2011 Fiscal Year Research-status Report
難関試料に立ち向かう生体系固体核磁気共鳴法ー光を使った高感度化
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23770114
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松木 陽 大阪大学, たんぱく質研究所, 助教 (70551498)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 高感度固体NMR / 動的核分極 |
Research Abstract |
光CIDNP効果による核分極の増大を観測するには試料をNMRプローブ中でラジオ波と同時にレーザー光照射する必要があり、プローブの改造とテストを行った。レーザー光の導入効率は溶液試料の光CIDNP効率を指標にしてチェックした。当初予定した試料管横方向からの光照射はラジオ波コイルが邪魔して効率が悪いと判明、試料管の軸方向から照射できる様に光ファイバーホルダーを設計、これと透明の試料管キャップの組み合わせで、初期的な測定に十分なレーザー導入効率を確認できた。試料温度は、電気冷凍機で得られる-80℃よりもかなり低くしないと、試料回転の熱のせいで、測定対象の分子を保持するマトリクスを透明に凍結できないと判明、新たに液体窒素を使った熱交換システムを構築した。光CIDNPによる核分極の増強は固体試料でも起こるが、これまでに報告がある様な光合成蛋白質の活性中心の様な特別な系でなくても、電子受容/供与体になる分子の組み合わせとマトリクスを適切に選ぶと、ありふれた小分子系でも起こるはずである。これを実証するため、本年度は電子受容/供与体として(ヒスチジン、トリプトファン、タイロシンとそれぞれのアセチル化体)/(リボフラビン、フラビンモノヌクレオチド) の全組み合わせ、マトリクスにグリセロール/水系、フルクトース/水系を挙げ、濃度、温度、pHを振って至適条件を探索した。結果、ヒスチジン/フラビンモノヌクレオチドのペアで、グリセロール/水中、飽和濃度に近い100mM程度、-180℃付近でCIDNPによる核分極の増大を観測した。理論からは電子受容/供与体分子間の距離は10Åくらいが最適と予測しており、この濃度における両者の平均距離とよく合う。核分極の増大率は現在2-3倍程度であるが、固体系で、単純な小分子ペアでもCIDNPが起こると初めて実証する画期的なデータである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り装置の改造とテストは初めの数ヶ月で完了した。これまでに知られている様な、光合成たんぱく質の活性中心の様な特別な系だけでなく、ありふれた小分子の組み合わせでもCIDNPによる核の超分極が可能だと、まず実証するのが本年度の目標であった。ここにおいて、いくつかの電子受容/供与体ペアとマトリクスについて濃度、温度などを振って精査した結果、期待どおり小分子ペアが固体マトリクス中でCIDNPを引き起こすことを見つけた。つまり電子受容/供与体を極高濃度で溶解し、ペア間の距離が充分小さくできさえすれば、CIDNPが起こると言う事である。H24年度からは、次のステップとして候補分子のペアを共有結合する計画であったが、その準備を既に始めることができている。現在、合成経路が比較的単純なタイロシン/フラビンのペアを結合する前段階、アミノ酸への保護基の導入、精製まで済んでおり、当初の計画よりやや進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
H23年度は、ラジカルペア間の距離が充分小さいとCIDNPが起こりうる、光合成蛋白質の活性中心の様な特別な分子系は必要ない、と証明した。本年度から、有望ないくつかの電子受容/供与体ペアを共有結合で結び、強制的に距離制限を満たす「分極剤」の開発に本格的に着手する。これはH24年度初頭からH25年度中頃までにかけて行う。結合の長さ、種類、化学基のかさ高さなどを利用して、距離だけでなくペアの空間的な配向も精密に制御し、CIDNP効率の向上をめざす。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
化学合成のための器具、試薬の購入、場合によっては合成の外部発注が主な支出になる計画。核の高分極化は固体NMRスペクトルの高感度化に有用で、近年特に注目度が高いが、新しい分野のために現場のノウハウも、まとまった文献や本も少ない。海外の学会などは重要な情報源になるので積極的に参加する。
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