2011 Fiscal Year Research-status Report
ミオシン速度改変による植物特異的細胞内交通機構と高次機能の解析
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23770060
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
富永 基樹 独立行政法人理化学研究所, 中野生体膜研究室, 専任研究員 (50419892)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 植物ミオシン / 原形質流動 / 成長制御 |
Research Abstract |
植物では、原形質流動に代表されるようにアクチン-ミオシンシ系による特異的な細胞内輸送システムが発達している。本研究では、植物ミオシンに速度レベルの異なる他種ミオシンのモータードメインを融合することで、速度改変型キメラミオシンを開発する。速度改変型キメラミオシンを培養細胞や植物体に発現させ、細胞内交通や植物高次機能への影響を解析するという全く新しい試みから、ノックアウト等の一般的方法論では得られない知見を抽出する。本年度は、原形質流動の駆動力として知られるシロイヌナズナミオシンXI-2のモータードメインを他種ミオシンと置換することによって、速度改変型キメラミオシンを開発した。高速型 (Hyper active)作製には生物界最速であるシャジクモミオシンXIのモータードメインを用いた。低速型 (Lower active)作製には動物ミオシンVbのモータードメインを用いた。 GFPを融合したキメラミオシンをシロイヌナズナ培養細胞で一過的に発現させ、オルガネラ運動への影響を解析した。結果、野生型に比べ、高速型ミオシンでは結合するオルガネラの運動が高速化し、逆に低速型ミオシンでは低速化することが明らかとなった。植物への影響を見るために、速度改変型ミオシンをシロイヌナズナに形質転換した。結果、高速型では植物体が大型化し、逆に低速型では植物体が小型化することが明らかとなった。この時、高速型ミオシンを発現する植物では、原形質流動速度が野生型に比べ約1.5倍速くなっていることが明らかとなった。本成果は、原形質流動の本質的機能を明らかにする上で非常に重要な手掛かりになると考えられる。また今後、他のミオシンメンバーの機能を同定する上で、非常に有効な研究システムであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、ミオシンの速度を人工的に改変し生体内(植物)で発現させることによって、モータータンパク質の速度の意義を抽出するという全く新しい方法論に基づく試みである。この様な試みは動物においても前例がなく、有効な実験系として機能するかどうかは不確定であった。従って、システムの確立において多くのハードルが予測された。(1)速度を改変したミオシンが、期待するような速度を発生するのか?(2)細胞で発現できるのか?発現できたとしてもオルガネラ運動に期待した速度変化が得られるのか?(3)植物で発現させた場合、個体は生き残れるのか?(4)形質転換体が得られたとしても表現型が得られるのか?(5)原形質流動速度に期待した速度変化は見られるのか?申請者は、これまでの研究経験を生かし、これらの課題をクリアすることに成功した。結果驚くべきことに、原形質流動に関与するたった一種類の植物ミオシンを高速化、あるいは低速化することによって、植物が大型化、あるいは小型化することが明らかになった。速度と植物サイズにリニアな相関がみられたことから、ミオシン速度というファクターが植物サイズ制御に直接的に関与していることが強く示唆された。今後ノックアウト等の従来的方法論のみでは難しいミオシン個々の機能を同定する上で、革新的な研究システムとして展開が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
ミオシンXI-2以外にも、原形質流動の動力と考えられるミオシンメンバーの存在が複数示唆されている(XI-1, XI-B, XI-I, XI-K)。これらのミオシンメンバーのマルチノックアウトが植物体の成長あるいは根毛やtrichomeの先端成長に阻害的な影響を与えることから、それぞれの駆動力が植物成長に重要な働きを持つことが示唆されている(Peremyslov et al., 2010, Plant Cell)。しかしながら、ノックアウト解析のみではミオシンメンバー個々の機能解明は限定的である。今後、XI-2以外のメンバーの速度改変型を作製し、植物体で発現させる。表現型やイメージングによる詳細な比較解析を行い、メンバーの機能分担様式や、それらが植物成長や形態形成に及ぼす影響を明らかにする。同時に、成長関連物質への影響を解析することで、原形質流動速度と植物成長の関連を明らかにしていく。また、Promoter-GUS解析から花粉特異的に発現するミオシンを数種類同定した。花粉管の伸長やガイダンスには複雑なシステムが存在する (Cheung and Wu,2008,Annu.Rev.Plant Biol.)。ミオシンが駆動力のみならず重要な制御因子として花粉特異的に進化した可能性が考えられる。花粉特異的メンバーの速度改変型を発現させ、伸長やガイダンスに与える影響を解析する。解析を行ったミオシンメンバー変異体に関して、最終的に得られた細胞レベルでの輸送異常と高次機能における表現型異常を体系的に関連させ、統合的解析を行う。経路を遮断しない速度改変による解析から、細胞内交通と高次機能を結びつけることができる新規情報が得られると考える。加えて、植物高次機能におけるモーター固有の速度に関する議論も展開していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度では、ミオシンXI-2においてキメラミオシンの植物での発現に成功したことから、詳細な表現型解析を行うための研究設備に研究費を拠出した。キメラミオシンの発現系に目途が立ったことから、次年度では他のミオシンメンバーにおける本実験系の適用を計画した。多数のミオシンメンバーにおいて高速化あるいは低速化を行うため、コンストラクト作製や形質転換植物の作製には非常に時間と労力を必要とする事が予想された。それを克服するために、平成23年度予算から、1,177,827円をH24年度における研究補助員のための人件費とそれに伴う消耗品費として拠出することで研究の促進を計る予定である。
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Research Products
(6 results)