2011 Fiscal Year Research-status Report
フナムシの超微細構造による吸水メカニズムーその機能の不安定性と補償システム
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23770062
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
堀口 弘子 浜松医科大学, 医学部, 教務員 (50324356)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | フナムシ / 吸水行動 / 走査型電子顕微鏡 / 脱皮 |
Research Abstract |
動物の集水・吸水メカニズムについて、口器以外の知見は極めて乏しい。これまで、等脚目に属するフナムシ類が体表の構造を用いた独特な吸水様式を獲得していることを明らかにしてきた。すなわち2対の後肢(第6肢と第7肢)の表面に存在する、高さ約30μmのクチクラの毛状突起が規則正しい列を形成するという精密な機構を介した海水の吸水とその調整である。しかしこのような精密な構造であるがゆえに「汚れの付着」と「構造の摩耗」という不安定性にさらされている。そこで本研究では微細列構造とその特性の経時的変化を形態学的及び物性の面から追跡することにより、吸水メカニズムとその機能の不安定性を明らかにし、環境変化と脱皮リズムの関連を明らかにすることを目的とした。 フナムシは成虫脱皮を繰り返し、体サイズを大きくしていくが、これに伴って吸水機能も変化すると考えられる。そこで本年度は、脱皮というイベントが個体に与える影響とその意味を明らかにした。 不安定性の要因として「汚れの付着」と「構造の摩耗」が脱皮の間にどの程度生じているのかを明らかにするため、走査型電子顕微鏡像を用いた画像解析を行った。その結果、脱皮前の個体では脱皮直後の個体に比べて、列構造に多くの汚れの付着があることが明らかになった。汚れの付着は列構造の周縁部や溝構造の中央部分で特に顕著に見られた。しかしもう一つの不安定性の要因である「構造の摩耗」については脱皮前後で明確な違いは確認されなかった。今後、飼育基材の違いによって構造の摩耗が生じるかという点について検討を行う必要性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は脱皮の前後で列構造にどのような違いがみられるかについて検証を行った。走査型電子顕微鏡を用いた画像解析では、脱皮前後で列構造の汚れの付着に違いが見られた。フナムシの第6・7肢では、直線上に並んだクチクラの突起が約30μmの間隔で10列程度並ぶことにより幅約200-300μmの列構造を形成している。このうち特に周縁部分の1-2列の汚れが著しかった。また突起そのものにも付着物が多く見られ、感覚毛が完全に覆われるほど汚れが付着している箇所も見られた。列構造には場所によるクチクラ突起形態の特殊化がみられ、形態の違いによって水の吸水機能に違いがあることが明らかになっている。汚れの付着が多く見られた周縁部の毛の列は、毛細管現象により水を重力に逆らって上昇させる機能があることから、この部位の汚れは水の吸水効率を低下させる可能性が示唆された。 また本年度の研究によって新規に明らかになったこととして、幼生における列構造の形態が挙げられる。フナムシの幼生はメス成体の育児嚢で孵化し、その後放出される。孵化直後は脚を6対しかもたないため、幼生は脚の列構造を用いた吸水機能は有さないと考えられてきた。しかし本年度の研究により、6対の脚のうち最も後側の2対に成体と同様の列構造を有することが明らかになった。 次年度は申請した課題に加え、新規に発見された幼生の脚の構造と行動も含めた解析を行うことで本研究課題をさらに深く解明することが可能になると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
微細列構造の親水性はある一定の繰り返し構造によって実現されることがわかっているが(Onda et al., 1996)、成長に伴って体サイズを大きくするフナムシでは脱皮により列構造の大きさや形が変化する可能性がある。また、微細構造を形成するクチクラの構成成分が、構造体の親水性の度合いを規定するために重要な要素であることも知られている(Kaufman et al., 1985)。 甲殻類は脱皮により、ある一定期間ごとにクチクラの外骨格を脱ぎ捨て、新しい体表面を作る。この時、クチクラに含まれる石灰質を体内に吸収し、脱皮後再びクチクラに移動させて硬化させる。このため昆虫と比較して新しい殻が硬化するのに時間がかかる。すなわち、脱皮前後のクチクラ構成成分が変化する時期にどのように脚の吸水能力が変化し、この時の列構造の親水性はどのように変化しているのか。個体レベルでの補償を検証する。 そこで脱皮に伴う一時的な吸水能力の変化に対し、(1)乾燥耐性の一時的獲得、(2)別方式の吸水機構、(3)行動的補償の3つの補償システムを仮定して、解析を行う。 本年度は幼生の脚に関する新規知見が見つかったことや、実験計画に修正を加える必要が生じたことから、次年度使用予算が発生した。そこで、上記の個体レベルにおける補償の検証に加え、幼生と成体の脚についての比較解析、飼育基材の違いによる列構造の摩耗についての実験を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画について、(1)乾燥耐性の一時的獲得について、脱皮前後での体内環境の変化を、糖・タンパク・塩などを指標に測定する。実験はカラムクロマトグラフィーを用いて、体液組成の解析を行う。(2)別方式の吸水機構、(3)行動的補償については、吸水能力が低下した場合に個体レベルでどのような補償行動が行われているか解析を行う。実験アリーナを設置し、吸水場所を提示したところに、約1時間の乾燥状態にさらしたフナムシを入れて、水場へのアクセス回数や水場での滞在時間を測定する。またフナムシは脱皮を行う際、一度に全ての殻を脱ぐのではなく、胸部中央から頭部側と尾部側にわけて半分ずつ脱皮を行う。そこで、脚の吸水構造が低下した場合、他の部分(特に頭部側)を用いた吸水行動を行う可能性(例えば口からの吸水)を上記ビデオ撮影による動画の解析により検証する。行動実験の記録には本申請により購入予定の動画記録装置一式を用いる。 また、脱皮前後における吸水能の変化については、クチクラの構成成分の変化をカラムクロマトグラフィーを用いて解析を行う。流速・流量についても動画記録による解析を行う。飼育基材の違いによる列構造の摩耗については、走査型電子顕微鏡を用いた画像解析を行う。 次年度使用予定の本年度予算は、新規に年度末に発見した、幼体と成体の脚の微細構造の形態的解明及び、流水計測に用いる。流水計測については、動画記録装置を用いて速度、流量を測定する。形態的解明については走査型電子顕微鏡と透過型電子顕微鏡をを用いた画像解析を行う。
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Research Products
(1 results)