2011 Fiscal Year Research-status Report
社会性昆虫の繁殖制御に関わる神経・内分泌機構の進化学的研究
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23770078
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Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
佐々木 謙 金沢工業大学, バイオ・化学部, 准教授 (40387353)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 行動学 / 昆虫 / 進化 / 生理学 / 脳・神経 |
Research Abstract |
社会性昆虫で見られる繁殖分業は、巣の成長や繁殖の高効率化を実現するために進化した性質であり、繁殖制御機構の解明は進化生物学上の重要な課題である。本研究では、社会性進化の程度の異なる3種のハナバチを用いて、生殖腺刺激ホルモンの候補であるドーパミンについて、生殖腺の発達に伴うドーパミン関連物質(ドーパミンとその前駆・代謝物質)量やドーパミン受容体遺伝子の発現量の変化を調査し、ドーパミンを調節する生理的要因や環境要因を特定する。 平成23年度では、まずセイヨウミツバチにおいて、オスの性成熟に伴うドーパミン関連物質の脳内量を調査した。生殖腺の発達に伴って脳内のドーパミン前駆物質量は減少し、ドーパミンや代謝物質量は増加した。性成熟前のオスにメソプレン処理を施したところ、脳内ドーパミン量は増加し、特定のドーパミン受容体遺伝子の発現が上昇した。無女王群ワーカーにおいては、生殖腺の発達に伴ってドーパミンと代謝物質の脳内量は増加したが、メソプレン処理による脳内ドーパミン量の増加は見られなかった。女王・無女王群ワーカーでは、餌からのチロシン供給がドーパミン量に影響を与える結果が得られた。このように、脳内のドーパミン制御機構がオスとメスで異なることが確認できた。 クロマルハナバチにおいて、無女王条件下でワーカーにドーパミン経口摂取を一定期間行ったところ、脳内でのドーパミンの取り込みと代謝物質の増加が確認された。卵巣発達が予想以上に速かったため、卵巣発達を評価する日齢を今後検討する必要がある。 キムネクマバチにおいて、オスのドーパミン注入による飛翔行動への影響を調査した。クマバチのオスは繁殖なわばりを維持するために飛翔行動の活性を高める必要があり、ドーパミン注入によって、飛翔行動の促進や活動性の上昇が引き起こされた。単独性種のオスにおいても、ドーパミンが繁殖行動を促進する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の実験計画に沿って実験を遂行することができ、実験に用いた3種それぞれにおいて、次年度の研究につながる研究成果を残すことができた。各種の具体的な達成度に関しては後述するが、今年度の「研究の目的」に対する全体の達成度は高いといえる。 セイヨウミツバチにおいて、オスの性成熟に伴う脳内ドーパミン関連物質の動態と受容体遺伝子の発現量を調査し、幼若ホルモンによる脳内ドーパミンと受容体遺伝子の制御を明らかにした。この成果を現在、投稿論文として学術雑誌へ投稿し、審査を受けている。メスにおいては、脳内ドーパミン量のカースト差が生じる合成・代謝メカニズムを解明した。この成果は国際誌に受理され、現在、印刷中である。無女王群ワーカーを用いたチロシン経口摂取による脳内ドーパミン量調節機構については、次年度以降に追試を行い、論文化を目指す予定である。このように、ミツバチを用いた実験では、今年度の「研究の目的」に対する達成度は十分高いといえる。 クロマルハナバチにおいて、ワーカーによるドーパミン経口摂取実験では、脳内へのドーパミンの取り込みを確認できたものの、卵巣発達の評価で試験期間を検討する必要がでてきた。次年度に条件を変えて実験を行う予定であり、今年度の達成度は中程度であった。 キムネクマバチにおいては、オスのドーパミン注入による繁殖行動活性を証明する結果が得られ、実験計画通りに順調に進行している。現在までの成果は学会発表でも公表されている。このように、クマバチを用いた実験では、今年度の達成度は高いといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の実験がほぼ計画通りに進んだことから、平成24年度ではさらに遺伝子レベルの解析を進め、外的環境を実験操作した場合のドーパミン関連物質の動態やドーパミンの機能解析を行う。各種の計画は以下の通りである。 セイヨウミツバチでは、無女王群ワーカーのチロシン経口摂取時のドーパミン関連物質の動態と卵巣発達への影響を調査し、さらにチロシン摂取によるドーパミン受容体遺伝子の発現への影響も調査する。オスにおいては、女王フェロモンに対する脳内ドーパミン量やドーパミン関連遺伝子の発現量への影響について調査する。 クロマルハナバチにおいては、無女王群ワーカーにおけるドーパミン関連物質の定量と卵巣発達について調査し、前年度に行ったドーパミン経口摂取実験をより適切な条件下で行う。メソプレン処理実験やドーパミン関連遺伝子のクローニングも始める。 キムネクマバチでは、メソプレン処理による脳内ドーパミン量への影響を調査する。さらにドーパミン関連遺伝子のクローニングも始め、遺伝子レベルの実験の準備を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度にリアルタイムPCRシステムを購入し、ドーパミン関連遺伝子の発現が定量できるようになった。しかし、抽出したRNAの定量の際に、従来の分光光度計の使用によりRNA液を余分に浪費してしまい、RNA液の十分な確保ができなかった。平成24年度では微量の抽出液からRNAの定量が行えるナノスケール分光光度計を購入し、限られたサンプルから効率的なRNAの抽出を行えるようにする。また、RNA抽出や定量リアルタイムPCRを行うための試薬や消耗品の使用が増えることから、これらの購入のための費用を確保する必要がある。 セイヨウミツバチやクロマルハナバチを実験に用いるために、業者からそれぞれの巣を複数購入し、飼育道具の一部を補充する必要がある。さらにホルモン処理実験などで用いる試薬・消耗品の購入や脳内アミン量の定量で使用するHPLC用試薬・消耗品を随時行う。脳内アミンの定量実験では2つの異なるHPLC-ECDシステムを同時に稼動させているため、カラムや電極などの消耗品を購入し、実験が円滑に行われるようにする。 実験の遂行と平行して、成果発表も積極的に行い、投稿論文作成の際に必要な英文校閲費や学会発表の際の旅費を確保し、使用する。
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Research Products
(14 results)