2012 Fiscal Year Research-status Report
東アジア産有尾類の系統分類学的な再評価と多様性形成史の推定
Project/Area Number |
23770084
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西川 完途 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 助教 (10335292)
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Keywords | 東アジア / 有尾類 / イモリ科 / サンショウウオ科 / 種多様性 / 系統 / 分類 |
Research Abstract |
本年度は、イモリ科のフトイモリ属Pachytritonについて新種を一種記載した。本種は日本のペット屋で販売されていた中国産とされる2個体で、これまでの本課題で得られた中国国内の属全種のサンプルと分子系統的および形態学的に比較した結果、未記載種と判明したものである。 イモリ科については他に、ベトナム北部のCao Bang県およびHa Giang県に生息するイボイモリ属Tylototritonの標本およびミトコンドリアDNAの塩基配列を調査して、未記載種であることを明らかにして新種として記載した。更に、日本のアカハライモリCynops pyrrhogasterの種内変異についてミトコンドリアDNAの塩基配列を用いて精査して、地理的変異の詳細について調べ、その成因について議論した論文を発表したが、その中で本課題の研究の一環として採集した中国産近縁種のサンプルも用いている。 サンショウウオ科に関しては、中国の東部の大別山にのみ生息するフトサンショウウオPachyhynobius shangchengensisについて、ヨーロッパおよび中国の共同研究者らと飼育下繁殖および成長の記録を論文としてまとめた。本種は近年も盛んにペットとして世界に広く輸出されており、生息地では個体数の減少が確認されている。そのため、本報告では飼育下での増殖に関するデータを公表しており、将来的な保護施策に役立つものと考えられる。 野外調査は中国の重慶市において行ない、分類学的な位置が不明であったコブイモリ属Paramesotritonの一種を現地で採集して、ビハンコブイモリP. caudopunctatusの一個体群とすべきであることを明らかにした。この成果については、現在論文として発表準備中である。また、中国の四川省で開催された国際学会に参加して、本研究課題で得られた成果について発表を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フトイモリ属の新種については、昨年度までに未記載種である可能性は公表済であったが、本年度の研究の進展により確証を得て即時記載することができた。ベトナムのイボイモリ属の新種についても国内外の両生類標本の調査により未記載種であることを発見して、これまでの中国産の近縁種の標本の蓄積により、スムーズに研究を進めることができた結果、年度内に公表に至ったという経緯がある。これまで過小評価されてきたと言われていた両属の多様性の解明が進んだと言えるだろう。 また、これら上記の2新種については、世界中で関心の高い属であるために、多くの別刷請求が届き、イボイモリについては複数のインターネット上のニュースにおいて配信された。生息地の開発や違法採集が行なわれている種で、保全の必要性が高いことから、とりあえず記載できたことは今後の保全施策への道を拓くものであったとも言える。 フトサンショウウオについても、既に述べたように将来的に域外保護の可能性もあるので、飼育法の確立やその資料を公開できた意味は大きい。研究代表者は、生息地での本種の生態や生活史についてのデータの提供を行なった。飼育下のデータだけでなく、本研究課題を通じて得られた野外データも提供できたことは、より現実的な飼育繁殖および将来的な野外放逐の上で重要な貢献であったと言える。 また、中国の重慶での野外調査では、現地の受け入れ研究者との良好な関係を築くことができたことから、今後の研究の進展が期待できる。 以上から、本年度は十分な成果が得られており、今後の研究の進展を考えても十分な準備もできている。そのために研究達成度を2と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
イモリ科に関しては、本年度大きな成果のあったフトイモリ属について、シノニムと思われる種について研究を進めて、論文として発表する予定である。また、重慶で採集したコブイモリ属の個体はビハンコブイモリと同定されたもの、基準産地の標本とは体色や体型に違いが見られるので、更に解析を進めて地理的変異の実態を解明して報告する予定である。イボイモリ属については、べトナムの種は記載できたが、他にまだ多くの分類学的な課題が残されており、次年度の野外調査で追加のサンプルを得て研究を更に進展させて行く予定である。 サンショウウオ科は特に採集の難しい仲間であるため、本年度は特に野外調査に関して思うようにサンプルを集めることができなかった。できるだけ国内外の博物館において標本調査にも取り組んで、また現地の研究者や保護区のスタッフらに協力を要請して、調査範囲を広げて人員も増やして採集効率を上げたいと思っている。次年度はホルマリンで固定された博物館標本からもDNAを増幅して、借りた標本から組織を採取してDNAの増幅を試みたいと思っている。特に分類学的に問題のある種のタイプ標本や、中国の福建省のサンショウウオ属Hynobiusの一種のように数十年も生存が確認されておらず絶滅の危機に瀕している種の調査においては、決定的なデータを提供し得る。また、本年度から開始しているカザフスタンに生息するシベリアサンショウウオRanodon sibiricusの地理的変異の研究を次年度は更に進展させて現地調査も行った上で、成果をまとめたいと計画している。 基本的には、これまでの研究方針や対象分類群には変更を加えず、現実的に成果の出易いテーマを選んで研究に取り組んで行く方針である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
中国とカザフスタンにおける野外調査のために本年度と同程度の旅費を計画している。野外調査には院生かポスドクを一名同行させるために、その分の旅費も必要になる。また、国内の諸学会においても成果発表を行う。 必要になる研究物品は野外調査道具や室内実験に関するものであり、次年度も準備しなければならない。消耗品は主に分子遺伝学的な実験に必要となる薬品などで、特に次年度はホルマリン固定標本からのDNA抽出とシーケンスに取り組むので、専用の抽出キットや多くのプライマー等が必要になり、また抽出の困難なサンプルについては専門の業者に外注で実験を依頼する可能性も高い。 謝金は、野外調査の際のポーターやガイドに支払うものから、国内における実験補助に関して支払われるものがほとんどで、特に次年度は本年度に得られた多くのサンプルの解析依頼をするために実験補助の謝金額の割合が増える予定である。その他については、公表する論文の別刷代金が多くを占める予定である。 全体として、本年度の運用結果から、次年度は更に有効な研究費の使用計画を立てて、効率的な成果を得るために工夫を行なう。具体的には、実験データを早く得る為に実験の開始時期を早め、本年度の予備実験の結果か既に有効な遺伝子領域が判明した種についてはシーケンスをその領域にしぼったり、海外における野外調査においても本年度雇ったのと同じガイドに調査補助を依頼したりすることで、更に効率的な成果が得られるように努力する。
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