2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23770021
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
細田 一史 大阪大学, 情報科学研究科, 特任助教(常勤) (30515565)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 共生成立 / 表現型可塑性 / 分子機構 |
Research Abstract |
ほとんどの生物が異種と相利共生している。生物はいかにして異種との初遭遇に迅速に適応し、相利共生を成立させるのか?既に成立した天然の共生成立は観測できないため、その適応には不明な点が多い。これまでに私達は、2種の大腸菌株により人工的に初遭遇を模倣することで、表現型可塑性による迅速な適応が共生成立に寄与しうることを示した。具体的には、それぞれ一つのアミノ酸の合成能を欠損しており、互いに必要量のアミノ酸を供給しあったときのみ両者が増殖できる人工相利共生である。2種を混合すると、一方からのアミノ酸供給量が50倍程度増加して必要量を超え、両者が継続的に増殖した(相利共生成立)。この系は単純な実験系であり、表現型可塑性の寄与を示すだけでなく、その分子機構解明にも適している。本研究では、この共生成立に寄与する表現型可塑性の分子機構解明を試みる。本年度は、2種大腸菌の細胞内状態を調べるために、共培養からそれぞれの株を分取し、全遺伝子発現量を測定した。また、共培養の細胞外環境中の生化学物質の定量も行った。これらの比較サンプルとして、単独培養も測定した。結果、この表現型可塑性を生化学反応のレベルで説明する仮説を導き、実験的に裏付けることができた。具体的には、2種の大腸菌が細胞外を通して、一つのアミノ酸(イソロイシン:一方は合成できない)の合成経路を完成させており、代謝中間体の授受によりアミノ酸供給が増加するという仮説が結果から示唆された。さらに、化学合成した代謝中間体を加えて、アミノ供給量の測定などの実験を行うことで、この仮説をサポートすることができた。自然界には多種多様な生物が存在し、互いに遭遇することで共生成立の機会を持つ。本年度は、この共生成立に寄与する表現型可塑性の分子機構の概要を、初めて実験的に示すことができた。人工的であり一例であるが、大きな意義があり、今後一般化にも繋がるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は計画以上に進展している。なぜなら、上記のとおり、すでに分子機構の概要がおおよそ把握できたからである。これには、特に細胞外環境の生化学物質定量において、幸いにも明瞭な結果が得られたことが大きく寄与している。また、予想以上に明瞭な結果が得られたので、この表現型可塑性による迅速な適応と進化の関係や、分子機構の一般化など、目的に対して計画よりもさらに踏み込んだ理解へと進めることができるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はそれぞれの物質に関しての細胞内外での量の変化と、個体群動態の連結による系の動態把握を行う。具体的には、引き続き細胞内の全遺伝子発現量および、細胞外環境中の生化学物質の定量を行い、これらに加えて細胞内全代謝反応状態の推定と、数理モデルを用いた解析を行う。計画よりも速く進展しているためにより踏み込んだ解析ができると考えているが、基本的に行うことは計画通りである。細胞内全代謝反応状態の推定は、フラックスバランス解析を用いる。これは、2種株細胞内・細胞外を含めた代謝全体の流れ(フラックス)に関して、複数のデータベースを元に、代謝回路の各物質に関して流入と流出を考え、これらが定常であるという仮定のもとに、代謝状態を得るという方法である。この際に、各反応の流量の上限を、その反応を触媒する酵素の遺伝子の発現量によって制限することにより、全遺伝子発現量の実験結果を代謝の状態推測に反映することができる。より具体的には、システムバイオロジーのプロジェクトにより、MATLABOのツールボックスとして、データベースの取り込みから代謝回路のフラックスバランス計算を行うことができるソフトが提供されているため、これを応用し、本研究の目的ように改変することで行う。数理モデルは、個体群動態と細胞外の重要物質の濃度変化、および細胞内の各遺伝子発現量・代謝物質の動態を組み込み、実験結果と比較して全体の動態の把握をおこなう。具体的には、細胞の増殖率を、細胞内の生化学反応の濃度で記述し、また細胞内の生化学反応を通常の反応速度論的手法を用いて記述する。これらの連立常微分方程式により、個体群の増殖と、細胞内の生化学反応を繋げる。なお、生化学反応の速度定数に全遺伝子発現量の実験結果を反映することができる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
大型測定機器などの設備備品に関しては、研究施設に全て揃っている。計画通り本年度に引き続き、大腸菌培養およびその状態の測定を行うため、大腸菌培養関連試薬・消耗品、測定機器関連消耗品、チップ等プラスチック製品、に使用する。特にDNAマイクロアレイの消耗品は高価であり、1サンプルおよそ5万円かかる。また、得られた結果の発表のために、国内外の学会参加費、および学術論文の英文校正費、学術雑誌への投稿費などに使用する。計画よりも速く進展しており、また幸いにも分子機構の概要が把握できているため、得られている多変量データのより詳細なデータマイニングに取り掛かることができる。そのために高性能の計算機(20万円程度)を購入する。
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Research Products
(5 results)
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[Presentation] Synthesizing symbiosis.2012
Author(s)
Kazufumi Hosoda, Akihiro Asao, Shingo Suzuki, Tetsuya Yomo.
Organizer
Joint Meeting of The 59th Annual Meeting of the Ecological Society of Japan and the 5th EAFES International Congress
Place of Presentation
Seta Campus, Ryukoku University, Japan
Year and Date
20120517-20120521
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[Presentation] Synthesizing symbiosis.2011
Author(s)
Kazufumi Hosoda, Akihiro Asao, Shingo Suzuki, Tetsuya Yomo
Organizer
International Symposium on Synthesizing life and biological systems
Place of Presentation
Life Science Center,Osaka,Japan
Year and Date
2011年10月24-26日
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