2011 Fiscal Year Research-status Report
乾燥ストレスシグナルを制御する低分子ペプチドの解析
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23770056
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
高橋 史憲 独立行政法人理化学研究所, バイオマス研究基盤チーム, 研究員 (00462698)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 環境応答 / 植物ホルモン |
Research Abstract |
本年度は、環境ストレスシグナルに関与する低分子ペプチドを探索する目的で、シロイヌナズナT87培養細胞を用いた実験系を立ち上げた。まず、高感度質量分析解析の条件に適応するように、試料の分離やT87培地成分の検討、粗抽出溶液の検討を行った。イオン交換カラムを用いて精製した後、308のフラクションに分離した。さらにT87培養細胞に水分ストレスの一種であるマンニトールを用いた浸透圧ストレスを処理したサンプルを用いてMALDI-TOF/MSを用いて解析を行い、ストレス依存的に細胞外に放出されるペプチドを探索した。その結果、3つのフラクションにおいて、ストレス依存的にタンパク質量が増加する低分子ペプチドを分離する事に成功した。これら候補ペプチドに関して、in silico解析を行った結果、シロイヌナズナのゲノム中には32種類の相同性遺伝子をもつファミリー遺伝子群であることを明らかにした。次にこれら候補ペプチドおよびその相同性ペプチドを対象として、in vitro合成ペプチドを作製した。これら合成ペプチドを植物体の根から吸収させ、3時間後に地上部の本葉のみを回収し、乾燥ストレス誘導性遺伝子の発現を解析することで、ペプチドの生理活性および機能を解析した。その結果、同定したペプチドを含む3つの相同性ペプチドが、NCED3の発現を制御する活性を持つことを明らかとした。さらに候補遺伝子をノックダウンさせたRNAi形質転換植物体を作製し、乾燥ストレス試験を行った結果、RNAi形質転換体は乾燥ストレスに感受性を示す事を明らかにした。以上の結果は、同定したペプチドが乾燥ストレスに応答しNCED3の発現、およびストレス耐性を制御する上流因子である事が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、水分ストレス依存的に細胞外に放出されるペプチドの同定に成功した。また、このペプチドは、乾燥ストレス誘導性遺伝子の発現を制御する活性を持つ事を明らかにした。さらに形質転換植物を用いた表現系解析から、候補ペプチドは乾燥ストレス耐性を制御する事も明らかにした。以上の結果から、植物は乾燥ストレスを感受した後、同定した候補ペプチドを細胞外へ放出することで、ストレスシグナルの認識および伝播が行われ、NCED3の発現を介したアブシジン酸(ABA)の合成や、ストレス耐性の獲得を行うメカニズムを持つ事が示唆された。つまり候補ペプチドは、当初の実験計画の通り、環境ストレスを最初に認識するスイッチ遺伝子であることが考えられる。この同定は、これまで謎であった、植物はどうやって環境ストレスを認識するのか?という問いに答えを出すインパクトのある成果となる。また現在までに、必要となる形質転換植物体などを既に作製し終わっており、次年度も引き続き、詳細な解析を迅速に進める体制が整っている点も含め、当初の計画以上に研究が進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、候補ペプチドの植物組織内での発現部位の解析や、ノックダウン植物体および過剰発現植物体を用いてマイクロアレイを行い、網羅的な制御遺伝子の解析、ABAやその他のストレス関連植物ホルモン蓄積の解析などを行い、植物体内での詳細な候補ペプチドの機能解析を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は候補ペプチドを同定するための系を立ち上げた後、日本学術振興会による若手研究者海外派遣事業の制度を利用して、オーストラリア・アデレード大学へ海外留学を行ったため、当初計画していた消耗品費を次年度に繰り越す事となった。一方、アデレード大学に在学中も、高分解能質量分析計を用いて水分ストレスに関与する候補ペプチドの探索および遺伝子発現解析、表現系解析研究を進める事が出来たため、研究に関する遂行は当初の計画以上に進展させる事ができた。次年度は、さらに候補ペプチドの植物体内での機能を詳細に解析する目的で、消耗品および備品の購入を行う予定である。具体的には、遺伝子発現解析用マイクロアレイ一式、網羅的データ解析用パソコン、候補ペプチドの生体内認識用抗体、高分解質量解析用合成ペプチドなどである。また、国内外での成果発表などにも使用する計画である。
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