2011 Fiscal Year Research-status Report
析出物/マトリックス界面構造制御による点欠陥消滅促進の機構論的解明
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23760804
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
畠山 賢彦 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (30375109)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 界面 / シンク / 照射 / 析出物 |
Research Abstract |
析出物/マトリックス界面の点欠陥に対するシンク効果を調べる為に、当初計画していたCu-Cr-Zr {Cu-0.9Cr-0.14Zr (wt.%)}合金とCu-Cr{Cu-0.9 (wt.%)}合金について加速器を用いた重イオン照射と超高圧電子顕微鏡によるその場観察を実施した。二段階熱時効(1233 K, 1 h後703 K, 4 h)してCrリッチ析出物を導入した試料を2.4 MeV のCu2+ イオンで673 K, 10 dpa まで照射したが両合金ともボイドは形成されなかった。次に二段階熱時効後にCu-Cr-Zrについては873 K, 4 h、 Cu-Crについては873 K, 1 h過時効しCrリッチ析出物を平均直径5 nm以上に粗大化した試料について、室温、373 K, 473 K, 673 Kの温度で 加速電圧1250 kV、照射量2 dpa(損傷速度1 ×10‐3 dpa/s)までの電子線照射その場観察を行った結果、両合金で室温から473 Kで主に格子間型の転位ループが形成された。Cu-Cr合金の473 K照射では、ループの核生成は特定の析出物/マトリックス界面(数%程度の析出物)のみで起こることが見出された。673 Kでは重イオン照射同様、転位ループもボイドも形成されなかった。Cu-Cr中のCr析出物は、マトリックスとK-SもしくはN-Wの方位関係をとることは知られているが、個々の析出物寸法や形状によってはシンク効果の低い界面が形成され、その場合はその領域を核生成サイトとして比較的低温では転位ループが形成されるが、空孔のモビリティーが十分高い温度では、界面が強いニュートラルシンクとして働き点欠陥集合体の形成を強く抑制することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたCu-Cr-Zr系やCu-Cr系のCr析出物/マトリックス界面については、順調に照射実験を実施し、取得されたデータから界面シンクの機構論的な解明を進めている。それに加え、オーステナイトステンレス鋼(PNC316)の主要な照射誘起析出物とマトリックス界面の3DAP観察結果が得られている他、Cu合金と同じFCC金属の拡張転位の部分転位と積層欠陥部分およびその周辺の原子分布と偏析について原子マップを初めて取得した。転位組織は構造が正確に同定出来、電子顕微鏡でも容易に観察が可能であるため、これらの照射誘起偏析を調べる手法を開発した意義は界面シンク効果の定量化を進める上で各合金における標準のシンクとして用いることが出来る為大変有用である。これらの理由により本研究は当初の予定よりも進捗したと評価出来ると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
超高圧電子顕微鏡観察結果より、定性的なCr析出物/マトリックス界面のシンク効果が明らかになりつつあり、それが強いニュートラルシンクとして作用することが示唆された。このことは、材料開発への応用において非常に重要な知見であるが、機構論的にこの現象を解明するためには、どのような条件で界面シンクの性質が変化するのかを調べる必要がある。解明の糸口としては、照射温度をより低温にし、空孔の移動度を下げニュートラルシンクを転位バイアスシンクに徐々に変化させた場合、欠陥が先ずどのような領域で形成するかを詳細に調べることである。Cu-Cr合金の場合は、473 K付近から転位ループがごく一部の析出物/マトリックス界面で形成され、それが成長し転位線となり移動した後に再び同じ場所に転位ループが形成される現象を繰り返すことが分かった。その格子間原子集合体の形成されやすい界面の構造や析出物/マトリックスの方位関係を詳細に調べ、他の界面との違いを評価する。そのためには、照射その場観察を実施した試料を再度高分解能電顕で観察したり、その観察領域を更に3DAP観察することが有効であると考えられる。これら一連の実験の為の手法開発を行ってから、再度超高圧電顕照射その場観察、その試料の他の装置を用いた再観察を実施する。一方、界面構造を変化させた場合のシンク効果の違いを調べることも重要である。Cr析出物の寸法を変化させることで、ミスフィットの大きさや、ミスフィットの大きい領域の割合が変化し、例えば転位ループの生成率が変化することも予測される。従って、加時効の条件を変えて析出物寸法を系統的に変えた試料や、非整合の析出物を導入した試料(例えば酸化物分散Cu合金)の照射その場観察も実施する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の予定では、既設のTEMに簡易CCDカメラを設置する計画であったが、本学の超高圧電子顕微鏡や汎用のTEMが震災被害による修理のため仕様が変更になったり、学外のCCDカメラ附属の装置を外部利用で利用するよう実施内容に変更が生じたため次年度の使用額が生じた。本年度の研究は、学内で再配分された本課題の間接経費で九州大学の出張旅費を賄い、九州大学の超高圧電子顕微鏡を用いることで実施し、次年度も継続して同装置により実験を継続する予定である。そのため、九州大学への出張旅費を4回分程度計上する。また、次年度研究経費の多くは東北大金研大洗センターにて復旧した透過電子顕微鏡の仕様に合わせて試料ホルダーや備品の整備、それらの消耗品費用に充てる予定である。
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Research Products
(4 results)