2011 Fiscal Year Research-status Report
中性子結晶解析による構造揺らぎを含めたDNAの水和構造の解明
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23770176
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
茶竹 俊行 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (30383475)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 水和構造 / 揺らぎ / DNA / 中性子 |
Research Abstract |
本研究の目的は、DNAの水和構造中の水素原子を中性子解析により決定して、構造揺らぎまでも含んだ詳細なDNAの水和状態を明らかにすることである。本研究では新規要素として、高品質試料の作成、新型中性子回折計の利用と新しい中性子解析法を設定している。平成23年度は、実施計画である高品質DNA結晶の作成に必要なDNA合成とDNA結晶の作成を行った。さらに、新型中性子回折計の実験を別試料を用いて行い、本研究に必要な中性子解析法検討を行った。[(1)DNAの合成] 高品質試料の原料となる重水素化DNAの作成を目的として、DNA合成酵素を用いたDNA合成を行った。実験では、DNA合成中に起こる不必要なDNA合成エラーを防ぐために、制限酵素切断箇所を1箇所だけ含み、合成配列がグアニンとシトシンしか存在しない、特殊なDNAプライマーを設計した。これに加えてグアニン、シトシンの合成効率が良いDNA酵素を用いた。その結果、8M尿素ポリアクリルアミド電気泳動により、DNA合成の成功を確認した。[(2)DNAの結晶化] DNAの結晶化では、計画段階でX線データを得ていたDNAの立体構造を決定し、新しいZ-DNAの化学構造を発見した。そこではマグネシウムイオンやカルシウムイオンがZ-DNAと特異な相互作用をしており、DNAを用いたナノテクノロジーへの新たな知見が期待できる。中性子実験用の結晶は現在作成中である。[(3)新型中性子回折計の実験] 本研究ではJ-PARCに建設されたTOF型中性子回折計の利用を次年度以降予定している。J-PARCは東日本大震災により暫く停止したため、震災前に測定した生体分子(ヘモグロビン)の中性子測定結果を用いてデータ解析を行った。その結果、本研究に必要な中性子実験の手順を構築することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究目的は中性子解析によるDNAの水和構造の解明であり、23年度の研究計画は中性子実験に用いるDNAの合成と結晶化であった。手順の確立が遅れたためにDNAの量産化には至らなかったが、従来の合成法を改良した効率の良いDNA合成を実現できた。一方、大量合成の原料となるヌクレオチドの緑藻からの抽出は、ヌクレオチドが安価で入手可能となったため、原料入手のリスクは解決した。 また、24年度以降に予定しているDNAの中性子実験に先駆けて、新型中性子回折計の実験が実施できたこと、本研究の新規要素の一つである重水-軽水コントラストに必要な実験データが得られたことは、本研究の達成のプラス要因である。 以上を総合的に判断して、23年度は研究目的の達成に向けておおむね順調に進展していると結論できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、(1)DNA合成原料(重水素化ヌクレオチド)の緑藻からの抽出、(2)酵素合成による重水素化DNA合成、(3)DNAの結晶化、(4)DNAの中性子結晶回折実験を順に進めてる計画であった。 (1)については、重水素化ヌクレオチドが市販で入手できる様になり、本研究では(2)以降に注力することが可能となった。23年度は(2)のDNA合成を大量合成直前まで実施しており、(3)の結晶化はDNA量産後に即時実験可能となっている。今後は、DNAの量産化と結晶作成を進め、実験の最終段階である中性子回折実験を行う。 24年度は当初の計画通り、DNAの量産化と大型結晶の作成を行う。得られた結晶については中性子結晶回折実験のための予備実験を行い、良好な結果が得られた結晶を用いて本実験を行う。 また、最近我々が解析した中性子実験の結果から、生体分子の重水素化を行わない場合でも、我々の計画している水分子の重水-軽水コントラスト法が実現可能であることが分かった。この場合、精度は落ちるが重水素化DNAが必須ではなくなる。よって、通常DNAを用いた重水-軽水コントラスト法での解析も視野におき、実験を進めて行く。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度の主な研究費の使用計画を以下に記す。 [消耗品費] (DNA合成) 前項(今後の研究の推進方策)で説明した様に、緑藻からの重水素化ヌクレオチドの抽出は市販品で代用可能となった。よって、DNA合成においては(1)市販の重水素化ヌクレオチド、(2)DNA合成二用いるDNA鋳型、(3)合成用消耗品(DNA酵素など)、(4)DNA精製用消耗品を購入する予定。また、通常DNAの購入も行う。 (DNA結晶化、中性子実験) 結晶化用の試薬、プレート類及び結晶観察用の器具を購入する。中性子実験よとしては測定用サンプル管を購入予定。また、京都大学原子炉実験所で行う予備実験のための消耗品も購入する。 [旅費] 中性子実験を行う茨城県J-PARCに隣接した茨城大学の量子ビームセンターで、中性子実験用の準備実験と本実験を行うために、出張を行う予定。
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[Presentation] Time of Flight Neutron Crystallographic analysis of Human Carbonmonoxyhemoglobin2011
Author(s)
T. Chatake, N. Shibayama, S.Y. Park, K. Tomoyori, T. Hosoya, T. Ohara, K. Kusaka, K. Kurihara, I. Tanaka, N. Niimura, Y. Morimoto
Organizer
1st Asia-Oceania Conference on Neutron Scattering
Place of Presentation
エポカル筑波(茨城)
Year and Date
2011年11月23日