2011 Fiscal Year Research-status Report
レーザーアブレーション法による光・熱化学反応制御とエネルギー蓄積媒体の開発
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23760792
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
佐藤 雄二 東京工業大学, イノベーション研究推進体, 特任助教 (40422547)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | エネルギー蓄積媒体 / レーザーアブレーション / マグネシウム |
Research Abstract |
太陽光など再生可能エネルギーを利用する技術は多数実用化されているが、これらのエネルギーは間欠的であるため、安定したエネルギーを供給するためにはエネルギー蓄積媒体が必須である。一般に金属の化学エネルギーは大きく、マグネシウムでは酸化反応による発熱エネルギーが25MJ/kgと石炭のエネルギーの30MJ/kgに匹敵する。この化学エネルギーをエネルギー蓄積媒体として利用することが当該申請の目的である。 これまでに低真空状態で酸化マグネシウムにレーザーを照射するとマグネシウムと酸素が乖離することは明らかになっていた。しかし、一度乖離したマグネシウムは再び酸素と結合してしまい、マグネシウムとして捕集される量が少ないことが課題であった。そこでまずレーザー照射時のチャンバー内の酸素分圧に対するマグネシウムの還元率を明らかにした。その結果、チャンバー内の酸素分圧が2.5[Pa]の時には高くなるとマグネシウム生成率は、3.2 [mol%]であったが、酸素分圧を高くすると25[Pa]の時には、およそ半分の1.8 [mol%], 50 [Pa]ではマグネシウムは生成されないことを明らかにし、マグネシウムの還元は、酸素分圧に依存していることを明らかにした。また、レーザー照射によって飛散するマグネシウムの移動距離に対する他分子との衝突周波数を算出した結果、マグネシウム蒸気の併進速度は雰囲気圧力に依存し、マグネシウムの衝突周波数が高くなり、再結合頻度が高くなる。そこで、マグネシウム捕集器とターゲット(酸化マグネシウム)の距離に対する還元率依存性を明らかにし、ターゲット-捕集器間距離が10mmの時、3.2mol%と最も高い還元率になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
低真空状態で金属酸化物である酸化マグネシウムにレーザー光を照射すると露光部のみにエネルギーが注入され、アブレーションが起こる。この光・熱化学反応によって酸化マグネシウムは酸素と乖離して約4000Kの蒸気となって噴出する。単離したマグネシウム蒸気を捕集した結果、金属マグネシウムを3.2[mol%]を得ることが出来たが、エネルギー変換効率は0.3%と低かった。この原因を探るべく、金属マグネシウムにレーザーを照射し、純マグネシウム蒸気を生成し、反応チャンバー内の酸素分圧とマグネシウムの反応割合を測定した。その結果、酸素分圧が低くなると反応割合は小さくなりチャンバー圧力が1x10-3 [Pa]では、約90%以上のマグネシウムを捕集器に堆積させることが出来た。この圧力に対するすマグネシウム粒子の衝突断面積、および酸素との結合頻度を算出し、酸素分圧がマグネシウムの再結合に依存していることが明らかになり、再酸化因子の一つを解明することが出来たと言える。次に酸化マグネシウムにレーザー照射時のスポット径に対する還元率を明らかにした。レーザー露光部から外部に伝わる熱、つまり反応に寄与しない熱伝導ロスをシミュレーションした結果、スポット径が0.8mmφの時には、20%の熱伝導ロスがあったがスポット径を大きくして3.2mmφになると熱伝導ロスが12%となり、スポット径が大きいと熱伝導ロスが小さくなる。一方で、レーザーパワー密度に対する還元率の相関は、パワー密度に依存して還元率も大きく成ることを以前に明らかにしており、レーザーパワー密度に対するスポット径の最適条件が存在することを明らかにした。一方、マグネシウム捕集器の設計が捕集率と還元率を兼ね備えた捕集器が完成しておらず、次年度に持越して試作設計していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
マグネシウムの生成には、雰囲気酸素が還元率に依存していることを明らかにした。一方、マグネシウムと乖離した酸素が発生するため、この発生酸素を固定化し、還元率を高めることが本年度の目的である。発生酸素を固定化するために、シリコンや炭素をターゲットに含有、あるいは雰囲気中に窒素ガス、NF3ガス、SF6ガス、水素ガスなどを充填し、これらの状態でレーザー光を照射する。すると酸化マグネシウムから脱離した酸素が、炭素やケイ素、窒素、硫黄などと結合し、酸素が固定化される。固定化した酸素が気体の場合は、真空ポンプで系外に排気される。固定化した酸素が固体の場合には、ケミカルエッチング法でマグネシウムと固定化酸素を分離し、マグネシウムを得る。このときの各酸素固定化材料の光吸収量および還元率を明らかにし、最適なレーザー波長および照射条件を見出す。さらにレーザーで蒸発させたマグネシウム蒸気を捕集・冷却するためにヒートシンク型の捕集器を試作・設計する。これまではエネルギー源としてはCO2レーザーを用いて還元反応を誘起させてきたが、CO2レーザーは効率が低い。そこで効率の高いレーザーダイオード(LD)、波長808nmを用いて還元反応を誘起し、エネルギー変換効率の高いエネルギー蓄積媒体を確立する。また、レーザー光をチャンバー内に導光するとき、ウィンドウでの反射・損失が避けられない。特に高パワーのレーザーでは、この損失および吸収によるウィンドウのダメージは少なくない。そこでウィンドウでの反射損失を軽減でき、しかも水中での使用が可能なコーティング技術を確立する。ウィンドウに用いた合成石英ガラス表面に、数ミクロンメートル程度のシリコーンオイル層を形成し、真空紫外光を照射し緻密なSiO膜を形成させる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H23年度は会計上の手続きの問題で支出日が遅れたが全額執行は完了している。H24年度は、酸化マグネシウム(H24年度消耗品 ¥50,000)を真空状態にしたSUS製チャンバー内に設置し、CO2レーザー(レンタル品)あるいはLD(レンタル品)を照射する。発生した蒸気を無酸素銅製捕集器(H24年度購入予定 総額\300,000)にマグネシウムを蒸着させる。雰囲気には、Ar、He、N2、SF6、NH3ガスなど(H24年度消耗品 ¥150,000)を充填して各種最適条件を見出す。レーザー照射前後の酸化マグネシウムは、ゲルマニウム製プリズム(H24年度購入予定・¥200,000)を介してFT-IR測定および蛍光分光測定器(現有装置)を用いて測定し、発生蒸気内の温度の空間分布とマグネシウムの空間解析を行う。バルクマグネシウムの評価には、希塩酸水溶液(H24年度消耗品 ¥50,000)中、蒸着したマグネシウムを浸漬させて水素を発生させ、水素検知器(H24年度購入予定 消耗品 ¥98,000)を用いて水素量を特定し、発生水素量から生成マグネシウム量を算出する。その他依頼分析(H24年度消耗品 ¥400,000)として、X線回折測定(XRD)あるいはX線分光測定(XPS)、原子間力顕微鏡(AFM)、ラマン分光測定を行い、レーザー照射前後の組成ならびに結合状態を明らかにし、これを境界条件ならびに初期条件としてシミュレーション(H24年度購入予定¥200,000)を行う。その他、研究成果は国内学会では、応用物理学会、レーザー学会で発表、国際学会では12月にアメリカボストンで開催されるMaterial Research Society Fall Meetingsでの成果発表(H24年度旅費 ¥50,000x3(国内学会)、¥250,000(国外))として経費を使用する。
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