2012 Fiscal Year Research-status Report
配位高分子の高秩序細孔により水和イオン半径を認識する新規セシウム捕集剤の開発
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23760836
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
南川 卓也 独立行政法人日本原子力研究開発機構, バックエンド技術部, 主査 (30370448)
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Keywords | 配位高分子 / セシウム |
Research Abstract |
セシウムを高選択的に取り込む捕集剤を開発するためには、プルシアンブルーのように、高秩序で交換可能なカウンターカチオンを内包した比較的小さな細孔をもつ化合物を、比較的安価で安定な材料をもとに作ることが重要である。 我々は、安価で安定な配位子であるシュウ酸を用い、上記条件をすべて満たす配位高分子(MOF :metal-organic framework) として、新規にRe(NH4)(C2O4)2・H2O (Re = Y, Sm, Gd, Er, Ho, Er, Yb) の合成に成功した。 これらのMOF について、Cs+ を取り込ませる実験を行った結果、Re(NH4)(C2O4)2・H2O は、海水程度のナトリウム塩濃度の水溶液中からもCs+ の取り込みが可能であることを明らかにした。これはMOF でCs+ を選択的に取り込む初めての例であり、セシウムで汚染された海水など塩濃度の高い環境からセシウムを除染できる可能性を示す画期的なデータである。 さらに、これらの中でも比較的小さな細孔をもつ、小さなイオン半径の希土類金属(Er, Ho, Er, Yb)を用いた場合に、セシウムが取り込まれやすいことを明らかにした。これはセシウムを取り込みやすい細孔の傾向を明らかにした初めての例である。 また、これらの結果から、既知のMOF においても、セシウムを取り込みやすい細孔径に近いものであれば、セシウムの選択的な取り込みが起こる可能性があるため、数種類の既知のカウンターカチオンを内包した細孔径の小さいMOF を合成し、セシウムの取り込みを試験し、(NH4)2(adp)[Zn2ox3] について、セシウムの取り込みが起こることを明らかにした。これは、セシウムの取り込みが起こりやすいMOF の条件として、一定の細孔径をもつことが条件となる可能性を示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MOF の細孔サイズに対する取り込み可能な水和イオン半径やCs+ 選択性の関係を明らかにするためには、細孔の形状や物性を大きく変化させることなく、細孔サイズが異なるMOF を数多く合成し、Cs+ 取り込み挙動を比較検討する必要がある。平成24年度までに希土類金属を用いてCs+ 取り込み可能なMOF (Re(NH4)(C2O4)2・H2O (Re = (Y, Sm, Gd, Er, Ho, Er, Yb) 及び(NH4)2(adp)[Zn2ox3])をすでに9種類合成し、これらのうち8種類が同型のものであるため、細孔サイズとセシウムの取り込み挙動の関係を比較検討することが可能な系を構築した。 Re(NH4)(C2O4)2・H2O では、イオン半径がランタノイド収縮に従って変化する希土類金属を用いて、細孔サイズを微調整できる系を構築し、これら全てでセシウムを取り込む物性が確認できた。当初予定していたセシウムを取り込めるMOF が見いだせない場合の実験計画が不要となり、予定以上の数のセシウムを取り込めるMOF を合成することに成功した。またこの実験により、MOF の細孔サイズが小さいときにセシウムを取り込みやすい傾向を明らかにした。 この実験の結果を利用して、既知のMOF についても同様の実験を行い、同じ程度の細孔サイズで取り込みが起こる((NH4)2(adp)[Zn2ox3]) も見出すことができた。これにより、細孔径が同じような物質同士での取り込み挙動の違う要因についても、明らかにできる可能性が広がった。 以上のようなことから自己採点による評価はおおむね順調に研究が進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、平成24年度に引き続き、Re(NH4)(C2O4)2・H2O 及び(NH4)2(adp)[Zn2ox3] への様々なイオンに対する取り込み試験を行うことで、共存イオンの影響や選択性に関する知見を増やし、セシウム捕集剤として適応できる共存イオンの条件を探る。また、これらのMOFの代表サンプルについて、放射線耐性調査や酸塩基滴定実験を行い、MOF が適応できる溶液条件について調査する。 同時に、細孔中のCs+ 取り込み反応を追跡するために赤外分光やその他スペクトルで反応解析を試みるとともに、取り込み前後の構造等に関する知見を得るために粉末X線や元素分析等を行うことで、Cs+ を高選択的に取り込むメカニズムを解明する。 これらの実験結果をもとに、必要に応じてRe(NH4)(C2O4)2・H2O 及び(NH4)2(adp)[Zn2ox3] のカウンターイオン、金属イオン及びMOF中に共存するadp 等を他のものに変換したMOF を合成し、同様のCs+ の取り込み実験を行うことで、さらに好条件でCs+ 選択性等の物性をもつMOF を開発する可能性を検討する。 また、他の金属イオンの添加や過熱等の様々な条件下において、MOF 内から放射性Cs+ を取り出し、捕集剤として再利用する可能性についても試験する。 これらの研究から得られた知見は、今後、国内外において報告及び発表を幅広く行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、セシウムを取り入れたMOF の構造及び取り込み反応を調べるため、様々な条件でセシウムを取り込んだMOF の元素分析を外注によって行う。これに加えて、X線構造解析、粉末X線、赤外分光、電気伝導率測定、示差熱測定等により、このMOF の構造や反応の解析を行う必要がある。これらの測定は出張により行うため、一定期間ごとに出張費及びこれらに必要となる消耗品を購入する。 またセシウムの濃度を測定するために用いている原子吸光装置を効率良く動かすために、必要な実験設備やガス等を購入する。 MOF の放射線耐性調査には、可燃性のフィルターや遠心分離管などの特殊な可燃性消耗品を多く購入する。これ以外にも消耗品として、測定を行うための原料のMOF を合成するための容器、試薬、溶媒等の合成用物品費、分析を行うための検量線サンプルや容量測定機器等の分析用消耗品費などが必要となる。 また、広く国内や海外で知見を広めるとともに成果を発表し、福島除染の手段を探すような材料研究を行っていることをアピールする。同時に論文を執筆して広く研究について学術的な発表を行う予定である。
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