2013 Fiscal Year Research-status Report
東アジア産有尾類の系統分類学的な再評価と多様性形成史の推定
Project/Area Number |
23770084
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西川 完途 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 助教 (10335292)
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Keywords | イモリ科 / フトイモリ属 / ミナミイボイモリ属 / 中国 / タイ / ミャンマー |
Research Abstract |
本年度は、近年記載されたイモリ科のフトイモリ属Pachytritonの2種について、その分類学的な関係を調査した。その結果、両種は形態的にも遺伝的にも大きな違いが認められない事から、同物異名であることが確認された。そのうち、研究代表者らが記載したP. changiの記載論文の方が先に出版されているため、シニアシノニムとした。 イモリ科については他に、タイ産のミナミイボイモリ属Tylototritonの種の分類学的位置をミトコンドリアDNAの部分配列に基づく分子系統と外部形態の解析により調査した。タイにはミナミイボイモリの1種のみが分布するとされてきたが、体色等から識別される3群の存在が明らかとなった。分子系統解析の結果、それぞれは既知種から別種レベルで遺伝的に分化していた。また、標本調査のできた2系統については、形態的特徴からも既知種から明瞭に区別され未記載種であることが明らかとなったため、新種として発表した。 また、上記のタイ産のミナミイボイモリ属の研究を行う中で、ミャンマー中部産の種が未記載である可能性が示された。形態的に最も似ているミナミイボイモリT. verrucosusと比較するために、基準産地の中国雲南省の南西部で野外調査を行った。また、昆明動物研究所において所蔵標本の調査も行って、ミャンマー中部産の標本はカリフォルニア科学院から借り出して、それらの形態的、分子生物学的な調査を行った。その結果、ミャンマー中部産の種が未記載種であることが確かめられ、新種として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フトイモリ属については、昨年度に1新種を発表した直後に、非常に外見的に類似した同属の種が記載されていた。分類学的な混乱を最小にするために、後に記載された種の基準産地のサンプルも入手して迅速に比較を行ってシノニムであることを示す事ができた。本属については研究代表者らのグループは系統分類学的な研究をリードできていると言えるだろう。 タイのイボイモリ属の新種については、存在自体は10年近く前から知られていたが、周辺国に分布する近縁種を入手して比較できた研究者はいなかった。本補助金により、既に中国とインドシナのサンプルを入手することに成功していたため、タイの種の分類学的な位置について結論を下すことができた。タイからは3つの系統が確認され記載できたのは2種のみであるが、残りの種については証拠標本が残っておらず、更に現地調査を行って標本を入手する必要がある。 ミャンマーのイボイモリ属の新種についても、存在自体は知られていたが、形態的に似ている種をこれまで誰も入手して比較することができなかった。今回、中国での野外調査によって上記の種も入手してミャンマーの種も新種記載することができたが、これはこれまで分類学的な研究が遅れているミャンマーにおいて、まだイモリ類の種多様性が過小評価されていることを示したと言えるだろう。 上記の2属については、世界中で関心の高い属であるために、多くの別刷請求が届き、共同研究の申し入れもあった。ただし、中国、タイ、ミャンマーは生息地の開発が急激に進んでおり違法採集も行なわれており、イモリ類の保全の必要性が高い。本研究において新種記載できたことは、今後の保全施策への道を拓くものであったとも言える。 以上から、本年度は新たな課題も生じたものの、十分な成果が得られていると言える。そのために研究達成度を2と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに、東アジアおよびその周辺地域の有尾類の多くの標本及び組織を入手することができた。また、それらの国々で多くの人脈を築くことにも成功した。本年度はそれらのサンプルや人脈を活用することで、効率的に研究を進めて、更に成果を挙げたいと思っている。 特に、まだ分類学的な問題が多く残されているコブイモリ属Paramesotritonや、一昨年から取り組んでいるサンショウウオ科のシベリアサンショウウオRanodon sibiricusの地理的変異の研究を進めて、年度内に論文として発表する予定である。研究材料はかなり収集できているので、分子実験や標本の形態計測・解析を迅速に行う予定である。 分類学的な研究を行う上では、基準標本の調査が最も重要である。しかし東アジアの種の標本の多くは、欧米の主要博物館にそのほとんどが収蔵されている。アメリカのものは多くが貸し出しを行っており、これまでにも多くの標本を借りて調査してきた。しかし欧州の博物館の多くはそのような貸し出しを行っていない。これまでに多くの研究材料を得ることはできたが、論文の形で発表するためには、上記の博物館に収容されている標本と比較をすることなしには結論が得られない。そこで本年度は、当初の予定通り欧州の主要博物館を複数訪問して基準標本の調査を行うことで、残された課題の解決に取り組む予定である。すでに当該博物館の学芸員にも連絡をとっており、一回の旅行で必要な全ての標本の調査ができるように日程調整を開始している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費の一部が想定していた金額よりも安かったために、残高が生じて、更に年度末に海外出張も重なったために使用することができなかった。無理に調整して使用することも不可能ではなかったが、研究費の使用計画にもそぐわないために次年度繰越を決めた。 本年度は成果公表を複数予定しているので、カラー図版代や別刷印刷費などの一部として有効に使用する計画をしている。
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