2011 Fiscal Year Research-status Report
6者系の共系統地理解析:アリ植物をめぐる生物群集における地理的多様化プロセス
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23770018
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
上田 昇平 信州大学, 山岳科学総合研究所, 研究員 (30553028)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 東南アジア熱帯雨林 / マレーシア / 分子系統解析 / 植物―昆虫の共進化 / 共多様化 / オオバギ属 / シリアゲアリ属 / ヒラタカタカイガラムシ属 |
Research Abstract |
1)サンプリング マレー半島の5地点(キャメロン,ゲンティン,ゴンバック,フレーザー,マラヤ大学構内)とボルネオ島の1地点(ランビル)において,共同研究者らと共にアリ植物オオバギ属に共生・寄生する昆虫群集の調査をおこなった.オオバギ・アリ・カイガラムシ・シジミチョウ・タマバエ・ナナフシのDNA標本を,一本のオオバギ株から同時に採集した.オオバギをめぐる昆虫群集には基本的に高い寄主特異性がみられた.また,マレー半島にはオオバギに寄主特異的なナナフシが分布していないこと,および,マレー半島の標高1000m以上では共生カイガラムシなしでオオバギ・アリ共生系が成立していることが明らかになった.2)予備的な分子地理系統樹の作成 アリ・カイガラムシ・シジミチョウ・タマバエに関して,地域間の遺伝的分化が検出可能な遺伝子マーカーの検索をおこなった.アリは3つの核遺伝子領域,カイガラムシは2つの核遺伝子領域,シジミチョウは3つの核遺伝子領域および3つのミトコンドリア遺伝子領域,タマバエは1つのミトコンドリア遺伝子領域をそれぞれ選定した.検索した遺伝子マーカーを用いて,アリ・カイガラムシ・シジミチョウ・タマバエの予備的な分子系統樹を作成した.カイガラムシ・シジミチョウ・タマバエに関しては地理的な変異を検出できる分子系統樹が得られたが,アリの核遺伝子系統樹の解像度は低くかった.今後,マイクロサテライト解析・AFLP等のフラグメント解析を含めた核遺伝子マーカーの検索を引き続きおこなう必要がある. 来年度は,サンプリングと分子地理系統解析を引き続きおこない,群集メンバーの分子地理系統樹に相関があるかどうかを探る.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マレー半島およびボルネオ島の複数地点において,共同研究者らと共に,アリ植物オオバギ属に共生・寄生する昆虫群集の採集をおこない,分子地理系統解析に十分な量のDNAサンプルが集まりつつある.また,群集メンバーそれぞれの遺伝子マーカーの開発もすすんでおり,カイガラムシ・シジミチョウ・タマバエに関しては地域間の遺伝的分化が検出可能なPCRプライマーが発見された.しかし,アリの核遺伝子マーカーの開発は難航しており,マイクロサテライト解析を含めた核遺伝子マーカーの検索を引き続きおこなう必要がある.平成23年度の研究課題は,東南アジア複数地点におけるサンプリングと予備的な分子系統樹の作成であったため,本研究はおおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
野外における採集方法のルーチーン化,DNAサンプルの一括管理,一度に96サンプルのDNA抽出をおこなうキットの購入,PCRプライマーの一括管理など,野外調査からDNA実験までの工程をより効率良くおこなうシステムを構築した.今後は,実験系全体の解析スピードの向上が期待される.カイガラムシ・シジミチョウ・タマバエの3者に関しては,選定した遺伝子マーカーを用いて,DNA解析を進めていく.得られた分子系統樹が,十分に地理的な変異を検出できなかった場合は,追加で遺伝子マーカーの検索をおこなう必要がある.アリに関しては,核遺伝子マーカーの開発が課題として残ったため,マイクロサテライト解析を含めた核遺伝子マーカーの検索を引き続きおこなう必要がある.オオバギに共生するシリアゲアリ属のマイクロサテライトプライマーは既に作成されており(Feldhaar et al. 2004),これらを用いてマイクロサテライト解析をすすめる.ナナフシに関しては,遺伝子マーカーの検索からのスタートである.文献やGenbankの検索を駆使し,遺伝子マーカーの選定をおこなう.得られた分子マーカーを用いて,群集メンバーそれぞれの分子地理系統解析を本格的におこない,得られた分子地理系統樹に相関があるかどうかを探る.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度の研究費の多くは,DNA解析の試薬および旅費に使われる予定である.DNA解析の試薬は,DNA抽出キット,PCRプライマー,蛍光色素付きプライマー,および,各種酵素などである.今後,マイクロサテライト解析・AFLP等のフラグメント解析おこなう必要性が出てきた場合は,これらの実験試薬を追加で購入する必要がある.旅費は,マレー半島およびボルネオ島への採集旅行費である.なお,23年度開催されたCOP10の影響で,マレーシア国の国立公園における採集許可の取得が難航しており,一部の採集旅行がおこなえなかったため,次年度使用額が生じた.よって,23年度の研究費の一部を,24年度の旅費として使用する予定である.
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