2011 Fiscal Year Research-status Report
蛋白質内部の芳香環回転運動速度の核スピン緩和解析法の開発
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23770109
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
武田 光広 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任助教 (90508558)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | SAIL |
Research Abstract |
本課題ではタンパク質内部に存在するフェニルアラニン、チロシン残基の芳香環反転運動のCベータ、Cガンマ軸上における反転速度を幅広い時間領域において定量的に解析するNMR解析手法の開発を目標としている。フェニルアラニン芳香環の反転速度をCPMG緩和分散法により定量解析するうえで、芳香族炭素間のスピン結合は同実験の障害となる。そこで、本年度はまず芳香環のデルタ位の片側のみが、1H-13C ほかの芳香族炭素、水素はすべて12C,2Hとされたデルタ型SAILチロシン残基をウシ膵臓由来トリプシン阻害剤に取り込ませた試料を調製した。同調製試料を用いてNMRにより1H-13C HSQCを測定した結果、従来のデルタ型SAILチロシン残基により選択標識した試料と同様のスペクトルを与えた。同試料に対して600 MHz マシンを用いて1H-13C CPMG 緩和分散実験を行った結果、BPTI分子において表面に露出しており反転速度がマイクロ秒より明らかに早いフェニルアラニン4番、チロシン10番においてはCPMG周波数に依存しないピーク強度プロファイルが得られた。このことは解析の障害となるスピン結合が除去され同実験が正しく実施できることを保障している。次に50度にて500MHz,600 MHz,800 MHz マシンを用いてBPTI分子のチロシン23番を対象として CPMG 緩和分散プロファイルを取得した。その結果得られた緩和プロファイルに対して線形回帰による解析を実施した結果、反転速度が 1000 s-1 のオーダーとの結果が得られ、線形解析より見積もられた値とほぼ同じ値となった。この結果は同手法が正しく芳香環の反転運動を見積もれることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度はBPTI分子中に含まれる反転速度が既知の芳香環を対象として本考案手法の実証試験を実施することを予定していた。その点において、結果の概要にあるようにBPTI分子のチロシン23番の芳香環反転速度をCPMG解析により実施できたことから、予定通り進んでいると考えている。しかし、当初予想していなかった問題として、高磁場NMRマシンを利用すると、極度の化学交換の影響によりシグナルが広幅化してしまう問題が生じてきて CPMG解析が困難になるということが明らかとなってきた。そこで、本実験を比較的低磁場の複数のマシンについて行うことでこの問題を回避するようにした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、カルモジュリンタンパク質に含まれる8残基のフェニルアラニン残基を対象として、本開発手法を適用する。特に、本解析はカルモジュリンの単独状態のみならずMLCKペプチドが結合した状態についても実施し、カルモジュリンタンパク質の構造揺らぎがリガンド結合に伴いどのように変化するかを調べる点に焦点を置く。そこで、片側nのデルタ位のみ1H-13CとされたSAIL Phe を購入し、カルモジュリンタンパク質に取り込ませた試料を調製し、複数の磁場でCPMG実験を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度は芳香環のデルタ位の片側のみが、1H-13C ほかの芳香族炭素、水素はすべて12C,2Hとされたデルタ型SAILチロシン残基を試供品として利用したため、初年度計画していた研究費は発生しなかった。次年度は、同タイプのフェニルアラニンを利用するため繰り越した研究費も含めてその大部分はアミノ酸の購入に充てる予定である。
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