2011 Fiscal Year Research-status Report
QTLマッピングによる渓流沿い植物ヤシャゼンマイにおける適応と種分化過程の解析
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23770080
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
角川 洋子 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70575141)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 種分化 / 適応的形質 / 渓流沿い植物 / 細葉形質 / 繁殖様式 / フェノロジー / 相関解析 / QTLマッピング |
Research Abstract |
ヤシャゼンマイとその姉妹種であるゼンマイの自然推定F1雑種から採取した胞子を用いて作成したDoubled Haploid集団を解析し、120マーカーを含む遺伝地図を作成した。その上で渓流帯に進出する上で適応的であると考えられる形質の遺伝的背景を調べている。細葉形質の関しては、F2集団を作成し、三出複葉になった時点で形態形質を測定し、41マーカーを解析して複数の遺伝子座に支配されていることや、小羽片基部の角度や下側最下の脈から分岐する脈の数と相関の強い遺伝子座を明らかにした。(角川&堤 plant morphology 24:51-55)また、ヤシャゼンマイとゼンマイの繁殖様式の違いに関わる遺伝的背景を解析した結果、ゼンマイがもつ有害遺伝子は連鎖群11に存在する可能性が高いことが明らかになった。この連鎖群11には既に12個のマーカーがマッピングされている。これらのマーカーのうち、8個のマーカーにおいて人工交配集団で分離比の歪みが確認された。配偶体集団では分離比の歪みはそれほど大きくないが、胞子体世代でゼンマイがもつ対立遺伝子がホモ接合になると致死率が高くなることがわかった。特にEST_606と EST_157, EST_925では、この傾向が強くみられた。(日本植物学会第75回大会において発表)野外集団(京都市保津峡集団と埼玉県飯能市入間川沿いの雑種集団)を解析したところ、やはりEST_606においてゼンマイの対立遺伝子の頻度が有意に低いことが明らかになり、その近傍の遺伝子座においてもヘテロ接合度が高いことなどが明らかになった。(日本植物学会第75回大会において大学院生の水谷有希氏が発表) さらに、葉柄形態や展葉フェノロジーを観察した結果、ヤシャゼンマイにおいて栄養葉の葉長が短くなっていることが明らかになり(日本植物分類学会第11回大会発表)、適応的形質として解析対象とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヤシャゼンマイとゼンマイの間で、適応的形質の遺伝的背景と自然選択圧のかかり方を調べることにより、どのように種としてのまとまりが生じ維持されているのかを明らかにすることが本研究の目的だが、解析対象としている形質によって進展状況に差がある。また、分子マーカーごとの相関解析は比較的順調に進んでいるが、QTLマッピングのためには遺伝地図のマーカー密度を高める必要がある。マーカーを開発するため、次世代シークエンス解析を行ない、86.6Mbpのゲノムシークエンスが得られた。現在までに、細葉形質に関しては相関が強くみられる遺伝子座がみつかったが、小羽片の基部の角度や下側最下の脈から分岐する脈の数、葉形指数などは、独立に分離する可能性が示唆され、遺伝的背景を明らかにするためには、それぞれマッピングする必要があることが明らかになった。それ以外の適応的な形質としては、ヤシャゼンマイの自配受精能を解析対象とし、自配受精率に関わるゲノム領域の解析を行なった。人工交配集団における分離の解析結果より、ゼンマイにおいて自配受精を妨げる劣性有害遺伝子が含まれるゲノム領域が明らかになった。ヤシャゼンマイとゼンマイの野外集団について集団遺伝学的な解析を行った結果、種間で対立遺伝子を共有している程度に差があり、種間での遺伝子浸透が起こりやすいゲノム領域と起こりにくいゲノム領域があることが明らかになった。今後は、このゲノム領域が実際にゼンマイの集団内で自配受精を妨げ、他殖性を維持する役割があるかどうかを明らかにする必要がある。また、ヤシャゼンマイとゼンマイおよびレガリスゼンマイの展葉フェノロジーや葉柄形態の解析により、栄養葉の葉長など、新たに適応的な形態形質として注目すべき形質がみつかったが、相関解析やQTLマッピングのためには人工交配集団においてどのように量的形質を測定するかを考案する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
推進方策としては、以下の4点が挙げられる。まず、分子マーカーごとに相関解析は比較的順調に進んでいるが、ゼンマイ類におけるQTLマッピングのためには遺伝地図のマーカー密度を高める必要があり、ESTライブラリーと得られた次世代シークエンスデータを用いてマーカー開発を行ない、人工交配集団において解析することにより、遺伝地図にマーカーを追加する。次に、細葉形質に関しては相関が強くみられる遺伝子座がみつかったが、小羽片の基部の角度や下側最下の脈から分岐する脈の数、葉形指数などは独立に分離する可能性が示唆されたので、それぞれ別々に量的形質を評価してマッピングする。また、細葉形質のみでなく、ヤシャゼンマイが渓流沿いの環境に進出する上で獲得した他の適応的な形質も調べる必要がある。それぞれの適応形質について生育中のF2雑種個体で量的形質を正確に測定した上で、マーカーごとの相関解析もしくはQTLマッピングを行い、機能遺伝子を含むゲノム領域を明らかにする。さらに、それぞれの適応形質を支配する遺伝子の位置関係を調べることにより、適応形質が遺伝的に互いにどの程度相関しているかを明らかにする。また、ヤシャゼンマイの自配受精能を解析対象とした結果、ゼンマイにおいて自配受精を妨げる劣性有害遺伝子が含まれるゲノム領域が明らかになったので、実際にこのゲノム領域がゼンマイの集団内での自配受精を妨げ、他殖性を維持する役割があるかどうかを明らかにする。さらに、ヤシャゼンマイとゼンマイの野外集団について集団遺伝学的な解析をゲノム全体について行ない、ヘテロ接合度が高い領域や種間での遺伝子浸透が起こりやすいゲノム領域と起こりにくいゲノム領域を明らかにし、適応形質を支配する遺伝子にどのように自然選択圧がかかっているかを調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
既にESTライブラリーと次世代シークエンス解析のゲノムシークエンスがあるので、これに基づいて、マーカー開発を行ない、変異探索と遺伝地図上へのマッピングを行なう。また、QTLマッピングのためには現在の60個体程度から200~300個体に増やす予定である。そのために、DNA抽出用のキットおよびダイレクトシークエンス用の試薬、CAPSマーカーとSSRsマーカー解析用の試薬として消耗品費の3分の2程度(100万円)を使う。また、ゼンマイの純群、ヤシャゼンマイとゼンマイの野外雑種集団と人工交配集団について、CAPSマーカーとSSRsマーカーを解析するための試薬代として消耗品費の3分の1程度を使う。その他の消耗品費としては、現在生育中のF2雑種個体の管理と新規に胞子から培養するための培地等の試薬代、量的形質の正確な測定に必要な設備に関する消耗品代および計測したデータを管理するための費用が考えられる。さらに、野外集団において調査・採集するため、及び、得られた成果を学会発表するための国内旅費(20万円)を使う予定である。
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Research Products
(5 results)