2013 Fiscal Year Research-status Report
比較分子系統地理学によるカブトガニと共生ウズムシの共進化および集団史の解明
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23770090
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
西田 伸 宮崎大学, 教育文化学部, 講師 (40423561)
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Keywords | カブトガニ / カブトガニウズムシ / 共進化 / 分子系統地理 / インドネシア / フィリピン / 台湾 / 東アジア |
Research Abstract |
本研究はアジア地域に生息するカブトガニ類(カブトガニ、ミナミカブトガニ、マルオカブトガニ)とその寄生性プラナリアであるカブトガニウズムシ類を対象に、比較系統地理学的手法により、宿主と寄生者間の共進化の有無とその進化史の解明を目的としている。 これまでにミトコンドリアDNA・コントロール領域およびマイクロサテライトDNA・8座位の解析により、日本のカブトガニ集団は福岡県糸島半島を境に、大きく西側と東側の2つの遺伝的グループに分かれること、また東側集団に属する山口県・平生湾集団(2007年試料)が強い遺伝的分化を示すことが示されている。本年度はこの平生湾集団について、サンプリング年度の異なる試料(2011年試料)を解析し、この検出された遺伝的分化が安定したものであるか否かを検討した。STRUCTURE解析の結果、2007年集団にみられた強い分化は、2011年集団には検出されず、サンプリングバイアスや、繁殖個体および孵化した幼生個体に対して何らかの偏りが生じていた可能性が示唆された。 カブトガニウズムシ類とカブトガニ類の比較系統解析については、ウズムシ類の解析個体数とその地域を追加して解析を行った。これまでのところ、昨年までの結果と同様に、カブトガニウズムシ既知2種を明確に区別することはできず、大きく3つのクレードが形成され、基本的に宿主との関係は入れ子状態であった。一部、マルオカブトガニから得られた個体のみからなるクレードがあり、このクレードの安定性についてはさらなる解析試料の追加が必要であろう。いずれにしても寄生性ウズムシ類が示すこの系統関係は、氷期-間氷期イベントと関連した、宿主カブトガニ類の種分化および地域集団の形成と、その後の再集合の歴史を反映していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
日本から東南アジアの広範囲の地域におけるカブトガニ類および寄生ウズムシ類の試料採取については、概ね計画通りに実行できた。一部地域については、該当種の生息頻度・密度が低いことが予測され、未入手の試料があるが、本研究の目的である系統比較においては大きく影響することはないと予測している。カブトガニ、特に日本における集団の遺伝的構造解析については、解析結果を検討したところ、いくつかのマイクロサテライトDNA座位における対立遺伝子の同定について見直しが必要であった。これまでにこの見直し作業は終了しているが、年度中に予定していた学術誌への投稿にやや遅れが生じた。寄生ウズムシ類の解析では、解析領域を伸長すべく実験を進めていたが、現在までに有効な結果が得らなかった。やや系統樹の解像度に不安が残るが、目的達成には十分であると判断し、解析領域はそのままに試料数を増やし解析を進めている。このように一部進行に遅れはあるが、概ね当初予定していた結果は得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
カブトガニ日本集団における遺伝的構造解析については、ほぼ解析を終えており、本年度に速やかに学術誌へ投稿する。寄生性ウズムシとの比較系統解析は、現在ウズムシから得られている配列がやや短いという問題があったが、上述の通り解析領域の伸長が困難であったこと、また当初の目的を達成できる結果が得られていることから、本年度は得られた結果をよ明瞭とするためのいくつかの試料の追加にとどめ、系統解析を進める。本年度末までに宿主の系統解析とあわせて学術論文をまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
カブトガニ日本集団の遺伝的構造について、mtDNAおよびマイクロサテライト(MS)DNAマーカーを用いて分析を行い、その解析結果を国際誌に投稿予定であったが、得られた解析結果を検討したところ、いくつかのMSマーカーにおいて対立遺伝子の同定を見直す必要があることが分かった。また寄生者-宿主間の比較系統解析においても、結果をより明瞭とするためにいくつか試料の追加が必要であると判断した。そのため、追加・再実験も含めて、データの再分析が必要となり、これらを含めた論文投稿に関する必要経費の未使用額が生じた。 比較系統/集団遺伝学的解析に関する論文の投稿における、いくつかの追加・再実験および論文投稿経費(英文校正・投稿費)に充てる。
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