2011 Fiscal Year Research-status Report
マングローブ植物の窒素獲得における土壌窒素固定菌の役割
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23770029
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Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
井上 智美 独立行政法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (80435578)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | マングローブ / 窒素 / 窒素固定菌 |
Research Abstract |
マングローブ植物の生育地である沿岸域では,陸域から供給された窒素が頻繁に繰り返される潮汐変動によって海域へ流出するため,窒素不足に陥りやすい特徴を持っている.窒素は植物の生育に不可欠な必須元素である.このような課題の多い場所であるにも関わらず,マングローブ植物は旺盛な生育を示し,世界で最も生産性の高い生態系を形成している. マングローブ植物の窒素獲得メカニズムを明らかにするため,代表的な植物3種(ヒルギダマシ・ヤエヤマヒルギ・オヒルギ)の根圏窒素動態を調査したところ,根近傍において高い土壌窒素固定活性と土壌窒素含有量が確認された.マングローブ植物の根圏は通気組織による微好気環境が維持されており,窒素固定菌の増殖に最適な環境であることが推察される.さらに,樹木をとりまく窒素固定活性の空間分布トレンドを明らかにするため,ヤエヤマヒルギの根圏窒素固定活性を調査したところ,樹木の生育ステージが進むにつれて,樹木周辺の土壌窒素固定活性が高くなり,明瞭なコントラストを形成していく事が明らかとなった.支柱根近傍20cm以内に土壌窒素固定活性のピークが検出されたことから,支柱根の発達が窒素固定菌の活性化に寄与している可能性がある. 窒素固定反応の温度依存性実験から,反応の分子動力学的性質を測定することができるが,この方法を野外生育地に適用したところ,植物の周囲に集まっている微生物が利用している窒素固定酵素(ニトロゲナーゼ)は元々干潟土壌にあったものとは質的に異なっていることが明らかとなった.マングローブ植物が能動的に特有な窒素固定酵素を活性化させていることが窺える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の第一の目的は,マングローブ植物の生育における窒素固定菌の役割を明らかにする事である. 本年度は,マングローブ植物の根圏における窒素固定活性を,栽培実験と野外調査の両面から検証し,根の近傍で窒素固定活性が高くなっている事を明らかにすることが出来た.窒素固定活性が植物の種によって異なる事,生育ステージが進むにつれて高くなっている事などから,植物の生育と窒素固定には密接なつながりがあることが推察される. 以上のように,次年度研究へ繋がる知見を順調に得る事が出来ている.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究により,マングローブ植物の根圏では活発な窒素固定が行われている事が明らかとなった.基質である窒素の供給が極端に制限されている湿地土壌中で窒素固定菌はどの様に窒素を獲得しているのだろうか?多くのマングローブ植物には,呼吸根が発達している.元来呼吸根は,嫌気環境に対応した「酸素供給経路」であると考えられているが,空気の80%が窒素である事を考慮すると,窒素固定菌への窒素供給経路にもなっている可能性がある.通気組織は酸素だけではなく窒素の供給にも有効であることが,マングローブ植物の根圏において高い窒素固定活性が観測される原因であるのかもしれない.今後は,マングローブ植物に特徴的に発達している呼吸根(通気組織)を介した空気輸送経路が窒素固定菌への窒素供給経路としてどの程度有効に機能しているのかを検証していく.窒素ガスの輸送効率を,通気組織を介した場合と土壌を介した場合とで比較計測すると共に,根圏窒素固定への通気組織の寄与率を定量する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は,栽培実験と野外調査の両面により検証を行っていく.そのため,研究費は栽培管理にかかる消耗品,野外調査(沖縄県)にかかる旅費と野外調査協力謝金に使用する.さらに,窒素固定活性を測定するためのガス試薬,測定機器(ガスクロマトグラフィー)の消耗品費,得られた成果を学会や論文で発表する際の旅費,英文校閲費も見込んでいる.
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