2011 Fiscal Year Research-status Report
リバースグライコミクス的手法を用いた抗癌剤耐性獲得の簡易迅速診断法の開発
Project/Area Number |
23770120
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
中の 三弥子 広島大学, 先端物質科学研究科, 助教 (40397724)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 糖鎖 / 癌 / 構造解析 / 薬物耐性 / 白血病 / 微小管脱重合阻害薬 |
Research Abstract |
抗癌剤耐性獲得の簡易迅速診断法の開発のために、1年目は、抗癌剤耐性獲得で変化する、つまり抗癌剤耐性マーカーとなり得る分子の探索を行った。本研究ではその標的分子を癌細胞の膜上糖タンパク質糖鎖にした。そのための癌細胞に急性リンパ芽球性白血病細胞株(CEM細胞)を、抗癌剤にデオキシエポチロンB(微小管安定化薬、dEpoB)、パクリタキセル(微小管安定化薬、TAX)およびビンクリスチン(微小管重合阻害薬、VCR)を選択した。それぞれの抗癌剤において耐性を示すCEM細胞を作成し、それらの膜上糖タンパク質の糖鎖構造を解析した。300 nM dEpoBに耐性を示したCEM細胞(CEM/dEpoB300細胞)では、これまでの結果と同じく抗癌剤耐性を獲得する前のCEM細胞と比べて、alpha2-6シアル酸を持った糖鎖が減少していることが確認できた。本年度では、5 nM TAXに耐性を持ったCEM細胞(CEM/TAX5細胞)と3 nM VCRに耐性をもったCEM細胞(CEM/VCR3細胞)の膜上糖タンパク質糖鎖の構造解析も行った。CEM/TAX5細胞では、CEM細胞と比べて全く変化はなく、CEM/VCR3細胞においては、alpha2-6シアル酸だけでなくalpha2-3シアル酸を持った糖鎖も減少していることがわかった。糖鎖構造の変化が観察されたCEM/dEpoB300細胞とCEM/VCR3細胞において、それらの変化は、N型糖鎖上だけでなくO型糖鎖上にも及んでおり、さらに、細胞膜の全ての糖タンパク質上でもおきていることを明らかにした。また、本年度では、CEM/dEpoB300細胞の糖鎖変化の機序解明も行い、alpha2-6シアル酸を付加させるalpha2-6シアリル糖転移酵素のmRNAの減少によるものであることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、1年目に抗癌剤耐性獲得で変化する膜上糖タンパク質糖鎖を探索するために、抗癌剤として、デオキシエポチロンB(微小管安定化薬)、ビンクリスチン(微小管重合阻害薬)、メソトレキサート(葉酸代謝拮抗薬)およびダウノルビシン(DNAポリメラーゼ阻害薬)を挙げていた。しかし、これらは作用機序が異なるため糖鎖構造の変化との関連性が複雑になってしまうと考え、本研究では微小管をターゲットにする数種の抗癌剤を用いることにした。それにより選ばれたのが、デオキシエポチロンB(微小管安定化薬)、ビンクリスチン(微小管重合阻害薬)およびパクリタキセル(微小管安定化薬)の3種である。全く同じ作用機序を持つデオキシエポチロンBとパクリタキセルにおいても、糖鎖構造の変化が異なっていることがわかった。当初の計画通り、1年目において、癌細胞株を用いた抗癌剤耐性獲得による糖鎖構造の変化を調べることを完了した。本年度の最後に、当初の計画にはなかったが、CEM/dEpoB300細胞のalpha2-6シアロ糖鎖減少の機序の解明も行った。このCEM/dEpoB300細胞の糖鎖変化の結果とその変化した糖鎖の機序解明に関する結果を、本年度に論文発表した。よって、当初の計画以上に進んでいると評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
1年目で得た結果は、CEM細胞株を使った時の糖鎖構造変化およびその変化の機序解明であった。2年目は、当初の計画には示していなかったが、CEM/VCR細胞の全シアロ糖鎖減少の機序の解明を初めに行う。その後、当初の計画どおり、安全、迅速、簡易な急性リンパ性白血病の抗癌剤耐性獲得診断法の開発をするために、患者血液から単離した白血病細胞を用いてその糖鎖変化を調べる。初めに健常者、急性リンパ性白血病患者、抗癌剤耐性の急性リンパ性白血病患者の3種の血液を血球成分ごとに分けて、それぞれの血球上の糖鎖構造を調べる。そしてどの血球成分を用いた時が、明白な糖鎖変化が得られるのかを決定する。次に、決定した血液成分を用いて、迅速簡便な診断法の開発を行う。CEM細胞を用いた時の糖鎖構造変化が、患者血液中の白血球細胞でも観られる場合、白血病細胞上のシアル酸をマーカーとする診断法を検討する。例えば、血液をCD4抗体が結合した磁気ビーズと混合し、白血病細胞を捕獲する。CEM細胞株も含めて、白血病細胞はCD4を発現している。捕獲した白血病細胞にビオチン化シアル酸認識レクチンを作用させる。そしてアビジン結合HRP (horseradish peroxidase)を用いてシアル酸の定量を行い、その量より抗癌剤耐性獲得の判断を行う。2年目は、急性リンパ性白血病患者より血液の提供を受けることになるが、インフォームドコンセントをきちんと行い、患者個人のプライバシーと秘密保持を厳守し研究を行う。この結果をもとに社会に有益な形(例えば、診断測定ロボット開発)として還元する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
糖鎖構造解析のための小額の分析機器は、1年目で購入したので、2年目はそれを最大限に使用し分析を行う。質量分析装置は、広島大学の共同分析機器センターにある共有のものを用いるため利用料金を「その他」の費目より支払う。CEM/VCR細胞の全シアロ糖鎖減少の機序の解明のための細胞培養用試薬や、血液からの血球成分の単離キット、糖鎖変化を測定する抗体やレクチンは「物品費」の費目より支出する。本年度は最終年度であるので、得られた結果をとりまとめ、国内の学会で成果の発表を行う。
|