中は、足底が設置していない状態があるため、足底圧の時系列データは正弦波のような対称性が弱く、パルス波形に近い。このような時系列データに適したリカレンスプロットの検討を行う。以上の検討から、スラットコンベアの歩行路環境のリスク軽減対策について検討を行う。 さらに、作業者が歩行状態から災害の発生に至る可能性のある他の歩行路環境の安全性評価についても検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、安全性評価の対象とする造船所の歩行路環境はスラットコンベアに絞り歩行実験を行ったが、次年度は、他の歩行路環境の安全性評価についても歩行実験による検討を予定している。 歩行実験は、実際の造船所の歩行路環境やモックアップにおいて行う予定である。実際の造船所の歩行路環境については、実験環境を提供頂ける造船所の作業現場に赴いて行い、モックアップにおける実験では、必要に応じて、歩行路環境を模したモックアップを製作する。 さらに、歩行路実験では、インナーソール型の足底圧センサー・シートを用いて足底圧を計るとともに、歩行状態をビデオカメラで撮影する。ゆらぎの抽出の検討では、計測された時系列データの変化と歩行状態の相関を調べる。 リカレンスプロットによるゆらぎ解析の検討では、足底圧分布は1000以上のセンサ・セルで構成されるセンサ-・シートを使って、高速で(100Hz)計測され、非常に大きな時系列データを扱うため、大容量のメモリと高速な演算装置を持つコンピュータで解析を行う。
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Research Products
(8 results)