2011 Fiscal Year Research-status Report
ワカレオタマボヤ形態の網羅的解析~最も単純なモデル脊索動物の確立に向けて~
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23770063
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
西野 敦雄 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (50343116)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 細胞・組織 / 発生・分化 / 遺伝学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、脊索動物ワカレオタマボヤを線虫のように真に有用で単純な研究モデル動物として確立することである。ワカレオタマボヤOikopleura dioicaは脊索動物門に属する海洋性動物プランクトンであり、脊椎動物に最も近縁な無脊椎動物の一群に含まれる。脊椎動物と共通の基本体制を備えるが、世代時間が約5日であり、また生活史を通じて透明で、線虫に比するほど単純な細胞構成とコンパクトなゲノムを持つ。 我々は、この動物を実験室内で長期経代飼育する技術を確立し、また外来の核酸からタンパク質を生体内で発現させる手法を完成していた。平成23年度には、我々はまず、この動物において非常に高効率にRNAiを引き起こすことに成功した。はじめに、導入した蛍光タンパク質合成mRNAに由来する蛍光タンパク質発現を、卵巣内で同時に導入したdsRNAが高効率に抑制できることを示した。さらには、胚性に働く遺伝子の発現を卵巣内にdsRNAを導入しておくことで、強力に抑制できるということを見出した。今後はさらにその適用性を拡張していく予定である。また、細胞膜および核に局在を示す蛍光タンパク質の合成mRNAを導入することにより、胚発生過程を蛍光顕微鏡下で継続的に観察することに成功した。この観察手法を引き続き発展させ、3次元的に胚の蛍光像を取得するシステムを確立する。本研究を通して、最も単純な脊索動物の体が出来上がるまでのプロセスを解明する。そのほか、琉球大学理学部の広瀬裕一教授の助力も得ながら電子顕微鏡による表皮や尾部の微細構造に関する研究を進めた。その他の組織についても繰り返し観察を行ない、情報を蓄積していく。 本研究を通して発展していく技術と得られていく形態情報は、今後のこの動物の新しいモデル生物としての有用性を支えるものになる。平成24年度も更なる進展と公表をはかっていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年1月、研究代表者は弘前大学農学生命科学部に大阪大学理学研究科から異動した。引越や研究室の立ち上げに多大な労力を払ったが、大規模な分子生物学的な手法を用いたアプローチを除いて、おおむね研究は順調に進行した。 本年度計画した(1)「蛍光タンパク質プローブを用いた核と細胞膜の発生過程を通じた追跡」については基本的な技術が確立した。励起光によるダメージなどで発生過程が破綻することもなく、デコンボリューション顕微鏡を用いた連続観察のノウハウも蓄積してきた。本年度は初期発生に関して研究を進めるとしたが、その通り進められた。(2)「SEMを用いた発生過程の観察」については、成体に関する情報を多く蓄積することができた。しかし成体期の外部および内部形態の観察に集中したため、その発生学的な成立過程に関する観察はいまだ不十分であり、今後の課題である。 (3)「TEMを用いた成体の持つ細胞種の多様性の把握」については、現在、実際に観察を行ない、特徴づけにとりくんでいるところである。(4)「組織・細胞種特異的な発現を示す遺伝子の収集」については、次の(5)に集中的に注力したため、大きな進展を示すことができなかった。(5)「トランスポゾンの利用可能性の検討」については、Sleeping Beautyがオタマボヤの胚で効率よく発現することに注目して、転移酵素のmRNAと筋肉特異的な蛍光タンパク発現を引き起こす人工遺伝子を同時に導入する実験を行ったが、次世代に遺伝子を受け継がせることはいままでのところ出来ていない。条件検討をさらに行っていく必要がある。(6)「RNAi技術の導入可能性の検討」については、非常にうまくいくことがわかり、さらなる発展に努めている。本計画部分については期待以上に進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度も、研究室の立ち上げに継続して取り組む必要がある。今まで使用していた備品がなくなったことから、まずは確実な形態情報の蓄積と報告に重点を置く。ワカレオタマボヤの体を構成する細胞は、数が極めて少ないことに注目し、成体の体を構成する細胞種の形態、位置、数についてさらに研究を進めていく。蛍光および電子顕微鏡観察によって、細胞学的な特徴を定めると共に、各形質の個体発生上の成立過程を明らかにしていく。 蛍光タンパク質プローブを用いて発生過程の研究を進める研究部分については、初期胚発生過程に関する4次元的な情報を蓄積していくと共に、さらに後期発生過程にまで解析を推し進めていく。上記の形態学的研究とつなげる意味でも、細胞骨格に局在する蛍光タンパク質プローブなども導入し、十分な情報が得られるようさらに拡張性を探っていく。RNAi法の適用に関しては、線虫のように、dsRNAを発現する大腸菌を食べさせたり、dsRNAを含む溶液に個体を浸すだけで発現抑制を引き起こすことができないか検討する。また、実際にRNAiによって発現抑制を行うことで、初期発生に関わる遺伝子をスクリーニングする実験系の構築にも取り組む計画である。トランスポゾンの適用可能性について条件検討をさらに進め、トランスジェニック系統の作出を引き続き目指していく。これらはオタマボヤが真の研究モデル生物として発展するための大きな試金石になると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度は少額を残しておおむねすべて使用した。研究室の立ち上げもあり、幾つかの備品と少額の簡易機器の購入など、当初の計画とは多少異なる物品の購入をやむをえず行った。本年度も必要な簡易機器の購入、実験動物の飼育設備の拡張を進める。その他は遺伝子クローニングやRNA合成にかかる分子生物学用試薬類、電子顕微鏡観察用試薬類および消耗品が主な支出となる。青森県に異動後、冬季だったこともあり、本県沿岸部での実験動物の採集について、いまだノウハウを確立できずにいる。本年度は、採集旅行を定期的に行い、どこで実験動物の採集がコンスタントに行えるか、状況を確認しながら方法を確立する必要がある。それら採集旅行と、学会発表を行うための出張を行う。研究を通じて明らかになったことは、学会発表と共に、原著論文として投稿を行う予定である。
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Research Products
(9 results)