2011 Fiscal Year Research-status Report
Lys63型ポリユビキチン化修飾による細胞内シグナル伝達及び発癌機構の解明
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23770203
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
合田 仁 東京大学, 医科学研究所, 特任講師 (90361617)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 細胞内シグナル伝達 / 感染応答 / 発癌 |
Research Abstract |
K63型ポリユビキチン化は、標的因子をプロテアソーム分解には導かず、標的因子の活性制御を介して細胞内シグナル伝達の制御に関与する。特に、細菌やウイルス感染における細胞応答、一部の発癌過程において、K63型ポリユビキチン化の重要性が示唆されているが、ポリユビキチン化標的因子及びその制御機構については未知の部分が多い。そこで、本年度は、K63型ポリユビキチン化タンパク質を特異的かつ簡便に調製する手法の開発を試みた。K63鎖特異的に結合するTAB2由来ユビキチン結合ドメインにGST-tagを結合させたK63鎖結合プローブ(GST-NZF)を、大腸菌タンパク質発現系を用いて調製し、さらにGST-NZFをグルタチオンレジンに結合させアフィニティーカラムを作製した。このGST-NZFカラムを用いて、マクロファージ系Raw274細胞の抽出液からK63型ポリユビキチン化タンパク質の精製を試みた。精製したタンパク質を、K48またはK63型ポリユビキチン鎖を特異的に認識する抗体を用いたwestern blottingにより解析したところ、K63型ポリユビキチン鎖のみが高度に濃縮・精製されていた。したがって、このことはGST-NZFカラムによりK63型ポリユビキチン化タンパク質を特異的に濃縮・調製することができることを示しており、K63鎖タンパク質の大量精製方法を確立することに初めて成功した。現在、LC/MSを用いたプロテオーム解析により、精製されたK63鎖タンパク質の同定を行っている。また、細胞抽出液を用いたセルフリー系で、成人T細胞白血病(ATL)原因ウイルスHTLV-1由来のタンパク質TaxによるK63型ユビキチン化の誘導に成功した。今後、Tax誘導K63鎖タンパク質の網羅的同定を進めいく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、細胞内K63型ポリユビキチン化タンパク質を網羅的に解析することにより、感染応答及び発癌過程におけるK63型ポリユビキチン化の生理学的役割、その活性制御機構を解明することである。この研究目的を達成するためには、細胞抽出液からK63型ポリユビキチン化タンパク質を特異的かつ高濃度で、濃縮・調製する手法を確立することが必須であり、このことが本年度の研究計画における最大の目標であった。本研究代表者は、K63型ポリユビキチン鎖に特異的に結合する機能ドメインを用いたアフィニティーカラムを作製し、細胞抽出液からK63型ポリユビキチン化タンパク質を特異的に濃縮することに成功した。ただし、アフィニティーカラムでの精製・濃縮の際、溶解及び抽出溶液の塩濃度、pH、反応時間などの条件検討に時間を要したため、多少の研究計画の遅れが生じた。しかし、当初の計画通り、現在、精製・濃縮したポリユビキチン化タンパク質のプロテオーム解析を実施している。さらに、HTLV-1由来Taxタンパク質によるK63型ポリユビキチン化誘導のセルフリー系を確立し、それを用いたポリユビキチン化タンパク質の精製も進めている。しかし、本来、本年度中に完了予定であったポリユビキチン化タンパク質の網羅的同定は未完了であり、そのためSILAC法の適用も次年度に行わざるを得なくなった。しかし、本研究計画の遂行に必要な実験手法については本年度中に確立できたため、今後、研究計画は順調に遂行することが可能と考えられる。以上のことから、本年度の研究達成度として、やや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、マクロファージ系Raw274細胞の細胞抽出液からK63型ポリユビキチン化タンパク質を濃縮・調製し、それら修飾因子の網羅的同定をLC/MSを用いて行っている。同定されたポリユビキチン化タンパク質について、プロテオミクス的手法を用いた解析を行い、それら修飾因子が関与する細胞内代謝経路、シグナル伝達機構の発見を目指す。さらに、感染応答におけるポリユビキチン化の役割を明らかにするため、SAILAC法を適用することで、感染応答依存的に誘導されるK63型ポリユビキチン化タンパク質のプロテオミクス解析を行い、新しい感染応答の新規シグナル制御機構の発見を試みるとともに、感染応答に重要であるK63型ポリユビキチン連結酵素TRAF6と同定された修飾因子との関連性、シグナル複合体の形成、それら活性制御機構等を明らかにする。また、Tax依存的に誘導されるK63型ポリユビキチン化タンパク質の網羅的解析を行い、ヒトT細胞白血病の発症及び進展過程におけるK63型ポリユビキチン化修飾の役割について、特に発症・進展過程に重要な転写因子NF-kBの活性化制御への関連性を中心に解明を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究計画において、消耗品費の大部分を必要とする、本来遂行予定であったSILAC法を適用することができず、プロテオーム解析を完了することもできなかったため、これらの条件検討および解析は次年度に行う必要が生じた。また、それにより、本年度における学会、論文等における研究成果発表について、次年度にまとめることとなったため、旅費等の費用を使用することが出来なくなった。そのため、次年度に使用する予定の研究費が生じる結果となった。しかし、本研究計画の遂行に必要なタンパク質の濃縮・調製手法、Taxタンパク質を用いたセルフリー系などの実験方法は、本年度内にほぼ確立できたため、次年度での急速な進展が可能と考えられる。 したがって、次年度に使用する本研究費用及び次年度請求する研究費の合計330万円を以下のように使用する計画である。遅延した本年度の研究計画遂行分を含め、試薬・実験器具などの消耗品購入の物品費として270万円を使用する。さらに、本年度分の研究計画が終了した時点での成果発表、本研究終了時の成果発表に必要な費用として旅費40万円、少なくとも2報の学術論文の投稿に関する費用として20万円を使用する予定である。
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