2011 Fiscal Year Research-status Report
フラグメントアセンブリ法の逆発想による新規フォールド予測法の開発
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23770174
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
千見寺 浄慈 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10420366)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | タンパク質 / 立体構造予測 / 非局所的相互作用 / フラグメントアセンブリ法 / 構造アラインメント |
Research Abstract |
新しい第一原理的タンパク質立体構造予測法の開発に向けて必要な解析手法の開発を行った。本研究の特徴は、現在最も有効であるとされている第一原理的立体構造予測の手法であるフラグメントアセンブリ法の逆発想に基づいている点にある。フラグメントアセンブリ法とは、局所的にエネルギーが安定な構造空間から構造探索をするものであるが、本研究ではその反対、すなわち非局所的にエネルギーが安定な構造空間から構造探索しようとする点に新規性がある。この手法の開発には、非局所的な相互作用が安定な構造とはどのようなものかを理解することが必要不可欠である。当該年度はこれを調べる道具として、まず、類似した二次構造のパッキングパターンを検知する手法である"配列順序に依存しない構造アラインメント法"を開発した。この手法の特徴は、二次構造を複数のベクトルで表現し、それを幾何ハッシングの手法で比較する点にある。この手法の性能を調べるため、大規模ベンチマークテストを行った。その結果、この手法は既存のどの手法よりも著しく優れていることが示された。この手法を用いて網羅的にタンパク質立体構造データベースに登録されている構造の比較を行ったところ、配列順序を無視した構造類似性には、疎水親水のパターンが大きく破られていることが多いということが明らかとなった。さらに、興味深いことに、フォールドは異なるが進化的関係性が示唆される例もいくつか特定することができた。これらの結果は、第一原理的立体構造予測の開発に不可欠な、タンパク質立体構造の物理化学や進化に関する新しい知見であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度はまず、最も優先順位の高い開発すべき解析手法である、配列順序に依存しない構造アラインメント法の開発を行った。開発した手法の有効性と性能を客観的に評価するために、SISYPHUS、MALIDUP、MALISAMデータベースを用いて、大規模ベンチマークテストを行い、既存の配列に依存しない構造アラインメント法との性能比較を行った。その結果、我々が開発したアラインメント手法は他の既存手法と比べると圧倒的に正しいアラインメントを出力できることが明らかとなった。さらに、この手法を用いて網羅的構造比較を行ったところ、今まで報告されていなかった類似構造の特徴や、新しい進化的関係性がはじめて明らかとなった。以上から、この手法の開発は高いレベルで達成できたと言える。一方で、この手法を用いた解析から得られた発見のおかげで、二次構造のパッキング様式を予測する新規スレッディング手法の開発に関しては、全面的な再考が必要になった。この手法は現在開発途中であり、現時点では達成度は高いとはいえないが、新しい発見に基づいてアルゴリズムを設計し直しているため、より本質を掴んだ手法を開発できると期待できる。一方、二次構造パッキングを変化させながら全体構造を鎖全体構造を構築するアルゴリズムの開発は、これらとは独立に行える研究であったので、当初の予定通り枠組みは完成し、現在改良を重ねている。以上から、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の成果の基づき、同じ二次構造のパッキングパターンをもつ構造ペアの物理化学的性質を抽出し、それらを法則化することによって新規スレッディング法を開発する。具体的には、配列順序に依存しない構造アラインメント手法によって得られたアラインメントを解析し、アラインメント領域において保存されている物理量を見出す。現在のところ、従来のようにアラインメントにおける残基ペアに着目すると保存されている量は見出せないが、疎水性コア全体の体積などに着目するとよく保存されていることを見出している。今後はさらに多角的にアラインメントを解析することにより、新たな保存則を見出し、新規スレッディング法のスコア関数ととも探索法を開発する。また、予想されなかったことであるが、開発した構造アラインメントを用いた解析によると、フォールドは異なるが進化的関係を示唆するタンパク質のペアが多数同定された。このようなペアの特徴付けを行うことで、より新規スレッディング法の性能が向上することが期待されるので、計画を若干変更し、これらの解析も同時に行う。さらに、開発した手法を統合した立体構造予測手法を開発し、ベンチマークテストを行い、その結果を批判的に検証することによって方法論の開発を行う。開発した手法の世界的なレベルを知るために、また、客観的に性能を評価するために、世界的規模で行われているタンパク質の立体構造予測コンテストに参加する。これらの結果も改良に反映させる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初予定ではH23年度は計算機クラスタを購入予定だったが、予定外に、当研究室の終了した他のプロジェクトからの計算資源提供を得ることができ、本研究課題の遂行のために優先して使うことができる計算機クラスタを得ることができたため、新たな計算機クラスタ購入の優先順位は下がった。また一方で、思いもよらない本研究の進展にともない、計算資源よりもむしろ人的資源が必要となった。特に、新たに発見したタンパク質の類似構造の特徴や、進化的関連性に関しては、これらをさらに掘り下げることによって、より当初の目的を達成できる可能性が高まると考えられるが、これは法則を発見するなどの作業が必要であるために、計算資源よりも、人的資源が要求される。以上のように、研究の進展にともない、研究計画の大枠は変わらないものの、アプローチの仕方が若干変更された。このような理由から、当初計算機クラスタに使われる予定だった金額を繰越金とし、次年度の研究費とあわせてリサーチアシスタントを雇用するための費用に当てることとした。その他は当初の予定通り、学会で成果を発表するための旅費、データのバックアップのためのハードディスク等を計上している。
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Research Products
(9 results)