2011 Fiscal Year Research-status Report
DNA損傷修復におけるユークロマチン領域のクロマチン制御機構の解析
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23770205
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
坪田 智明 京都大学, ウイルス研究所, 助教 (40538138)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ヒストンメチル化 / ヒストンアセチル化 / DNA修復 |
Research Abstract |
DNA損傷応答において、ヘテロクロマチン領域ではヒストンH3の9番目のリジン(H3K9)のメチル化修飾にATM-Tip60複合体が結合することにより、ATMの活性化が促進されることが報告されている。しかし申請者は、ユークロマチン領域のH3K9メチル化酵素であるG9aを欠損させた場合、ATM活性化は低下するどころか、逆に促進されることを見出した。このことから、ユークロマチンではヘテロクロマチンとは異なる損傷応答機構が存在することが示唆される。そのメカニズムとして、1)もしユークロマチンでもヘテロクロマチンと同じくヒストンメチル化に依存したATMの活性化が起きているならば、ユークロマチンではH3K9メチル化とは別のメチル化修飾がそれを行なっている、あるいは、2)これとは異なる制御機構が存在する、ことが考えられた。そこで1)の可能性を検討する為に、平成23年度はまずH3K9メチル化以外のヒストンメチル化修飾を用いてATMの活性化速度を解析した。しかし、いずれも影響を与えなかった。このことから、G9a欠損によるATM活性化の促進は、何らかの未知のメカニズムであることが考えられる。興味深いことに、申請者はG9aを欠損させた場合、DNA損傷応答に密接に関与するH3K56のアセチル化修飾が増加することを見出している。そこで、H3K56のアセチル化と競合する可能性があるH3K56のメチル化レベルを解析したところ、G9a欠損細胞ではこれが顕著に低下することがわかった。さらに精製したG9aおよびヒストンを用いてメチル化反応を行なった結果、G9aは直接的にH3K56をメチル化することを見出した。 最近、ユークロマチンにおける別のH3K9メチル化酵素としてESETが報告されている。そのためESET欠損細胞の機能解析を行なったところ、ESETはゲノム安定性に重要な役割を果たすことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度はまず、H3K9メチル化以外のヒストンメチル化修飾がATMの活性化に関与するのかについて検討した結果、活性化に影響は見られなかった。このことから、ユークロマチンではヘテロクロマチンとは根本的に異なるDNA損傷応答機構が存在することが考えられる。そこで次に、DNA損傷応答に密接に関与するH3K56アセチル化レベルを解析した結果、G9a欠損細胞ではこれが上昇することを見出した。そのため、G9aによるH3K56修飾の制御機構を明らかにすることが重要と考えられた。そこで平成24年度の研究計画を前倒しして、G9aとH3K56修飾との関連性を検討した。その結果、興味深いことに、G9aが新規のH3K56メチル化酵素であることを明らかにすることができた。以上のことから、本研究は、おおむね計画通りに進展していると考えている。今後、H3K9メチル化とH3K56修飾のクロストーク制御なども含めてその細胞内機能を明らかにすることにより、DNA損傷時におけるユークロマチン領域の損傷応等機構について明らかにしていきたいと考えている。 さらに、G9aとは別のH3K9メチル化酵素であるESETについても解析を進めており、ESETがゲノム安定性に必用であることを見出している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度は、ユークロマチン領域のH3K9メチル化酵素であるG9aが新たにH3K56のメチル化も行なっていることを明らかにすることができた。このことから、G9aを欠損させた場合、まずH3K56メチル化が低下し、その結果アセチル化レベルが上昇することが考えられる。H3K56アセチル化はクロマチン構造を緩める作用があり、DNA損傷修復に重要な役割を果たすことが報告されている。その反面、H3K56アセチル化が過剰に細胞内に存在した場合、クロマチン構造が緩まりすぎて染色体不安定性を引き起こすことも示されており、細胞内レベルが厳密に制御される必用がある。G9aは通常はH3K56をメチル化することでH3K56のアセチル化レベルを低く保つ機能があるのかもしれない。そこで今後は、H3K56修飾能を含めて、DNA損傷時におけるG9aの発現/機能について明らかにしたいと考えている。また、H3K9メチル化とH3K56修飾とのクロストーク制御機構についても、生化学的手法や次世代シーケンサーを用いて解析する。さらに、種々の癌細胞でH3K56アセチル化の亢進が報告されているが、これらの癌細胞におけるG9aの機能解析および機能制御を行なうことにより、癌化活性への影響について明らかにしたいと考えている。 ユークロマチン領域の別のH3K9メチル化酵素であるESETについても解析を行なった結果、ESETはゲノム安定性に重要な役割を果たすことを見出した。そのため、ユークロマチン領域におけるDNA損傷応答/修復機構の全貌を明らかにするには、ESETの機能解析についても進めることが重要と考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当研究室の所属長である眞貝洋一教授が平成24年度から理化学研究所に異動されたため、それに伴い研究室の備品などが半分程度に減少しました。そのため、平成24年度は本研究に必用ないくつかの備品を新たに購入する必用が生じ、急遽、平成23年度の研究計画を変更して当初予定していた支出(180万円)を半分程度にまで抑えました。その結果、約100万円を次年度使用額として計上しました。この次年度使用額を用いて、遠心機および電気泳動装置等の必用備品の購入を考えています。平成24年度請求予定の研究費(170万円)については、本計画通りに主に物品費に使用する予定です。
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Research Products
(1 results)