2011 Fiscal Year Research-status Report
葉緑体ストロマからチラコイド内腔への還元力伝達機構の解明
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23770049
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
桶川 友季 京都産業大学, 総合生命科学部, 助教 (10582439)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 植物 / 色素体機能 / 光合成 / チオレドキシン / レドックス |
Research Abstract |
近年、高等植物の葉緑体では、ストロマだけではなくチラコイド膜を隔てた内腔もストロマ側からの還元力を利用してレドックス制御されていることがわかってきており、その重要性が認識されつつある。しかしその詳細な分子機構はまだほとんどわかっていない。本年度はストロマの還元力をチラコイド内腔に特異的に供給するチオレドキシン(Trx)アイソフォームの特定を目指して研究を行った。シロイヌナズナには少なくとも5グループ10種類のストロマ局在のTrxアイソフォームが存在する。そこで、これら全てのTrxアイソフォームの精製タンパク質を作成した。これらのタンパク質を用いて酵素活性測定を行い還元力伝達活性が見られたことから、精製タンパク質が機能的であることを確認した。全てのTrxアイソフォームの精製タンパク質があることでどれが特異的にチラコイド内腔への還元力の伝達システムに関与しているかを特定できる。さらに、そのタンパク質を特異的に欠損するシロイヌナズナの突然変異株を解析することによって還元力伝達システムのより詳細な機構が特定できる。既にそれぞれのTrxアイソフォームの蓄積を特異的に欠損するシロイヌナズナの突然変異株の単離はほぼ終わっており、いくつかの変異株については解析を進めている。In vivo とin vitroの両方から実験を行うことによってより確実な結果を導けると考えている。さらに精製タンパク質とそれぞれのTrxアイソフォームに特異的な抗体を用いて葉緑体のストロマ中のタンパク質量の決定を行った。葉緑体内ではTrx m1,2,4のタンパク質存在量が多く、続いてTrx f1,f2が多いことが分かった。一方、Trx y,zのタンパク質存在量はTrx m1の1/10以下であることが明らかとなった。タンパク質量の存在量を明らかにすることはTrxの標的タンパク質との関係を明らかにするうえで重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究実施計画であげていた通り、10種類のTrxアイソフォームの精製タンパク質の作製を全て終えた。精製タンパク質を用いて還元力伝達活性を確認しており、葉緑体チラコイド膜においてストロマからチラコイド内腔への還元力伝達関与するタンパク質、CcdAの還元実験の準備も出来た。さらに、それぞれのTrxアイソフォームに対する特異的な抗体もほぼ作り終えてた。Trx f1、Trx f2についてはアミノ酸配列の相同性が高く、何度か抗体作製を繰り返したが、最終的にそれぞれに特異的な抗体が作製できた。精製タンパク質に対する反応性だけでなく葉緑体ストロマに局在するin vivoのタンパク質とも反応させその特異性を確認した。もう一つの研究計画としてあげていたCcdAタンパク質の蓄積を欠くシロイヌナズナのccda変異株の解析では、ccda変異株の単離に成功し、光合成測定を行った。ccda変異株では光合成活性が野生株と比較して劇的に減少していた。さらにWestern Blotting解析からccda変異株ではCytb6f複合体のサブユニット、CytfとRiesleタンパク質の蓄積が減少していることを確認している。しかし、変異株の表現型がかなり強く、還元力伝達活性を測定するのに十分なサンプルを得るのに苦労した。そのため当初計画していたccda変異株バックグラウンドでのHCF164タンパク質のレドックス状態の決定がまだ出来ていない。しかし、成育させる光条件、培地の条件などをいろいろ検討した結果、十分なサンプルを得られるようになった。次年度にはこの実験が出来ると考えられる。一方で、当初次年度の研究実施計画にあげていたTrxアイソフォームのノックアウトまたはノックダウン植物の作出が前倒しでかなり進んでおり、当初の研究実施計画とは順番が前後するところもあるがおおむね順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き葉緑体ストロマからチラコイド内腔への還元力伝達機構の解明を目指し研究を行う。10種類のTrxアイソフォームの精製タンパク質の作製が終わっているので、その精製タンパク質を用いて植物から単離した葉緑体でCcdAを特異的に還元するTrxを特定する。CcdAを還元するTrxアイソフォームが特定できれば、植物体を用いてin vivoでも特定したTrxアイソフォームによってCcdAが還元されることを証明する。具体的には既に作出しているTrxアイソフォームのノックアウトまたはノックダウン植物で、HCF164やCcdAが還元されないことを示す。またHCF164やCcdAのノックアウト植物と同様の表現型を示すことを光合成パラメーターの測定および、光合成関連タンパク質の蓄積を調べることによって評価する。葉緑体ストロマにはTrxアイソフォームが複数存在するため機能重複が考えられる。そのためCcdAを還元するTrxアイソフォームとして複数の候補が見つかる可能性がある。その場合を考え、すでにファミリーごとに多重変異株を作出している。これらの多重変異株もシングルの変異株と同様に解析に用いる。さらにCcdAタンパク質を蓄積できないシロイヌナズナのccda変異株を用いた解析を行う。成育条件の工夫した結果解析に用いることが出来るまで成長したccda変異株の単離チラコイド膜でHCF164が還元されるかどうかを確かめる。ccda変異株でHCF164が還元されていなければHCF164への還元力の伝達にはCcdAが必須であることが証明できる。さらにccda変異株のBlue-Native PAGEを行うことによってCytb6f複合体の蓄積量を調べ、複合体の形成にはCcdAを介した還元力の伝達が必要であることを示す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は東日本大震災のため参加を予定していた学会が中止になったため旅費の執行がなかった。また英文校閲費として申請していたが使わなかったため合計で約30万円の繰り越しとなった。次年度は繰り越し分と合わせて約150万円の執行予定である。繰り越し分は物品の購入にあてることを考えている。当初の物品費申請額と合わせて約100万円の執行予定である。具体的にはBlue-Native電気泳動を行うための装置として電気泳動槽と電源装置の購入予定である。また変異株の単離チラコイドの解析を行うためフェレドキシン等の高価な試薬を購入する。旅費としては約20万円を執行する予定である。6月の横浜での日本光合成学会(1泊2日)、12月の福岡での日本生化学会(2泊3日)、3月の岡山での日本植物生理学会(3泊4日)に参加することを予定している。研究結果を学会で発表し、他の研究者の方たちと有意義な議論をしたい。さらに研究打ち合わせとして福岡に出張する(1泊2日程度)予定にしている。またその他として当初の予定通り英文校閲費に約20万円使用予定である。実験データがそろいつつあるので研究結果をまとめ論文投稿の前に英文校閲をする。
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Research Products
(2 results)