2011 Fiscal Year Research-status Report
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23770027
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
及川 真平 東京農業大学, 国際食料情報学部, 博士研究員 (90400308)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 葉寿命 / 呼吸 / 光合成 / 窒素 / 繁殖 / 安定同位体 |
Research Abstract |
植物の葉の主要な役割は光合成である。多くの研究が、まだ光合成できる葉でも枯死することを報告してきた。これまでに私たちは、古い葉が持つ窒素を若い葉に転流したほうが植物全体の光合成速度が増加する場合、こうした現象が起こることを圃場実験と数理モデルを用いて示してきた。しかし、モデルから予測される枯死タイミングが実際のそれとは一致しない場合もある。これらの研究は栄養成長期に行われたものであり、繁殖が葉の枯死にどのような影響を与えるのかは判っていない。これまで明らかにされてこなかった繁殖成長、葉以外の器官の呼吸による炭素消失が葉の枯死に及ぼす影響を明らかにすることを目的として研究を進めている。1) 東京農業大学の実験圃場(東京)において、ポットを用いて一年生草本オオオナモミとイネを砂耕栽培した。2週間毎に葉の消長、個葉サイズ、個体サイズの追跡測定を行った。また破壊サンプリングにより各器官の呼吸速度、窒素濃度、比葉面積の測定を行った。栄養、繁殖成長期における葉の寿命について解析を進めている。2) 葉寿命研究に関する総説を執筆し、これまでの成果と今後の課題について整理した。総説は日本生態学会誌に受理された(及川 & 長田, in press)。2012年に特集号として出版予定である。特集号の他著者らとミーティング(於北海道大学、2011年11月)を行った。3) Hirose (2011) によって新たに定義された植物の窒素利用効率の概念を葉群動態の解析に応用した (Hirose & Oikawa, in press)。4) 窒素固定ダイズと窒素固定しないその同質遺伝系統の比較から、窒素固定と大気CO2濃度がダイズの葉と窒素の動態に与える影響を解析した。現在論文執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オオオナモミを用いた実験では、1ポット(1.5L)あたり1個体を植え、ポット間隔を変えることで異なる密度下で育成した。個体あたりの支持器官重量(茎、枝、根の乾燥重量の総計として評価)は、当初の予測に反して個体密度によって大きく異ならなかった。高密度個体のほうが長い主茎を作ったが、低密度個体は大きな根系を形成したためであった。低密度個体は、高密度個体に比べて、生産葉数、枯死葉数共に約2倍多かった。Hirose & Oikawa (2012) に従い平均葉寿命を算出すると、高密度個体(41.3日)よりも低密度個体(42.8日)で長かった。Leaf area duration(葉面積の寿命に相当する)を算出すると、高密度個体(40.5日)よりも低密度個体(42.5日)で長く、個葉の寿命と同様の傾向が見られた。測定温度(各月の日平均気温)下における個体あたりの支持器官の呼吸速度(茎、枝、根の呼吸速度の総計として評価)は、高密度個体よりも低密度個体で高かった。イネを用いた実験では、1ポット(4L)あたり4個体を植え、異なる施肥条件下で育成した。少施肥個体に比べて、多施肥個体では生産分げつ数が1個体あたり約1本、生産葉数が1分げつあたり約1枚多かった。現在、上述の方法にしたがって、葉寿命やLeaf area durationの算出を行っている。以上のようにデータ採取、解析は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 初年度に採取した試料の窒素分析、データ解析を進め、論文執筆に着手する。(2) 東京農業大学の実験圃場(東京)において初年度と同様の実験を行う。再現性を確認するとともに、下記の実験を加える。イネ実験において、施肥条件を2水準から3水準に増やす。肥料欠乏に加えて施肥多寡が葉群動態に及ぼす影響の解析、そして葉群動態と繁殖(穂、種子生産)の関係について解析を進める。安定同位体を用いて、枯れゆく葉と繁殖器官との生理的な連結の直接的な検証を試みる。(3) 個葉の枯死が個体全体の光合成速度を増加させるという仮説を、複数の種・環境条件下で集積されたデータを解析し、仮説の一般性の検証を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度に得た試料の窒素分析を進行中である。次年度は引き続き初年度試料の窒素分析、そして新たな実験試料の安定同位体分析(錫箔、分析依頼)、ガス交換測定(純二酸化炭素、ソーダライム、脱湿剤)、窒素分析(標準試料、純酸素、純ヘリウム、還元銅、酸化銅等)に研究費が必要である。これらの分析、測定のための実験補助者への謝金、第59回日本生態学会(於静岡市、2013年3月)で研究成果の発表を行うための旅費が必要である。
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Research Products
(4 results)