2011 Fiscal Year Research-status Report
細胞サイズのプロテオリポソームを用いた人工分泌細胞の刺激―分泌連関
Project/Area Number |
23770181
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
田所 哲 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (20389109)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | リポソーム / 膜融合 / SNARE |
Research Abstract |
我々は、細胞サイズの巨大リポソームに微小リポソームを含有させ、巨大リポソーム内にカルシウムイオンを流入させることで、微小リポソームと巨大リポソーム膜で開口放出様の膜融合を伴う分泌を誘導できる、人工分泌細胞の構築に成功した。しかしながら、この系はタンパク質を含まない系であるため、実在の分泌細胞とは異なるものである。そこで本研究では、この人工分泌細胞に、開口放出に関与するいくつかのタンパク質を導入することで、より実際の分泌細胞に近い人工系を構築し、開口放出の機構解明に資することを目的とした。初年度は細胞サイズの巨大プロテオリポソームにマスト細胞の開口放出に関与するSNAREタンパク質を組み込み、巨大プロテオリポソーム間で引き起こされる膜融合を可視化解析する系の構築を目指した。マスト細胞の分泌小胞にはVAMP8と呼ばれるSNAREが存在し、細胞膜にはSNAP23とsyntaxin3と呼ばれるSNAREが存在する。これら3つのSNAREタンパク質で開口放出の膜融合が引き起こされる。そこでこれらのSNAREタンパク質を大腸菌にタグつきタンパク質として発現させ、アフィニティカラムで精製後、リポソームに組み込んだ。リポソームへの組み込み方法としてはPautotらによって開発された油中水滴法を独自にアレンジしたもので作製した。SNAREタンパク質の巨大リポソームへの組み込みは、SNAREタンパク質に対する抗体を用いたウエスタンブロットとSNAREタンパク質を蛍光標識することによる画像解析により確認した。本研究により、巨大プロテオリポソームの新たな作製方法を開発することに成功した。今後、SNAREを介した開口放出の膜融合の詳細を明らかにするうえで有用であると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までのところ、細胞サイズの巨大SNAREリポソームを作製するところまで行っており、SNAREリポソーム間の膜融合に最適な条件を決定するまでには至っていない。当初の予定では、リポソームの脂質組成、SNAREの密度、粒子径等の観点から最適な膜融合条件を導き出すところまで行う予定であったことから、進行状況としてはやや遅れている状況と考える。遅れた理由としては、SNAREタンパク質が膜タンパク質であることから疎水性の領域が多く、そのために大腸菌内で不溶化しやすく、アフィニティ精製を行った時に十分な量のSNAREタンパク質を回収できる条件検討(大腸菌の種類、組み換えタンパク質発現用ベクターの種類、誘導開始剤の濃度、誘導を開始する際の大腸菌の密度、誘導時間、培養温度)に時間を要したこと。また、油中水滴法を独自にアレンジして、巨大リポソームにSNAREタンパク質を組み込んだ際に、リポソームそのものが壊れてしまう。あるいは、リポソームの粒子径が極めて小さくなってしまい、粒子径を細胞サイズに保ったままSNAREタンパク質を組み込む条件検討(SNAREタンパク質の濃度、塩濃度、ヒスチジンやグルタチオンの除去、界面活性剤の濃度、脂質の組成)が必要であったこと。さらには、得られたSNAREリポソームの量が少なかったことから、生成量を増やすための条件検討(リポソームに内包させる溶液の組成や濃度、遠心力の大きさ)が必要であったことなどがあげられる。
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Strategy for Future Research Activity |
構築した系を様々な条件下、例えば、組み込んだSNAREタンパク質の密度、リポソームの脂質組成、粒子径などを変化させることで、SNAREリポソーム間の膜融合活性との相関を明らかにする。またマスト細胞に発現しているCaセンサー分子synaptotagmin2を種々のカルシウム濃度下でリポソーム外液に加えることで、synaptotagmin2の役割とCa濃度依存性を明らかにする。次に得られた結果を基にして、細胞サイズの巨大プロテオリポソームに、小胞サイズの微小プロテオリポソームを内包させた人工分泌細胞の構築を行う。VAMP8が組み込まれた微小リポソームは、可溶化再構成法を用いて調整する。細胞膜側のSNAREタンパク質が組み込まれた人工分泌細胞は、VAMP8を組みこんだ微小リポソームとsyntaxin3とSNAP23を含む水性懸濁液を油層中に懸濁し、遠心により細胞サイズのVAMP8リポソーム含有巨大リポソームを得る。分泌活性の評価は、蛍光測定により行う。VAMPを組み込んだ分泌小胞リポソームの内部をローダミンで、リポソーム膜をNBDで標識したリン脂質で標識しておく。人工分泌小胞が人工分泌細胞の細胞膜と融合するとローダミンは放出され、分泌小胞膜のNBD標識リン脂質は人工分泌細胞の細胞膜に移行する。つまりローダミンの蛍光の消失と細胞膜のNBDの蛍光の増強を開口放出活性の指標とする。刺激は外液にCaイオン存在下でイオノマイシンを添加することで行い、タンパク質のない人工分泌細胞とSNAREタンパク質を含む人工分泌細胞で開口放出活性の比較を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
備品については、研究室として現在所有しているもので行う予定である。消耗品費としては1,334,383円、旅費としては300,000円、謝金としては100,000円、その他としては100,000円を計上した。具体的には、遺伝子工学と生化学関連の消耗品は、大腸菌やin vitroでSNAREタンパク質を発現させ、精製単離するために必要なものである。リポソーム調製用消耗品は、細胞サイズの人工分泌細胞を作製するためのリン脂質、界面活性剤、透析器具などである。蛍光色素は、人工分泌細胞の分泌活性評価に用いる蛍光色素および蛍光リン脂質である。期間内に得られた研究成果は、国内や海外で開催される学会で発表する予定である。また、関連の学会に出席することで情報を収集する予定なので、そのために必要な旅費を計上した。同時に、得られた研究成果を論文として発表する予定なので、そのために必要な英文校正費、印刷費を計上した。謝金はプロテオリポソーム調整の実験補助のためのものである。「次年度使用額」が生じた状況については、デンバーにて開催された米国細胞生物学会への出席を予定していたが、校務のために出席をキャンセルしたことから生じたものであり、消耗品費として今年度使用する予定である。
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Research Products
(10 results)