2011 Fiscal Year Research-status Report
長時間全原子シミュレーションによるタンパク質揺らぎの解明
Project/Area Number |
23770180
|
Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
渕上 壮太郎 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 助教 (00381468)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 生物物理 / 蛋白質 / シミュレーション / 揺らぎ |
Research Abstract |
タンパク質の複雑多様な揺らぎの実態,その動的機構,機能との相関を原子レベルで解明することを目的として,リジン・アルギニン・オルニチン結合タンパク質(LAO)のシミュレーションを1マイクロ秒の長時間に渡って実行した.シミュレーション結果からは,LAOが大きく揺らいでいる様子が観察され,100ナノ秒オーダーの遅い揺らぎが含まれていることが明らかとなった.LAOの2つのドメインの安定性より,この遅い揺らぎはドメイン運動が支配的であることが示唆された.シミュレーション結果に対して,Cα原子を対象とした「時間構造をもとにした独立成分分析(tICA)」を適用したところ,LAO主鎖の遅い運動をモードとして抽出することができた.遅い方から5つのモードが表わす運動を解析したところ,1つは全体的な運動である前述のドメイン運動であったのに対し,残りの4つは局所的な運動であった.局所的な運動が同定された部位について,主鎖二面角の変化や周辺残基との相互作用の変化を調べたところ,確かに遅い運動が生じていることが確認できた.これより,tICAが,タンパク質の遅い運動を,その運動が全体的であるか局所的であるかにかかわらず,うまく抽出することができる有用な解析手法であることが検証できた.tICAによる解析によって遅い運動として特定されたものは,ゆっくりと変化するものではなく,急激な変化が稀に起こるという特徴を持っていた.このような運動は,その発生の有無・頻度がシミュレーションごとに異なることが予想される.そこで,複数のシミュレーション結果を比較すべく,LAOの1マイクロ秒のシミュレーションをさらに3回実行した.また,tICAの解析結果をもとに,LAOの遅い揺らぎで鍵となっていそうなアミノ酸残基としてK186とF233を同定し,それぞれをアラニンに置換した変異体のシミュレーションを実行した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画では,リジン・アルギニン・オルニチン結合タンパク質(LAO)をターゲットとして,マイクロ秒スケールの長時間シミュレーションを実行し,その結果を用いて,(1) LAOの揺らぎのtICAによる解析,(2) LAOの遅い揺らぎで鍵となるアミノ酸残基の特定,(3) LAOの変異体のシミュレーション,という3つの課題に取り組む予定であったが,これらのいずれも予定通り実行することができた.
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続きLAOの解析を進めるとともに,2つ目のターゲットとしてマルトース結合タンパク質(MBP)を取り上げ,tICAの有用性のさらなる確認,および,解析手法としての確立を図るとともに,タンパク質揺らぎの実態解明,動的機構の理解を目指す.(1) LAOの長時間シミュレーション結果の解析: 複数の長時間シミュレーション結果に対して前年度と同様の解析を行い,タンパク質揺らぎの解析結果を比較検討する.複数のシミュレーション結果が同じ結果を与えることは考えにくく,LAOのタンパク質揺らぎの複雑多様な実態が一層浮き彫りにされることが期待される.(2) LAO変異体のシミュレーション結果の解析: LAOの揺らぎの鍵となるアミノ酸残基を推定し,変異体のシミュレーションを実行する.得られた結果に対して,野生型と同様の解析を行い,結果を比較検討することによって,変異の影響を調べる.(3) MBPの長時間シミュレーションの実行とtICAによる解析: MBPはLAOと同じファミリーに属し,基質の結合にともない大きな構造変化を示すタンパク質である.したがって,MBPのタンパク質揺らぎにはLAOと共通の特徴・メカニズムが存在することが期待される.一方,構成アミノ酸残基数は大きく異なることから,タンパク質揺らぎの全体像は大幅に違っている可能性が高い.以上のような点を明らかにするため,MBPの長時間シミュレーションを実行し,tICAをベースとしたタンパク質揺らぎの解析を行う.(4) MBP変異体のシミュレーションとその解析: LAOと同様に,MBPについてもタンパク質揺らぎの鍵となるアミノ酸残基を推定し,変異体のシミュレーションによってその妥当性を検証する.(5) 新規ターゲットへの展開: 余力があれば,本研究で提案する手法を他のタンパク質系にも適用し,タンパク質揺らぎと機能発現機構の解明に挑戦する.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費は,データの保存・解析に関わる消耗品に使用する予定である.国内旅費は,日本物理学会年会および分子科学討論会における研究成果の発表,および,実験家との研究打ち合わせのために使用する予定である.外国旅費は,Biophysical SocietyのAnnual Meetingにおける研究成果の発表のために使用する予定である.謝金は,投稿論文の英文校閲と実験家からの専門知識の提供に対して支払いを行う予定である.
|
Research Products
(6 results)