2011 Fiscal Year Research-status Report
東アジア産有尾類の系統分類学的な再評価と多様性形成史の推定
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23770084
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西川 完途 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 助教 (10335292)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 有尾類 / 東アジア / 種多様性 / 系統分類 / 中国 / 台湾 / 国際情報交流 |
Research Abstract |
本年度は、イモリ科のムハンフトイモリPachytriton labiatusについてタイプ標本をドイツから借りて調査した結果を論文として公表した。調査された標本は頭骨等の特徴からフトイモリ属Pachytritonではなく、コブイモリParamesotritonであることが証明され、近年新種記載されたチャオエルミコブイモリPar. ermizhaoiのシニアシノニムであることが明らかになった。よって、ムハンフトイモリとよばれてきた種は、コブイモリ属のPar. labiatusとされるべきであることが明らかとなった。 また、これまでムハンフトイモリとよばれてきた種には分布の南北で大きな遺伝的・形態的な地理的変異があり、その差は別種レベルであることも明らかにされた。そこで北部の個体群には、かつてムハンフトイモリのジュニアシノニムとされていたPac. granulosusを復活させて、南部の個体群は新種Pac. inexpectatusとして報告した。 更に、フトイモリ属の全種を加えて各種の種内変異を調査したところ、Pac. granulosusとPac. inexpectatusの中に隠蔽種が存在することも明らかになり、それぞれPac. feii、Pac. moiという新種を記載した。 サンショウウオ科に関しては、福建省の武夷山において戦前に幼生が採集され、後に卵嚢のみが知られている正体不明のサンショウウオ属の調査を行ったが、繁殖場所の水がなく何も確認できなかった。その後、アメリカ自然史博物館に所蔵されている幼生の標本を借り出して、許可を得て組織採取を行った。今後DNA増幅ができないか取り組んで、系統的位置を調査する予定でまだ成果は得られていない。また、台湾にも野外調査に行き、現地の台湾師範大学の受け入れ研究者と共同研究の連絡をするとともに、野外でのサンプル採集に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ムハンフトイモリとされるイモリは、世界中で飼育されている種でありながら、その分類や野外での生態などはほとんど研究されて来なかった。しかし多くの隠蔽種が存在することは知られており、ドイツでは輸入される個体をAからDまでの4タイプに分ける報文まである。本年度の成果から、フトイモリは分類学的には別属のコブイモリであることが明らかにされ、上記のドイツでのタイプ分けとは正確に一致しないものの、多くの隠蔽種が存在することが明らかになった。そのほとんどを新種記載することで、フトイモリ属の分類学的研究は劇的に進展して、真の多様性の解明に一歩近づいたと言える。 ムハンフトイモリとされるイモリは世界で広く飼育されているために、一連の論文の公表後、海外の動物園や水族館、飼育マニアなどから問い合わせが相次ぎ、関連する論文の電子版ダウンロードは非常に多かったと報告を受けた。このことは本研究の成果について、科学的にだけでなく、社会的にも反響が大きかったと言える。 サンショウウオ科についての研究は、この仲間が隠棲的で繁殖期以外は採集が困難であることから、思うようにサンプリングが進まなかった。しかし、長年謎とされてきた福建省の武夷山の種は、近年は環境変化によって産卵環境が失われ絶滅の危機にあるということが確認されたことは、一つの成果であると言える。今回の調査結果を踏まえて、現地中国の受け入れ研究者とともに、武夷山自然保護区に対して今後の生息調査や保護活動に取り組むように提言を行った。台湾における共同研究は始まったばかりであるが、現地研究者とも良好な関係を築くことができたので、今後の研究の進展が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
イモリ科に関しては、本年度大きな成果のあったフトイモリ属についても、更にもう一種未記載種と思われる個体を入手しているので更に研究を進めて、新種記載を行う予定である。また、近縁のコブイモリ属についても形態的に他種と異なる特徴を持った個体群の情報を得ているので現地調査に行く予定である。基本的にはこれまでの野外調査、標本の形態調査、DNAなどの分子遺伝学的な調査を進めて、多様性の解明に取り組みたい。また、同様の調査をイボイモリ属Tylototritonについても昨年から開始しており、今後は順次成果を公表して行く予定である。 サンショウウオ科は特に採集の難しい仲間であるため、できるだけ国内外の博物館において標本調査にも取り組んで、また現地の研究者や保護区のスタッフらに協力を要請して、調査範囲を広げて人員も増やして採集効率を上げたいと思っている。近年はホルマリンで固定された博物館標本からも部分的にであればDNAを増幅してシーケンスに成功している例が知られており、借りた標本から組織を採取してDNAの増幅を試みたいと思っている。特に分類学的に問題のある種のタイプ標本や、本年度実績において述べた福建省のサンショウウオ属の一種のように数十年も生存が確認されておらず絶滅の危機に瀕している種の調査においては、決定的なデータを提供し得る。実験手法を改善して成功させたいと思っている。 また、中国においてサンショウウオ属以外のサンショウウオ科の数種についても種内変異の調査を開始したいと思っており、更に現地共同研究者との連携を深めてスムーズな調査許可の取得や野外調査の実施を行いたいと思っている。その為にも、6月には四川省の成都市で国際シンポジウムを企画しており、共同研究者らとともに成果の公開を行って、更に研究者ネットワークを拡大させる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
中国と台湾における野外調査のために本年度と同程度の旅費を計画している。また中国での国際シンポ運営・参加のための渡航費もそれに含まれる。野外調査には院生かポスドクを一名同行させるために、その分の旅費も必要になる。また、国内の諸学会においても成果発表を行う。 必要になる研究物品は野外調査道具や室内実験に関するものであり、本年度につづいて準備しなければならない。消耗品は主に分子遺伝学的な実験に必要となる者で、特に本年度はホルマリン固定標本からのDNA抽出とシーケンスに本格的に取り組む予定なので、専用の抽出キットや多くのプライマー等が必要になり、また抽出の困難なサンプルについては専門の業者に外注で実験を依頼する可能性も高い。 謝金は、野外調査の際のポーターやガイドに支払うものから、国内における実験補助に関して支払われるものがほとんどで、特に次年度は本年度に得られた多くのサンプルの解析依頼をするために実験補助の謝金額の占める割合が大きくなる予定である。 その他については、公表する論文の別刷代金が多くを占める予定である。 全体として、本年度の運用結果から、次年度は更に有効な研究費の使用計画を立てて、効率的な成果を得るために工夫をしたいと思っている。具体的には、実験データを早く得る為に実験の開始時期を早め、本年度の予備実験の結果か既に有効な遺伝子領域が判明した種についてはシーケンスの領域をその領域にしぼったり、海外における野外調査においても本年度雇ったのと同じガイドに調査補助を依頼したりすることで、更に効率的な成果が得られるように工夫する。
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