2011 Fiscal Year Research-status Report
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23770219
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
倉橋 洋史 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60508357)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | プリオン / 蛋白質 / アミロイド / 脳神経疾患 / 感染症 / 酵母 |
Research Abstract |
狂牛病等で知られるプリオンは、タンパク質のみで感染性を持つユニークな感染体である。その実体は、プリオンタンパク質PrPが作る特殊な構造のアミロイド線維である。同様に単細胞真核生物の酵母にも、タンパク質のみから成る感染性粒子、酵母プリオンが存在する。本研究では酵母プリオンを利用して、生体がプリオンを制御する分子メカニズムの解明を目的とする。 Rnq1タンパク質はグルタミン・アスパラギンをC末端側に多く含むタンパク質で、酵母プリオンの一種である[RNQ+]プリオンを形成する。[RNQ+]プリオンは他の酵母プリオン[PSI+](翻訳終結因子Sup35のプリオン)の形成を促進することが知られている。Rnq1のN末端100アミノ酸残基を欠損したRnq1Δ100タンパク質によって[PSI+]プリオンが消失することが明らかとなっていたが、N末端側のミスセンス変異タンパク質の発現によっても、[PSI+]プリオンが消失することを明らかにした。[PSI+]プリオンを消失させる複数のN末端側rnq1変異タンパク質の変異分布を調べると、αヘリックスに集中していることが判明した。さらに、[PSI+]プリオンの阻害過程を生化学的なアッセイ法および蛍光相関分光法を用いて測定、観察を行ったところ、Rnq1変異タンパク質によって[PSI+]プリオンが増大することが判明した。酵母は細胞分裂を行いながらプリオンを保持するために、プリオンの増大によってプリオンの核となるシード(たね)が娘細胞に伝播しないことでプリオンの阻害が起きている可能性があり、Rnq1変異タンパク質がそのプリオン制御システムを撹乱していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年の東日本大震災により研究室の物品や設備が大量に破壊された。さらには水道の確保、耐震の再補強など研究を開始するためには研究室のセットアップが必要であった。以上の不測の事態から研究の開始が遅れてしまったことが原因である。
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Strategy for Future Research Activity |
プリオン制御に働く細胞システム理解のため、プリオン阻害因子の解析を行う。(1)プリオン阻害因子の局在解析:酵母において、プリオンは細胞質に複数のドット状で存在している。プリオン阻害因子が局在する場所はその伸長反応の場の可能性があるので、プリオン阻害因子の詳細な細胞内局在の観察を行う。プリオン阻害因子のGFP融合タンパク質を作製し、各オルガネラに局在するmRFP融合タンパク質マーカーと共に観察する。ここで明らかにしたプリオン阻害因子の局在するオルガネラを乱す変異体や薬剤などを利用して、その場でプリオンが伸長するか検証する。(2)細胞応答の解析:プリオン阻害因子発現時に起きる細胞内応答を調査する。阻害因子は細胞に何らかのストレスをかけていることが予想されるので、ストレスマーカーを利用して、ストレス強度を測定する。熱ストレスや小胞体ストレスのマーカーはストレス誘導される遺伝子のプロモーター下にlacZ遺伝子を配置したプラスミドを利用して、βガラクトシダーゼアッセイによって測定する。これら2種類のストレスに影響がない場合はマイクロアレイによって遺伝子発現プロファイルを調べて、細胞応答の種類を明らかにする。ここで明らかにした細胞応答が直接プリオンの阻害に関与しているか、その細胞応答を刺激する既知の薬剤を用いて解析する。さらに、突然変異体等を用いて、その応答からプリオン制御に及ぼす一連のカスケードを明らかにする。(3)哺乳類プリオン感染細胞における酵母プリオン阻害因子の活性:酵母と哺乳類間においてプリオンを制御する細胞システムの共通性を検証する。哺乳類細胞の発現用ベクターに酵母プリオン阻害遺伝子を挿入して、プリオン持続感染細胞にトランスフェクションする。そして、プリオン阻害因子発現後のプリオン消失効果をウエスタンブロット法により確認する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は当初計画していた哺乳類プリオン感染細胞に対する研究を次年度に延期することによって生じたものであり、その延期した研究に必要な経費として平成24年度請求額とあわせて使用する予定である。
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