2011 Fiscal Year Research-status Report
単一細胞分泌サイトカインのリアルタイム定量法による免疫システム理解への挑戦
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23770189
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
白崎 善隆 独立行政法人理化学研究所, 免疫ゲノミクス研究グループ, 基礎科学特別研究員 (70469948)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 単一細胞測定 / 分泌測定 / マイクロウェル / 免疫システム |
Research Abstract |
本プロジェクトで採用した手法では、単一細胞を直径30μmのマイクロウェルに落とし込み、その内部でサイトカインを放出させて、マイクロウェル底面にあらかじめ固定化した抗体によって捕捉する。本手法ではこの捕捉したサイトカインをリアルタイムに検出するために、培地中に蛍光量子ドットで標識した検出用抗体を常在させ、全反射照明によるエバネッセント光によってマイクロウェル底面100-200nm近傍のみを励起することで、底面上に形成された捕捉抗体-抗原-検出抗体のサンドイッチ免疫複合体のみの蛍光を検出した。この際に使用したマイクロウェルの材質には、水と同等の屈折率を有するアモルファスカーボン樹脂:CYTOPを採用し、マイクロ構造体に干渉されない全反射照明を実現した。上記の手法を用いて、マウス肥満細胞株であるMC/9細胞にIgE受容体シグナル下流をホルボールジエステル:PMAによって刺激し、サイトカインの分泌を測定した。今回の測定においては、5000ウェル/30分の速度で測定を行い、刺激前1時間と刺激後9時間、計10時間の測定を達成した。刺激後9時間までの生存率は6割程度であり、生存が確認された1400細胞に対してCCL2、IL6の分泌を解析し、ほぼすべての細胞がPMAの刺激に応答していることが示された。これらのサイトカインの分泌シグナル量は個々の細胞で大きくばらついており、対数正規様の分布を示した。一方で分泌活性化を最大分泌シグナルに対する1/2量を分泌するまでにかかる時間として計測すると、CCL2、IL6共に活性化の分布は時間軸に対して正規分布様であり、2±2時間の間に95%の細胞が含まれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では(1)単一細胞からのサイトカイン分泌活性をリアルタイムに解析する手法の確立および(2)単一細胞からのmRNA発現量を多数の細胞に対して測定する手法の確立を目標とした。(1)の課題では、当初マイクロウェルをオイルにより密封することを計画していたが、検証の結果、オイルによる密封は細胞へのダメージが大きいことがわかった。また、オイルでの密封をしなくてもウェル間でのクロスシグナルはほとんど検出されなかった。これらの事実より、本手法ではウェルの中に細胞を落としこみ、全反射照明で観察する方法に帰着した。この手法の採用により、細胞に任意のタイミングで刺激を与えることも可能になった。一方で、(2)の手法で提案していた、ウェル中でオリゴdTゲルに細胞を封入し、cDNAを固相化する方法では、オイルでウェルを密封することを必要とすることから断念せざるを得なかった。しかしながら、本システムは上部開放型のマイクロウェルを採用したため、マイクロマニピュレータにより個々の細胞を回収することが可能であった。これにより、回収した細胞からのmRNA発現量をマルチプレックス定量PCRシステムであるBio Mark systemに測定し、48サンプルx 48遺伝子の発現量を測定可能とした。これらの成果から、本プロジェクトの現在までの達成度はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクトではこれまでに技術的基盤を創生することを達成した。今後の研究の推進方策としては、(1)本システムから得られる蛍光強度データから、単一細胞毎の分泌活性を抽出するための解析基盤の確立、(2)本システムを用いた免疫細胞の有する分泌活性のばらつきの程度の時空間的測定、(3)本システムの高時間分解能を生かした免疫システムの課題への挑戦が挙げられる。(1)蛍光強度データからの分泌活性情報の抽出を目指した解析基盤の確立に関して、本プロジェクトでは抗体による染色を基盤にしているが、抗体は瞬時に結合するわけではなく、個々の抗体固有の結合係数を持って、結合飽和時間までに結合を完了する。このとき、単位時間に結合する割合、結合速度は抗体が十分量であると仮定すると未結合の抗原量に比例する。このことから、本手法によって得られた蛍光強度データの時間微分を精度よく抽出することで、細胞の分泌活性を見積もることが可能となる。(2)免疫細胞の有する分泌活性のばらつきの程度の時空間的測定に関しては、すでに本年度においてもマウス肥満細胞株化細胞からのPMA刺激応答におけるサイトカイン分泌の時空間的ばらつきの評価を達成したが、PMAは細胞内のシグナルネットワークに直接作用しており、肥満細胞が有するIgE抗体刺激への応答を評価する。(3)本システムの高時間分解能を生かした免疫システムの課題への挑戦では、これまでに分泌機構が未確定であるインターロイキン-1およびインターロイキン18を対象にする。これらのサイトカインの分泌機構に迫るためには、細胞の状態を各種蛍光試薬によって同時に検出することが必須である。本システムは倒立型顕微鏡システムをベースに開発を行っているため、通常の蛍光観察を同時に行うことが可能である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度においては、上記に掲げた今後の研究の推進方策に基づき、免疫システムへの応用を主眼に研究を遂行する。本年度において148,437円の次年度使用額が生じたが、これは本年度複数回購入を予定していた検出用抗体等が予定よりも消費しなかったこと、また、抗体等の生体分子由来試薬は使用期限が短いために、なるべく使用する直前に購入することが望ましいことから、次年度の予算と合わせて購入することを計画した。さらに、次年度は多種類のサイトカイン測定が想定されるため、当初の計画よりも多くの種類の抗体を購入できるように配慮した。一方で、本プロジェクトで使用するマイクロウェルを形成したマイクロチップでは、免疫細胞に与える刺激分子の残留などを考慮すると使い捨てにせざるを得ないことがわかった。よって、次年度では計上していなかったマイクロチップ等作製消耗品代としての使用も計画している。
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Research Products
(9 results)