2012 Fiscal Year Research-status Report
比較分子系統地理学によるカブトガニと共生ウズムシの共進化および集団史の解明
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23770090
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
西田 伸 宮崎大学, 教育文化学部, 講師 (40423561)
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Keywords | カブトガニ / カブトガニウズムシ / 共進化 / 分子系統地理 / インドネシア / フィリピン / 台湾 / 東アジア |
Research Abstract |
本研究はアジア地域に生息するカブトガニ類(カブトガニ、ミナミカブトガニ、マルオカブトガニ)とその寄生性プラナリアであるカブトガニウズムシ類を対象に、比較系統地理学的手法により、宿主と寄生者間の共進化の有無とその進化史の解明を目的としている。これまでに東南アジア地域、特にインドネシアとフィリピンを中心にカブトガニ類の分布状況とウズムシ類の寄生状況について調査した。結果、インドネシア・東カリマンタンおよびスラバヤにおいては3種のカブトガニ類がほぼ同所的に生息するが、カブトガニの個体数は他種に比べ極めて少ないこと、ミナミとマルオはほぼどの地域においても同所的に見られること、フィリピン・パラワン島においてはカブトガニのみが生息し、これまでカブトガニ類が生息するとされていたフィリピン・ルソン島中西部沿岸に本種群の生息を示す証拠がないことなどが確認された。カブトガニウズムシ類については、調査された全ての地点において虫体が得られ、このほぼ全てが本種群の初記録である。 カブトガニウズムシ類の系統推定において解析対象としたmtDNA COI遺伝子の配列は未知であったが、既知ウズムシ用プライマーセットを用い、PCR産物のクローニングを経ることにより本種群の配列を同定できた。この同定配列に基づき約300塩基を増幅する種特異的プライマーセットを開発し、各地域の各宿主から得られた虫体を解析した。その結果、ウズムシの既知2種を明確に区別することはできず、大きく3つのクレードに分岐した。内2つのクレードでは宿主との関係は入れ子状態であり、本種群の宿種特異性は高くない可能性が示唆された。一方、残るクレードはマルオカブトガニから得られた個体のみで構成されていた。寄生性ウズムシが示すこの系統関係は、宿主カブトガニ類における分化と再集合の歴史と一致するとみられ、氷期-間氷期イベントの影響が推測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年7月の申請者の異動に伴い、新たな実験室の立ち上げおよび役務の増加により実験・解析と学術論文の執筆に多少の遅れが生じた。一方で、複数の海外調査によりインドネシア5地域、マレーシア1地域(2地点)、フィリピン・パラワン島より、カブトガニ類および寄生カブトガニウズムシ類の試料を得ている。また台湾の共同研究者より台湾海峡・複数地点における試料を、さらに自身による国内調査により日本各地の生息地における試料も得ており、カブトガニ類については合わせて400個体以上を、寄生ウズムシ類についても100個体近くの試料を収集した。これは概ね当初の計画通りの成果である。カブトガニ類の系統地理学的解析については既にルーチン化しており、また海外共同研究者と解析を進めている。日本集団についてはミトコンドリアDNA解析に加え、マイクロサテライトDNA解析についても実験はほぼ終了しており、結果をまとめるのみである。ウズムシ類のDNA解析については、ミトコンドリアDNA・COI遺伝子の部分配列を同定し、特異的プライマーの作成を行った。まだ試料数は多くは無いものの、系統推定が可能となり、すでに新たな知見を見いだしている。進行にやや遅れがあるものの当初予定してした結果は概ね得られている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定していた地域における調査および試料の採集については概ね当初の目標を達成しているが、例えばインドネシア・スラバヤ地域においては先行研究によって生息が確認されている3種のカブトガニのうち、カブトガニ(Tachypleus tridentatus) については生息数が少なく個体が得られていない。また当初は計画に含めていなかった地域(例えばタイやベトナム)の試料についても解析の必要性はある。よって引き続き現地カウンターパートと連絡を取り合い試料収集に努める。 これまでカブトガニウズムシ類について、ミトコンドリアDNA・COI遺伝子の約300塩基の解析に成功しているが、より高解像度の解析を行うため解析領域を少なくとも600塩基以上へと伸長する。新しいプライマーの設計については既に着手している。なお研究計画には窒素・炭素安定同位体分析についてもこれを行う旨記述しているが、得られた虫体が小さいものが多いこと、ウズムシの腸内容物の取り扱い・処理に困難があること、またこれまでの研究の結果により、宿主特異性があまり高くない可能性が示唆されたことなどから、ひとまずは本課題における目的の多くを達成できる分子系統解析に注力することとする。最終年度を迎え、多くの個体を用いた解析を速やかに進め、これら結果について学術誌への投稿を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上述の調査旅費・謝金に加え、主にDNA解析(DNA抽出、PCRによる増幅、クローニングおよびシーケンス)に係る各種試薬・消耗品購入への支出を予定している。また論文投稿に係る諸費用(英文校閲・投稿料)の支払いにも利用予定である。
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