2013 Fiscal Year Research-status Report
フナムシの超微細構造による吸水メカニズムーその機能の不安定性と補償システム
Project/Area Number |
23770062
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
堀口 弘子 浜松医科大学, 医学部, 教務員 (50324356)
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Keywords | フナムシ / 吸水行動 / 走査型電子顕微鏡 / 脱皮 |
Research Abstract |
動物の集水・吸水メカニズムについて、口器以外の知見は極めて乏しい。これまで、等脚目に属するフナムシ類が体表の構造を用いた独特な吸水様式を獲得していることを明らかにしてきた。すなわち2対の後肢(第6肢と第7肢)の表面に存在する、高さ約30μmのクチクラの毛状突起が規則正しい列を形成するという精密な機構を介した海水の吸水とその調整である。しかしこのような精密な構造であるがゆえに「汚れの付着」と「構造の摩耗」という不安定性にさらされている。そこで本研究では微細列構造とその特性の経時的変化を形態学的及び物性の面から追跡することにより、吸水メカニズムとその機能の不安定性と脱皮リズムの関連を明らかにすることを目的とした。 フナムシは成虫脱皮を繰り返し、体サイズを大きくしていくが、これに伴って吸水機能も変化すると考えられる。不安定性の要因として「汚れの付着」と「構造の摩耗」が脱皮の間にどの程度生じているのかを明らかにするため、走査型電子顕微鏡像を用いた画像解析を行った。フナムシの第6・7肢では、直線上に並んだクチクラの突起が約30μmの間隔で10列程度並ぶことにより幅約200-300μmの列構造を形成している。このうち特に周縁部分の1-2列の汚れが著しかった。また突起そのものにも付着物が多く見られ、感覚毛が完全に覆われるほど汚れが付着している箇所も見られた。汚れの付着が多く見られた周縁部の毛の列は、毛細管現象により水を重力に逆らって上昇させる機能があることから、この部位の汚れは水の吸水効率を低下させる可能性が示唆された。また、フナムシの孵化直後の幼体は脚を6対しかもたず、水中に長く滞在する生活様式をとるため、脚の列構造を用いた吸水機能は有さないと考えられてきたが、6対の脚のうち最も後側の2対に成体と同様の列構造を有することを新たに明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
フナムシ後肢に存在する微細列構造における水の上昇は、単離した脚においても生じる界面張力による受動的な現象である。本年度は、この微細列構造に対する汚れと摩耗が引き起こす機能の不安定性、及びフナムシが脱皮という「構造的な自己解決」により補償している可能性を検証した。まず微細列構造が汚れと摩耗によりどのような形態的変化を受けるのか、そして脱皮の前後で列構造にどのような違いがみられるかについて調べた。走査型電子顕微鏡を用いた画像解析の結果、脱皮前後で列構造の汚れの付着に違いがあることを見いだした。特に10列程度並ぶ列構造のうち最初に水が上昇する周縁部分の1-2列の汚れが著しかった。また、突起そのものにも付着物が多く見られ、感覚毛が完全に覆われるほど汚れが付着している箇所も見られた。汚れの付着が多く見られた周縁部の毛の列は、毛細管現象により水を重力に逆らって上昇させる機能があることから、この部位の汚れは水の吸水効率を低下させる可能性が示唆された。その後の脱皮により汚れの付着が解消されたので構造的な自己解決によって機能の不安定性を補償していることが示唆された。 またメス成体の育児嚢で孵化した幼体は6対しか脚を持たないが、育児嚢から放出されたのち約2週間から1ヶ月の間に7対の脚となることが明らかになった。フナムシの脚を用いた吸水は第6・7肢を合わせることによって可能になるため、孵化直後に脚を6対しかもたない幼体では第7肢が存在せず、列構造を用いた吸水機能は有さないと考えられてきた。しかし6対の脚のうち最も後側の2対に成体と同様の列構造を有することが明らかになり、このことにより孵化直後の幼体も列構造を用いた吸水を行うことが示唆された。本研究課題をさらに深く理解するために、次年度は申請した課題に加え、幼体の脚の構造と吸水様式についての解析を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず、フナムシ後肢の微細列構造の不安定性について、さらに詳細な解析を進める。微細列構造の親水性はある一定の繰り返し構造によって実現されるが、列構造に汚れが付着することにより列構造の幅や形状が変化する可能性がある。そこで、フナムシ後肢の微細列構造の「汚れの付着」による流路の構造変化の形態的観察と、それによる水の流れ方の変化、流水スピードの変化を高速ビデオを用いて詳細に解析する。一方で明確な違いが見られなかった「構造の摩耗」に関しても解析条件を再検討し、飼育基材の変更による摩耗や、人為的な列構造の欠失による吸水効率の変化を解析する。 また、脱皮は「汚れの付着」という微細列構造が直面する不安定性への補償機構の一つと考えられるが、同時に脱皮という現象自体が不安定性を内含する可能性がある。すなわち、脱皮前後のクチクラ構成成分が変化する時期にどのように脚の吸水能力が変化し、この時の列構造の親水性はどのように変化しているのか、個体レベルでの補償を検証する。さらに脱皮前後の構造変化に伴うクチクラ成分の変化が物性的に吸水に及ぼす影響を調べるために、表面成分解析法の確立を目指すとともに、その解析法が確立できなかった場合はクチクラ表面の化学的処理を行い水の流れ方の解析を行う。 以上の不安定性に関する再検証を踏まえたうえで、脱皮に伴う一時的な吸水能力の変化に対する、①乾燥耐性の一時的獲得、②別方式の吸水機構、③行動的補償という3つの補償システムについて、当初の研究計画に従って検証していく。加えて、新たにみいだした幼体の成長過程における後肢の微細列構造の形態変化および吸水特性の変化を調べ、その生理機能や補償機構を考察していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
育児休業による中断の延長により、研究期間が延長したため。 飼育基材の違いによる列構造の摩耗について走査型電子顕微鏡を用いた画像解析を行う。さらに新規に発見した幼体と成体の脚の微細構造の違いについて、走査型電子顕微鏡と透過型電子顕微鏡による形態的解析および動画記録装置を用いた流水計測を行う。走査型電子顕微鏡および透過型電子顕微鏡は大学に既存の共通機器を利用し機器使用料を本研究費より支払う。 別方式の吸水機構と行動的補償については吸水能力が低下した場合に個体レベルでどのような補償行動が行われているか行動解析を行う。またフナムシは脱皮を行う際、一度に全ての殻を脱ぐのではなく頭部側と尾部側にわけて半分ずつ脱皮を行う。そこで脚の吸水構造が低下した場合、他の部分(特に頭部側)を用いた吸水行動を行う可能性を上記ビデオ撮影による動画の解析により検証する。行動実験の記録には本申請により購入予定の動画記録装置一式を用いる。
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