2011 Fiscal Year Research-status Report
配位高分子の高秩序細孔により水和イオン半径を認識する新規セシウム捕集剤の開発
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23760836
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
南川 卓也 独立行政法人日本原子力研究開発機構, バックエンド技術部, 主査 (30370448)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 配位高分子 / セシウム |
Research Abstract |
セシウムを高選択的に取り込む捕集剤を開発するためには、セシウムの取り込みが確認されているプルシアンブルーのように、高秩序で交換可能なカウンターカチオンを内包した比較的小さな細孔を持つ化合物を、比較的安価で安定な材料をもとに作ることが重要である。 我々は、安価で安定な配位子であるシュウ酸を用い、上記条件をすべて満たす新規配位高分子(MOF:metal-organic framework)であるRe(NH4)(C2O4)2・H2O (Re = Y, Sm, Gd, Dy, Er, Ho, Er, Yb)及びReCs(C2O4)2・H2O (Re = Y, Sm, Eu, Tb, Dy, Er)の合成に成功した。これらの化合物は、元素分析及び単結晶X線構造解析または粉末X線によって同定された。 また、Re(NH4)(C2O4)2・H2O の錯体をそれぞれCs+を含む水溶液中に浸透させたところ、溶液中のCs+濃度測定や、MOFの元素分析から、これらのMOFはCs+を取り込むことを明らかにした。また、同様の実験から、海水程度のナトリウム塩濃度の水溶液中からもCs+の取り込みが可能であることを明らかにした。これはMOFを使って、Cs+を選択的に取り込む初めての例であり、セシウムで汚染された海水など塩濃度の高い対象物から、セシウムを除染できる可能性を示すデータである。 また、希土類金属は原子番号が大きくなるほどイオン半径が小さくなるため、構造解析と粉末X線測定から、Re(NH4)(C2O4)2・H2Oは原子番号の大きな希土類ほど小さな細孔をもつことを明らかにした。 これをもとに、それぞれでの細孔径でのセシウムの取り込み挙動を探索し、細孔径が大きいほどCs+を取り込む速度が速いことを明らかにした。これはMOFの細孔サイズとイオンの取り込みの関係性を示した初めてのデータである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細孔サイズと取り込める水和イオン半径及びCs+選択性の関係を明らかにするためには、細孔の形状を大きく変化させずに、細孔サイズの異なるMOFを数多く合成し、Cs+の取り込み挙動を比較検討する必要がある。平成23年度は希土類金属を用いてCs+イオンの取り込みが可能な新規MOF(Re(NH4)(C2O4)2・H2O (Re = Y, Sm, Gd, Dy, Er, Ho, Er, Yb))をすでに8種類合成することに成功しており、これらの構造は同型であるため、Cs+の取り込み挙動を比較検討しやすいと考えられる。 このように希土類金属を用いて同型の化合物を作ることに成功したことで、当初はセシウムを取り込める新規MOFについて、1種類ずつ取り込み挙動を調べる計画であり、セシウムを取り込めるMOFが見いだせない場合も想定して実験計画を立てていたが、当初予定していたより多くのセシウムを取り込めるMOFを平成23年度に合成し、構造解析することに成功した。そのため、平成23年度合成用備品類のための物品費や、合成・同定用の装置を借りるための出張費用などが削減された。 セシウム取り込み挙動の解明については、合成数が多いためにデータ数が増え、セシウムの取り込み挙動をまとめることに計画以上の費用と時間を要すと考えられるが、平成23年度に合成したMOFだけでも、細孔サイズと水和イオン半径及びCs+選択性の関係を明らかにできる可能性が高く、自己点検による評価としては順調に研究が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は平成23年度に引き続きMOFの合成及び取り込み挙動の確認を行うとともに、他のアルカリ金属イオンなども混在する条件でCs+選択性を調べる。また、Cs+が含まれたMOFの伝導度測定を行い、細孔中のCs+透過性と取り込みについての知見を得る。 平成25年度は平成24年度に引き続き、MOFのCs+選択性や伝導性を調べながら、Cs+の高選択的な取り込みが可能なMOFを探索するとともに、放射性のCs-137を取り込ませて、MOFの放射線耐性について調査する。選択的にCs+を取り込むことが出来るMOFについては、使用できるpH範囲等の適応条件を調べるとともに、Cs+を含む実廃液からの捕集試験を行う。また、選択性の高いMOFについては、酸化還元や他の金属イオン、もしくは様々な酸等により、MOF内から放射性Cs+を取り出し、捕集剤として再利用する試験を行う。 また、研究から得られた知見は、平成24年度からはさらに広く報告、発表を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、マススペクトル、原子吸光、元素分析及び電導度測定器を使ったCs+の取り込み挙動の解析を詳細に行い、取り込み挙動とMOFの細孔サイズの関係を明らかにする予定である。平成23年度に予定より多い数のCs+を取り込めるMOFを合成できたこともあり、これらの測定に必要な消耗品、元素分析測定費、装置を借りるための出張費用などが、当初予定以上に必要になったため、平成23年度からの繰り越し予算を利用する予定である。また、引き続き行う合成のための試薬費などの消耗品費も必要となる。 これらに加えて、今年度は昨年度得られた成果を論文や学会で発表するための費用が必要となる。
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