2012 Fiscal Year Research-status Report
難関試料に立ち向かう生体系固体核磁気共鳴法ー光を使った高感度化
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23770114
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松木 陽 大阪大学, たんぱく質研究所, 助教 (70551498)
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Keywords | 固体NMR / 高感度化 / 可視光レーザー / 動的核分極 |
Research Abstract |
昨年度は、種々のアミノ酸とフラビンモノヌクレオチド(FMN)など色素分子の高濃度混合試料を研究し、CIDNP現象には電子受容/供与体間の距離を小さくすることが重要だと結論した。そこで今年度は、昨年度中に絞り込んだ候補分子ペアについて、両者を化学的につないだ「分極剤」の合成を本格的に開始した。ヒスチジンとFMNをつなぐ過程は副産物が多く目的の物を単離できなかった。一方、イミダゾールとFMNのペアでは成功し、黄色針状結晶として約50mg得たが、期待したCIDNP現象は観測できなかった。分子内での受容/供与体間距離などを検討する。また、試料管の高速回転に伴って光ファイバの位置がずれ、光が試料管の奥まで届いていない可能性もある。そこでファイバ埋め込み型の試料管キャップなどを新たに開発した。 光で励起常磁性種が発生するなら、CIDNP効果以外にも核分極の緩和促進効果を利用でき、信号積算の高速繰り返しによって単位時間の感度を向上できる。今年度は、まずグリセロールマトリクスに各種色素を溶解、-180℃付近で光照射する実験で、核スピンの緩和を最大1.5~2倍まで加速できると確かめた。現在はこれを一歩進め、電気冷凍機で容易に得られる-80℃付近でも同様の効果が観測できないか挑戦している。液体窒素と熱交換器が必要な-180℃の測定に比べ汎用に向くからである。グリセロールは硬く透明なマトリクスを-100℃以下でしか形成しないので、フルクトース、トレハロース、キシリトールなどの糖類を探索した。これまでに、キシリトールマトリクス、-80℃で透明なグラスマトリクスが得られ、1.5倍程度の緩和促進効果が観測できている。この温度では分子運動を完全に凍結できず溶存酸素などが絡む副反応がある様で、色素分子が時間とともに劣化する問題も見つけた。今後は効果的な脱気法や酸素スカベンジャーの探索も行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電子供与/受容体分子を化学的につなぐ試みを、当初の計画通り開始できた。副産物の制御や精製に苦しめられており、今のところ試みた合成の半分は失敗に終わっているが、今後は少しずつ歩留まりが上がると期待している。これは予定通りH25年度中頃までかけて完成させていくつもりである。 励起常磁性種による緩和促進に起因する感度増強効果も、当初の期待通り観測することができた。少なくとも-180℃の条件では、既に現実的に役に立つ技術だと言える。さらに、この現象をもっと高温条件(-80℃付近)で実現できないかも考え始めた。初期的な実験では好意的な結果を得ている。溶存酸素分子などが絡む光化学反応が邪魔をする可能性が示唆されており、起こっている現象のより深い理解と、対処法を探している。 研究は、ほぼ当初の計画予定通り進行しているし、新たな発見から深化もしている。
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Strategy for Future Research Activity |
H25年度は「分極剤」の合成とテストを計画通り継続する。結合の長さ、種類、化学基の嵩高さを利用した角度の制御など、より高度な設計も試みる。 これとは別に、ポリエチレングリコール(PEG)や脂質分子などの「頭部」に、電子受容体を結合したもの、電子供与体を結合したものをそれぞれ合成し、それらの混合試料でミセルを作ることで両者を近づける、計画時には無かったアイデアも実行したい。修飾の異なる複数のPEG分子などを合成しておくと、ミセル化させるだけで多くの受容/供与体のペアを高速に、また簡便に探索できる可能性がある。また、ミセル試料そのものが実際の応用に使える可能性もある。光を散乱しすぎないかなど、実用的な面の検討も必要になるだろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(1 results)