2011 Fiscal Year Research-status Report
分子マーカーを用いた日本列島のコケ植物の遺伝構造と空中のリソースに関する研究
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23770089
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
坪田 博美 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10332800)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | コケ植物 / 葉緑体 / ハプロタイプ / 散布 / 蘚類 |
Research Abstract |
平成23年度は,一部の材料の採集およびマーカーとなるプライマー設計,空中からの散布対の回収・培養を行った.材料の蘚類アカイチイゴケPseudotaxiphyllum pohliaecarpumを広島県およびその周辺で野外で採集し,実験に用いた.これまで近縁種のPlagiotheciumで変異が認められている葉緑体rbcLおよびrps4について既存のプライマーセットを用いてPCR増幅を行い,シークエンスを行った.この結果,種内ではrbcLについては変異が認められなかったが,rps4については,4つのハプロタイプが検出された.また,葉緑体ゲノムの全体の増幅を行うべく,クロゴケ用に開発中のLA-PCR用プライマーを用いて増幅の可否を検討した.その結果,全体の約60%にあたる部分の増幅が確認されたが,複数の産物が認められたり,わずかな量しか増幅ができなかったものもあった.予想されていたよりも増幅効率が悪かったことから,現在新たにプライマーを設計して,増幅を試みている.また,rbcL-rps4の領域については,予備的なサンプリングで得られた複数の材料で確実な増幅が認められたため,シークエンスを行い,多型の検出を試みた.空中からの散布体についても,効率は低かったが複数の株が得られ,rbcLを用いたDNAバーコーディングにより地上で得られる材料と同じハプロタイプを持つことが明らかになった.また,野外調査の際に新産種などが確認された.これらの成果について複数の学会および論文で発表を行った.予算については,震災による影響を考慮して予備的採集の場所を多くしたため,人件費・謝金の支出が少ない一方,旅費が多くなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
予備的サンプリングおよび空中からの散布対の回収・培養については,ほぼ予定通り研究を進めることができたが,マーカー開発でやや進行の遅れがあった.これは,クロゴケ用に開発中のプライマーセットが,系統的に異なっていたりゲノム構造の改変が存在することが実験を進める間に明らかになったため,本研究の材料であるアカイチイゴケに予想されていたよりも適合せず,次世代シークエンサによる解析まで進めることができなかったことによる.対策として,新たなプライマー設計を行い,一部の進行の遅れは補うことができている.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は,平成23年度で計画よりも遅れている葉緑体ゲノム増幅用のプライマーセットの設計を早急に行い,葉緑体ゲノムのシークエンスを行う.60%程度の領域についてはすでに増幅が確認されているプライマーを用いて,シークエンスのための実験を進める.残りの領域については,新たにプライマーを設計することで実験を進める.また,過去の調査や標本からアカイチイゴケの分布を明らかにし,標本にもとづいた予備調査およびサンプリングを行う.平成24年度は西日本を中心に比較的離れた複数か所の調査地を選定する.また,平成23年度に行われた大学間協定を活用して,東南アジアでの予備的調査も予定している.分子マーカーによる集団レベルの解析を行うため,各場所で複数個体を採集し,乾燥または凍結保存した材料を実験に用いる.各地でのサンプリングと並行して,空中に浮遊する散布体についても引き続き細く・培養し,研究に用いる.得られたサンプルについてハプロタイプを決定し,比較する.これらの実験は平成23年度にコケ植物用に設計したプライマーのうち,多型が認められた領域を用いて実験を進める.平成25年度以降は基本的に交付申請書に従って研究をすすめる.平成23・24年度で調査できなかった地域についてサンプリングを行い,ハプロタイプの決定を行う.また,集団遺伝学的な解析も進める.最終年度の平成26年度には,平成23-25年度で得られた結果をもとに,野外および空中から得られたサンプルについて分子系統地理学的解析を行う.また,これまでの結果に基づいて地理的構造の解析を行う.葉緑体DNAハプロタイプ間の系統関係を明らかにするとともに,地域集団の関係や多様性を明らかにする.最終的に初年度以降に得られたデータをまとめて,日本列島における蘚苔類フロラの成立過程に関する総括を行うとともに,得られた結果をとりまとめ成果発表を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在の予定では,平成24年度以降の研究費使用の費目別内訳に大きな変更は予定していない.現在,消耗品を中心とした物品費と野外調査のための旅費,実験補助のための人件費・謝金,計算サーバ等の利用のためのその他の費目としている.ただし,物品費については,震災の影響で一部の執行を変更あるいは遅れがあったため,平成23年度に使用していない予算の範囲で,物品費については予定よりもやや増加するとともに,必要に応じて調査旅費および実験補助のための人件費・謝金を増額する可能性がある.
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[Journal Article] A note on Pottia intermedia (Turner) Furnr. (Pottiaceae, Bryopsida) with special reference to its phylogeny and new localities in SW Japan.2011
Author(s)
Inoue, Y., Tsubota, H., Kubo, H., Uchida, S., Mukai, S., Shimamura, M. & Deguchi, H.
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Journal Title
Hikobia
Volume: 16
Pages: 67-78
Peer Reviewed
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[Journal Article] The phylogenetic position of Vandiemenia ratkowskiana (Metzgeriales, Marchantiophyta)2011
Author(s)
Masuzaki, H., Furuki, T., Dalton, P. J., Tsubota, H., Seppelt, R. D. & Deguchi, H.
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Journal Title
Hikobia
Volume: 16
Pages: 51-57
Peer Reviewed
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[Presentation] Molecular phylogenetics and ordinal relationships of bryophytes as inferred from a large-scale dataset of chloroplast rbcL sequences of bryophytes2011
Author(s)
Tsubota, H., De Luna, E., Kubo, H., Masuzaki, H., Oguri, E., Mohamed, H., Suleiman, M., Dalton, P. J., Seppelt, R. D., Yong, K. T., Itouga, M., Shimamura, M., Estebanez, B. & Deguchi, H.
Organizer
XVIII International Botanical Congress (IBC2011)
Place of Presentation
オーストラリア・メルボルン
Year and Date
2011年7月23-30日
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