2011 Fiscal Year Research-status Report
核磁気共鳴法による巨大蛋白質の立体構造の新規解析法の開発
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23770111
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
宮ノ入 洋平 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任助教 (80547521)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 核磁気共鳴法 / 高分子量蛋白質 / SAIL法 |
Research Abstract |
当該年度において、まず、SAIL芳香族アミノ酸を選択的に導入したMSG蛋白質の調製方法の確立を行った。調製にあたり、代表者は、まず試験管内蛋白質合成法やsingle protein production法の利用を検討した。しかしながら、発現量の低下や、SAILアミノ酸の標識率に問題があり、NMR法に供すのに十分なMSG試料を得ることは困難であった。そこで代表者は、汎用な大腸菌生合成法をもとに、SAILアミノ酸標識試料の調製に向けた、培養方法の改良を行った。その結果、MSGの発現量を損なうことなく、SAILアミノ酸を高効率かつ特異的にMSG内に取り込ませることに成功した。 次に、SAIL芳香族アミノ酸標識MSGをNMRに供し、Aromatic CH TROSYの測定を行った。その結果、従来の手法では観測し得なかったMSG中の芳香環CHシグナルを高感度かつ先鋭的に観測することに成功した。さらに、個々のアミノ酸に対して変異を施した試料を用意して、芳香環CHシグナルを配列特異的に帰属した。具体的には、TrpをPheやTyrに、PheをTyrやLeuに置換した。各々の変異体について、Aromatic CH TROSYを測定し、野生型のスペクトルと比較することにより、シグナルの帰属を行った。一部のPhe残基に関しては、アミノ酸変異により、MSGの不安定化を引き起こしてしまい、シグナルを帰属することは困難であった。これらの残基に関しては、SAIL芳香族アミノ酸とともに、ILVメチル基を標識したMSGを利用することで、メチル基との間のNOEを利用して帰属を決定することができた。これにより、MSG中に存在するTrpおよびPheに由来する芳香環CHシグナルをすべて帰属することができた。 また、ILVメチル+SAIL芳香族アミノ酸標識MSGをNOESY実験に供し、NOE解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本課題申請時の計画では、当該年度にSAIL芳香族アミノ酸標識されたMSG蛋白質の調製法を確立する事、Aromatic CH TROSYの測定及び芳香環シグナルの帰属をする事が予定されていたが、順調に進めることができた。次年度に計画していたNOESYの解析にも着手することができ、計画以上に進展することができた。 SAILアミノ酸標識試料の調製においては、大きな進展が得られた。従来、SAILアミノ酸を目的蛋白質に導入するには、試験管内蛋白質合成法やsingle protein production法が利用されていた。これらの手法では、添加したアミノ酸が代謝制御されることなく、目的蛋白質に取り込まれる。しかし、通常の大腸菌生合成法に比べて、発現量が低下することが多々あり、万全な方法ではなかった。本課題では、通常の大腸菌生合成法を用いて、SAILアミノ酸を高効率かつ特異的に標識する方法を確立した。従来の方法に比べ、目的蛋白質の発現量を損なうことはなく、特異的にSAILアミノ酸標識された蛋白質試料を調製することができた。添加するアミノ酸量も15mg/L程度に抑えることができ、経済性にも優れている。既に芳香族アミノ酸のみならず、半数以上のアミノ酸を個別に導入できることを確認しており、汎用性の高い、次世代のアミノ酸標識技術として、発展が期待できる。 Aromatic CH TROSYの測定では、SAIL標識技術とTROSY法を組み合わせる事で、非常に高感度に芳香環シグナルを検出できることができた。当該年度においては、分子量82kDaのMSGを対象としてきたが、100kDaを超える巨大蛋白質複合体にも適用できる可能性が出てきた。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、帰属の確定したPheおよびTrpの芳香環シグナルをもとに、NOE等の原子間距離情報の抽出を進めていく。ILVメチルとSAIL芳香族アミノ酸を同時に標識したサンプルを利用し、3D-13C edited NOESY測定を行っていく。これにより、メチル‐芳香環CH及び芳香環CH-芳香環CHについて、NOE情報を取得していく。また、3D-15N edited NOESY測定も行い、アミドプロトンと芳香環CHとのNOEについても解析をおこなう。NOEの解析においては、シグナル同士の重なり合いにより、一義的に帰属することが困難な場合も考えられる。このような場合は、4D-13C,13C-NOESYの測定を行う。また、当該年度に確立したSAIL標識試料の調製法を活用し、ILVメチルを個別に標識した試料を調製し、NOEの解析に供すことも計画する。より多くのNOEが必要な場合は、Ala等の、メチル基を有する他の残基やTyr及びHisについてもSAILアミノ酸を準備し、標識体を調製後、3Dおよび4Dの実験に供す。また、NOE以外の情報として、SAIL芳香族アミノ酸側鎖の二面角の情報や、芳香環CHの残余双極子相互作用に伴う角度情報の抽出も行う予定である。 立体構造決定のための束縛情報を集積したのち、立体構造計算を行う。MSGのように80kDaを超えるような巨大分子の構造計算に関しては、膨大な計算時間を要する可能性がある。このような場合、構造計算の専門家であるGuentert教授(Frankfurt大学)らの協力を得て、計算機環境の整備、計算方法等の助言をいただきながら、構造決定を実施する。順調に構造計算が進む見通しがつけば、MSG単体、MSG-グリオキサル酸複合体、MSG-グリオキサル酸-アセチル補酵素A 3者複合体の構造決定を行い、それらの立体構造と動態に関して詳細に検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度に確立したSAILアミノ酸標識法を利用することにより、少量のSAILアミノ酸で、効率よく標識サンプルを調製できることが可能となった。その結果、SAILアミノ酸をはじめとする安定同位体試薬の購入量を、当初の計画より抑えることができ、次年度使用額が生じてきた。次年度には、当該使用額と申請時に請求した物品費を利用して、より多くの安定同位体試薬の購入を計画する。申請時の計画では、ILVメチルとSAIL芳香族アミノ酸を同時標識した試料を主に利用して、NOE解析を進めていくことになっていたが、SAILアミノ酸の種類や標識パターンを変化させた試料を複数作ることで、立体構造決定に必要なNOE情報をさらに容易に、効率よく抽出することが可能となる。次年度では、NOE解析を進めつつ、立体構造解析に最適な標識パターンの検討も行っていく。 立体構造計算には、多くの計算処理が必要となると考えられるので、計画通り、設備備品費を利用して、計算機クラスターの購入、構築を予定する。 また、研究成果の論文発表や学会発表も計画しており、旅費等を使用する。
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