2012 Fiscal Year Research-status Report
6者系の共系統地理解析:アリ植物をめぐる生物群集における地理的多様化プロセス
Project/Area Number |
23770018
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
上田 昇平 信州大学, 山岳科学総合研究所, 研究員 (30553028)
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Keywords | 東南アジア熱帯雨林 / マレーシア / アリ植物オオバギ属 / 共生者-寄生者間の軍拡共進化 / 分子地理系統解析 / マイクロサテライト解析 / 異所的な共分化 / 同所的なニッチ分割 |
Research Abstract |
1)サンプリング マレー半島の7地点(エンダウロンピン,キャメロン,ゲンティン,ゴンバック,フレーザー,タイピン,マラヤ大学構内)およびボルネオ島の1地点(ランビル)において,アリ植物オオバギ属に共生・寄生する昆虫類の調査をおこない,植物・アリ・カイガラムシ・シジミチョウ・タマバエ・カメムシのDNA標本を採集した.カイガラムシおよびカメムシに関しては形態による種同定の結果が得られ,カイガラムシについてはヒラタカタカイガラムシ属の1種,カメムシについてはヒョウタンカスメカメムシ属の7種がそれぞれ新種として発見された. 2)遺伝子マーカーの検索と開発 これまでに検索・開発した遺伝子マーカーを以下に列記する.アリ:6つの核遺伝子領域(28S rDNA, Argk, Histon 3, Ef-1a, LwRh, WG)および5座位のマイクロサテライト領域;カイガラムシ:2つの核遺伝子領域(Ef-1a exon and intron, WG);シジミチョウ:3つのmtDNA遺伝子領域(COI, ND5, 16S rRNA)および3つの核遺伝子領域(28S rDNA, CAD, ITS-2);タマバエ:1つのmtDNA遺伝子領域(COI);カメムシ:1つのmtDNA遺伝子領域(COI). 3)分子系統解析および集団遺伝学的解析 6つの核遺伝子領域に基づく分子系統解析と5座位のマイクロサテライト領域を用いたクラスター解析をおこなった結果,アリは6つの系統に分化することが明らかになった.また,2つの核遺伝子領域に基づく分子系解析をおこなった結果,カイガラムシは9つの系統に分化すること,および,それぞれの系統には単一のカイガラムシ種が対応していることが明らかになった.その他のシジミチョウ,タマバエおよびカメムシに関しては,それぞれの遺伝子においてDNA断片の増幅が確認されている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東南アジアの複数地点において,アリ植物オオバギ属と生物間相互作用を結ぶ昆虫類の採集をおこない,分子系統地理解析に必要なサンプルの大部分が集まった.これに伴い,アリ植物オオバギ属に寄生するカメムシ類の種組成と生態に関して新知見が得られた.また,それぞれの群集メンバーについて遺伝子マーカーの開発も進んでおり,信頼性の高い分子地理系統樹が作成できる目途が立った.特に,アリのマイクロサテライト解析が軌道に乗り,安価に早くアリ系統の判別をすることが可能になった.これらの方法が確立したことによって,共生者と寄生者間の寄主特異性の検証や遺伝的多様性の比較解析をおこなうことが可能となった.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において,サンプリングおよび遺伝子マーカーの開発に一定の成果が得られた.よって,今後は,群集メンバーのそれぞれについて分子地理系統樹の作成をすすめ,遺伝的多様化の異所性・同所性解析をおこなう.異所的な遺伝的分化が検出されたペアは,遺伝距離の相関があるか否かを検証し,異所的な共分化が起こっているか否かを検証する.一方,同所的な遺伝的分化が得られたペアは,同所的な寄主転換が遺伝的分化を引き起こしているか否かを検証する.なお,オオバギ寄生性のナナフシは,ボルネオ島では高密度で分布が確認されていたので,オオバギ共生系の主要な寄生者と考えられたが,マレー半島には分布しないことが明らかになった.よって,共系統地理解析にはナナフシに加え,カメムシを追加することになった.これまでの調査によって,寄生性カメムシ類の種多様性が高いことが明らかになり,アリ植物オオバギ属との共多様化が起こっていることが示唆されたからである.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費のほとんどはDNA解析の試薬の購入に使用される予定である.これらの試薬は,DNA抽出キット,PCRプライマー,蛍光色素付きプライマー,各種酵素類,その他消耗品などである.アリのマイクロサテライト解析をおこなうことが決定したので,本年度は,従来のシークエンス解析だけでなくマイクロサテライト解析用の試薬を追加して購入する必要が出てきた.また,得られた研究成果を発表するための旅費および論文投稿料にも研究費を使用する計画である.
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