2013 Fiscal Year Research-status Report
真核細胞の細胞周期・細胞小器官特異的プロテオーム解析
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23770234
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
吉田 昌樹 筑波大学, 生命環境系, 助教 (10449308)
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Keywords | 細胞小器官 / プロテオーム / Cyanidioschyzon |
Research Abstract |
25年度もCyanidioschyzon merolae(シゾン)およびオイル産生藻類のプロテオミクスを進めた。シゾンにおいては、前年度行ったペルオキシソームの分裂装置に関する研究の細部を詰めてまとめ、米国科学アカデミー紀要に論文発表した(Imoto et al. 2013)。シゾンにおいてペルオキシソーム分裂装置の構成タンパク質を解析した結果、ペルオキシソームは分裂期にダイナミン(Dnm1)ベースの分裂装置により分断され、娘細胞に継承されることが明らかとなった。我々はこの複合体をperoxisome-dividing ring (POD machinery)と命名した。これは真核生物の単膜系オルガネラの分裂機構に関する初めての報告となる。 またタンパク質の機能解析に関連して、シゾンにおける遺伝子ターゲッティングの手法を確立し、PLoS ONE誌に報告した(Fujiwara et al. 2013)。この技術により、プロテオミクスで見出された任意のタンパク質をコードする遺伝子の破壊・置換が容易に行えるようになった。 海洋性のオイル産生珪藻類Phaeodactylum tricornutum(フェオダクチラム)においては、昨年度油滴から3つのタンパク質が同定されていた。さらに本年度プロテオームの手法を改良し、タンパク質の同定にLC/Q-TOF/MSを用いたところ、新たに複数のタンパク質が油滴より見出された。解析対象のタンパク質が当初の予定より多く得られたため、今後の研究で解析対象とするタンパク質の絞り込みを行うべく、リアルタイムPCRによる発現確認を進めている。当該研究内容の中間とりまとめとして、藻類学会第37回大会(船橋大会)にて発表を行った(米田ら、2014)。 炭化水素産生藻類であるAurantiochytrium(オーランチオキトリウム)においては、沖縄科学技術大学院大学との共同研究であるゲノム解読がほぼ完了した。解読の結果、オーランチオキトリウムのスクアレン産生系統であるNYH1株のゲノムサイズは約41Mbpであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述の通り、25年度は昨年度投稿中であった論文1報が受理され、また本研究から発展的に行われた研究内容の論文も1報受理された。成果目標とした論文3報は達成したが、引き続き申請者を筆頭著者とする論文の作成に力を入れる。当初の本研究計画では、シゾンにおけるタンパク質の時間・空間的分布の基盤的情報を広く把握することを主目的としたが、その過程でペルオキシソームの分裂装置という興味深い構造を見出したため、これに注目した研究を行った。また当初の研究計画には含まれていなかったが、プロテオーム解析後のタンパク質の具体的な機能解析の必要性に鑑み、シゾンにおける遺伝子ターゲッティング手法の開発も行った。 実験作業に関して、前年度は主に立教大学極限生命情報研究センターのAXIMA-TOF2を用いてプロテオーム解析を進めたが、25年度は筑波大所有のLC/Q-TOF/MSの調整を完了し、これを使用して解析を行った。その結果、フェオダクチラムの油滴プロテオーム解析において予想を超える数のタンパク質が見出され、研究計画の見直しが必要となったため、計画の延長申請を提出して受理された。25年度には研究の区切りとして学会発表を行ったが、引き続き論文の投稿を目的として実験及びデータの解析・整理を行う。 オーランチオキトリウムに関しては、ようやくゲノム解読が完了し、プロテオーム解析の基盤が整った状況である。現在は残るcontigの連結やORFの特定、遺伝子のアノテーション等を進めている。このゲノム情報を基盤として、オーランチオキトリウムの細胞周期における主要な時期(遊走細胞の形成期、スクアレンの産生期)における細胞内の変化を、プロテオームとRNA-Seqにより解析することを計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度はフェオダクチラムおよびオーランチオキトリウムにおけるプロテオーム解析を中心に行ってゆく。質量分析装置については筑波大のLC/Q-TOF/MSで十分な精度およびスループットの解析が可能になったため、これを利用する。 フェオダクチラムについては延長申請における計画の通り、蛍光抗体染色による局在観察やリアルタイムPCRによる解析を加え、多数検出された候補タンパク質の絞り込みと機能解析を進める。これらプロテオーム解析に相補的な解析を平行して行うことで、対象タンパク質の追跡を確実に行ってゆく。作業内容が増えるため、実験および論文作成に要する期間も長くなると予想され、スケジューリングに留意して成果をまとめてゆく。 オーランチオキトリウムに関しては、引き続き沖縄科学技術大学院大学の協力の下、RNA-Seqによる解析を加えて細胞内タンパク質の挙動を追う。時間軸としては、細胞数の爆発的な増加をもたらす遊走子形成期、および炭化水素であるスクアレンの蓄積開始期に重点を置き、RNA-Seq と、LC/Q-TOF/MSを用いたプロテオーム解析とを行う。これは、転写レベルとタンパク質レベルの解析を同時に行うことで、より詳細に細胞内の変化を捉えるものである。現在のところ、細胞全体のタンパク質を対象とした上でデータ解析を行う予定であるが、実験の結果によっては油滴など特定の細胞小器官を単離し、対象となるタンパク質を予め絞り込んだ上でプロテオーム解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度に珪藻フェオダクチラムの油滴プロテオームにおいて、予想を超える数の新規タンパク質が同定されたため、これを論文としてまとめるために再現実験および蛍光抗体染色による局在観察を行う必要が生じ、未使用額が発生した。 引き続きLC/MS分析に必要となる消耗品、および蛍光抗体染色に要する抗体・試薬類の購入、論文投稿に係る諸経費に未使用額を充てることとしたい。
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[Journal Article] Single-membrane-bound peroxisome division revealed by isolation of dynamin-based machinery.2013
Author(s)
Imoto Y, Kuroiwa H, Yoshida Y, Ohnuma M, Fujiwara T, Yoshida M, Nishida K, Yagisawa F, Hirooka S, Miyagishima S, Misumi O, Kawano S, Kuroiwa T
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Journal Title
Proc Natl Acad Sci USA
Volume: 110
Pages: 9583-9588
DOI
Peer Reviewed
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