2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23770027
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
及川 真平 東京農業大学, 国際食料情報学部, 博士研究員 (90400308)
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Keywords | 葉寿命 / 繁殖 / 窒素 / 群落光合成 / ダイズ / イネ / 呼吸 / 二酸化炭素 |
Research Abstract |
植物の栄養・繁殖成長、そして葉以外の器官の呼吸による炭素消失と葉の枯死タイミングの関係を明らかにすることを目的として研究を進めている。 1. 昨年度に引き続き、東京農業大学の実験圃場(東京)においてポットを用いてイネを水耕栽培した。昨年度の結果の再現性を確認すると共に、窒素施肥を昨年度の2水準から3水準(標準、標準 x 1.5、標準 x 0.5)に増やし、窒素の可給性の勾配に沿った栄養・繁殖成長、そして葉の動態の変化を調べた。葉の消長、個葉サイズ、個体サイズ、各器官の呼吸速度、窒素濃度、葉面積/葉重比の追跡測定を行った。 2. 窒素固定をする通常のダイズ品種と窒素固定しない同質遺伝系統を用いて、葉面積生産が群落内部の光環境、繁殖器官の窒素要求、窒素同化の影響を受け、それらの程度は生育時期によって異なることを明らかにした。論文を国際誌に投稿し”Major revision”の判定を受けた。現在1度目の改訂を行っている。 3. 葉寿命研究に関する総説を執筆し、これまでの成果と今後の課題について整理した。総説は日本生態学会誌に発表した(及川・長田 2013, 及川ほか 2013, 長田ほか 2013a, b)。 4. 解放系二酸化炭素暴露実験(農業環境技術研究所)に参加(2010年より継続)し、イネ群落の葉と窒素の動態への窒素施肥と大気CO2濃度の上昇の影響を調査した。この成果はWorld Crop FACEミーティング(2012/7/9-12, つくば市)で発表した。また、2009年に解放系オゾン暴露実験(イリノイ大学)で行った実験の結果をまとめ、日本生態学会(2013/3/5-9, 静岡市)で発表した。いずれも論文を執筆中である。 5. Hirose (2011) によって新たに定義された植物の窒素利用効率の概念を葉群動態の解析に応用した (Hirose & Oikawa 2013)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、植物の栄養成長・繁殖成長と葉の枯死タイミングの関係について研究することを目的とした。複数の環境操作実験(上記1, 2, 4)により、栄養成長と繁殖成長が群落内の光環境または窒素バランスを変えることにより葉の枯死に影響していること、その影響の程度は生育時期により異なることが明らかとなった。呼吸による炭素の消費が葉の枯死タイミングを決めるという仮説が提案されているが、未だ実証的な研究はない。イネ(上記1)とオオオナモミ(昨年度に実施)を用いた実験ではこれらの定量的な測定を行った。現在、窒素分析のためのサンプル処理、葉の動態そして各器官の呼吸速度の対する温度の影響について解析を進めている。 個葉の枯死が個体全体の光合成速度を増加させるという仮説が提案されている。最適な枯死タイミングの検討に数理モデルが有用であるが、これまでに解析された種、解析対象とされた地域は多くない。葉の老化、枯死、寿命に関する総説を執筆するなかで(上記3)これらのパラメーターに関するデータベースを作成した。そのなかで、葉の枯死の最適モデルに適用できるデータを特定し、それらのデータ利用について著者の許可を得た。現在解析を進めている。従来、葉の枯死タイミングについてはその葉の環境条件や生理的特性ばかりが着目されてきたが、本研究課題では、葉の枯死と個体全体の成長または繁殖との関連に着目した。この問題について、実証的な研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2011~2012年度にイネとオオオナモミを用いた実験で採取した試料の窒素分析を進める。現在進めている葉の動態、各器官の呼吸速度の結果と併せて、結果をまとめる。個葉の枯死が個体全体の光合成速度を増加させるという仮説を、複数の種・環境条件下で集積されたデータについて検証する。以上について国内外での学会発表を行い、国際学術誌に論文を投稿する。 解放系二酸化炭素暴露実験(FACE実験、農業環境技術研究所;申請者は2010年より参加している)に引き続き参加し、イネ群落の葉と窒素の動態に対する、窒素施肥と大気CO2濃度の上昇の影響を調べる。本年度は、過去のイネを用いたFACE実験と我々の実験の結果の違いが生じた原因を明らかにするための実験設定をする。 申請者は2013年4月1日に東京農業大学から茨城大学に異動した。茨城県を含む北関東地域は、温帯と寒帯の植物が混在する地域である。そのため、多数の種を用いた検証に好適な環境であり、すでにいくつかの好適な調査地を得た。本研究課題をさらに発展させるために、長期観測を視野に入れた野外調査を開始する。野外に生育する複数の常緑性・落葉性樹木などについて、葉の動態と生理的特性(光合成速度、葉の窒素濃度、葉重/葉面積比)を測定し、基礎的なデータを得る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2011-2012年度に得た試料の窒素分析を進行中である。2013年度は窒素分析(標準試料、純酸素、純ヘリウム、還元銅、酸化銅等)、光合成測定(純二酸化炭素、ソーダライム、脱湿剤など)、論文の英文校閲に研究費が必要である。これらの分析、測定のための実験補助者への謝金、調査地への旅費、日本生態学会第61回大会(於広島市、2014年3月)などで研究成果の発表を行うための旅費が必要である。
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Research Products
(10 results)