2012 Fiscal Year Research-status Report
標高傾度に沿って分布するシロイヌナズナ属野生種の温暖化適応形質の進化
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23770016
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
平尾 章 筑波大学, 生命環境系, 研究員 (20447048)
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Keywords | 適応遺伝子 / 標高傾度 / 次世代シーケンス / 異質倍数体 / ホメオログ |
Research Abstract |
本研究では,モデル植物シロイヌナズナに近縁な野生種で、極めて幅広い標高帯に渡って分布するミヤマハタザオを対象とし,幅広い標高帯への適応機構を遺伝子レベルから明らかにすることで,環境変化が生物に与える影響を進化的な視点から理解しようと試みる。 H24年度は、前年度に取得したデータの再解析を含めて、開花および被植防衛に関連する8つの遺伝子のスクリーニングを行った。各遺伝子約400bpの配列を対象に,中部地域の野外集団に含まれる塩基多型を,次世代シーケンサーを用いて塩基解読することで並列的に探索した.ミヤマハタザオは異なる2つの交雑親種に由来する異質倍数体であるため,交雑親種の違いに由来する相同遺伝子(ホメオログ)を判別するパイプライン(データ解析手順)を構築した.その結果,トライコーム(葉や茎の毛状突起)形成制御遺伝子GL1および光受容体遺伝子CRY1,PHYBにおいて,集団間で著しく対立遺伝子頻度が異なる塩基多型サイトを見出した.これらの対立遺伝子頻度は集団の標高と相関しており,標高適応を担っている遺伝子である可能性が高い.GL1が関与する表現型であるトライコームについては、その形態および密度が標高と相関することも明らかになった。 GL1とCRY1については詳細な塩基多型解析を行なうために、遺伝子の全長の塩基配列を決定した。その結果、GL1では、表現型が正常であっても、どちらかのホメオログで遺伝子の機能が喪失するような変異が生じていた。CRY1では、片方の交雑親種に由来するホメオログでは塩基多様度が非常に低く、安定化選択が示唆された一方で、もう片親側のホメオログでは正の淘汰の影響が検出された。これらの結果は、重複遺伝子では、片方が選択圧から開放されるため、偽遺伝子化が生じたり、新機能が生じやすいとする「重複遺伝子による進化」仮説を想起させる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は標高傾度に沿った表現型の変異と、その表現型を制御する遺伝子の塩基多型との相関関係を見出すことができた。今後、連携研究者が立ち上げた相互移植実験システムを活用することで、遺伝子型と表現型が適応度にもたらす影響について、環境との相互作用を含めて直接的に検証することができる。また次世代シーケンスの塩基配列データの解析については、新学術領域研究「ゲノム支援」の支援課題に採択され、異質倍数体である対象種のホメオログ判別を高精度で行なうことができるパイプラインが構築された。このパイプラインは、コムギ・ワタ・アブラナなどの重要な作物が多く含まれる他の異質倍数体にも適用可能な技術である。さらに異質倍数体のホメオログにおいて、「重複遺伝子の進化仮説」を想起させるような塩基多型パターンを2例見出した。今後、ゲノムワイドに多数の遺伝子について検討を拡大していくことで、重複する遺伝子のネットワークがどのように進化し、維持されているかの解明が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
連携研究者らによって、菅平高原実験センタ-(標高1300m)と京都大学生態学研究センター(標高60m)の圃場を用いた相互移植実験が実施されており、生存率などの適応度の測定データとDNA解析用試料を活用できる状態である。今後,これらの移植集団の適応度と適応遺伝子の関係を検証していく予定である. もう一つの新しい研究アプローチは、遺伝子発現解析である。異質倍数体のホメオログ判別パイプラインが構築されたことによって、次世代シーケンスを用いたゲノムワイドな遺伝子発現解析であるRNA-seqをミヤマハタザオにも適用することが可能になった。これまでに異質倍数体は異なる交雑親に由来する複数のゲノムセットを持つため、環境適応ポテンシャルが高いのではないかということが指摘されてきた。相互移植実験圃場の低標高と高標高での遺伝子発現パターンを比較することで、幅広い環境傾度に分布するミヤマハタザオの環境適応ポテンシャルの遺伝的基盤が明らかになるかも知れない。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度への研究費の繰越はごく少額であり、試薬消耗品の購入に使用予定である。
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